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治る身体の異世界ライダー  作者: ツナサキ
三章 生きるために
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幕間2 見据える者

 「さっきの話、どういう事なの?」


 街中を歩くルーリアが同じく前を行くカルトへと投げ掛けるように声を出す。

 辺りは活気や喧騒に満ちており、その様相は近場に現れたはずの黒竜への不安などは含まれておらず賑やかである。そんな中をかき分けるようにしてルーカスが進み、それを追うようにカルト、そしてすぐ後ろにルーリアが張り付いていた。


 「待ちなさいルーリア。さっき僕が君に伝えた事は雑踏を進みながら話して良い事ではない。その話は後だ、それに目的地に着けばその疑問も解消されるさ」


 「……ふん」

 

 窘めるような言葉に気を悪くしたのかルーリアはカルトの後頭部から視線を切って雑踏へと向ける。だがその表情には気がかりが見て取れるような顔をしており、それを知ってか知らずかカルトは小さく溜息をついた。


 そうしてしばらく表道を歩いていると先導するルーカスが突然脇道へと逸れる。無論続く二人も後を追うが、脇道に入ったすぐ近くでルーカスは足を止めており、続いたカルトも足を止める。同じようにしてルーリアも脇道へ入るのだが、その瞬間ルーリアは奇妙な感覚に襲われる。


 「……何今の」


 「どうかしたかい?」


 「何か……全身に薄い膜みたいなのが全身に張り付いた感覚が、二回続けてあったんだけど」


 ルーリアは腕を擦りながら訝しげに呟く。

 それを聞いたカルトは何も感じなかったようで首を傾げながらルーカスへと向き直る。


 「それは『障壁』でしょう」


 視線を向けられたルーカスは近場に存在した建物の裏口のような扉を規則正しく叩きながらそう呟く。


 「我々がこれからここで話す内容は決して盗聴などされてはいけない事になります。故に干渉することが出来ないように魔法、スキル面の両方で遮断する障壁を張っているのです」


 「僕は何も感じなかったけど」


 「普通は感じませんよ、ましてや全身でだなんて……面白い力持ってますね」


 「……どうも」


 そう言って一礼するもルーリアは全く嬉しそうには見えない。


 「ベルウイング殿、そこの少女……感覚を強化する魔法だとか全身に何かを纏うようなスキルを持っていませんか?」


 ルーカスは扉を叩くのをやめ、『そこの』と雑に指差す。更に不機嫌そうになるルーリアを尻目にカルトは顎に手を持ってきながら不思議そうに、


 「いえ、ルーリアはまだスキルは使えないんですよ。魔法に至ってはヨル程では無いにせよからっきしでして……それなりに魔力はあるはずなんですがね」


 と呟く。

 するとルーリアは舌打ちをしながら余計な事は話すなといったような鋭い視線をカルトへと送る。それを流し目で確認したカルトは視線を正面にある扉へと戻す。丁度目線を戻した瞬間、扉はゆっくりと開く動作を見せて中からとある人物が出てくる。


 見るからに堅気ではない。

 そう思わせる程に恐ろしく鋭い目をした男であり、特に身分が見た目でわかるようなものは何も身に着けてはいなかったものの腰に携えた剣が異様な存在感を放っており、血で濡れたようにも見える赤黒い染みが更に不気味さを醸し出していた。


 「ルーカスにベルウィング現当主を確認……そっちの子供は?」


 感情を全く込めずに扉から出てきた男は不躾に言葉を発する。どう見ても危険人物の類ではあるが、不思議な事に周囲を圧迫するような存在感は無く、やろうと思えば人混みに紛れ込ませることも出来そうな雰囲気にルーリアは逆に警戒心を高めたようで小さく後退る。


 「こちらは貴方と同じ我らの同胞です。心配事はありませんよ」


 「……」


 カルトの言葉にしばしの間沈黙するも出てきた男は扉の前から退け、無言で中に入る様に片手を扉の中へと向ける。するとそれを確認したカルトは何の躊躇いも無く中へと足を踏み入れ闇へと消えて行く。

 続いてルーリアが扉を潜るも躊躇いを見せるものの、振り返ったところでいるのは危険人物と自分を目障りに思っているであろうルーカスであったためそのまま前へと進んで行った。


 「……大丈夫なのか、あれ」


 「主の言葉を仰ぎましょう、迎え入れるのであればそれに従い……そうでなければ事が終わるまでここで……」


 背後から不穏な会話が聞こえており、どう考えても聞こえるように話していたようだが敢えて聞かなかった振りをしてルーリアはカルトの背後を付いて行く。扉を抜けてすぐに下へと続く階段が存在しており、わずかではあるが明かりが掛けられており仄かに照らされた室内を照らしている。


 「……」


 一歩一歩降りる度、本来であれば立ち入る事は許されないという雰囲気が強くなってくるのをルーリアは肌で感じていた。


 同胞とは何なのか、

 カルトは何を企んでいるのか、

 そしてその企みが悪を成すものであった時どうするべきなのか。


 そんな事に思いを巡らせながら仄かに照らされた室内を斜め下に降りていくと、そこには物々しい雰囲気を持つ扉が見えてくる。それは何かを閉じ込めるかのように堅牢な鉄製の扉であり、地下であることも相まって異様な雰囲気を醸し出していた。


 「よっと」


 そんな両手で体重を乗せて押しても開けるのが大変そうに見える鉄扉をカルトは片腕で軽く押す。すると扉は木製の物のように開け放たれるが、当然材質は鉄であるため入る先の部屋と階段に強烈な金属が擦れて軋むような音が鳴り響いた。


 「お待たせしました、僕らで――――最後ですかね?」


 「……っ!」


 開かれた扉の先にはそれととても、とても様々な人達がいた。

 男女の隔てが無いのは勿論の事、老若男女すら関係なく見ればルーリアと歳の近そうな少年少女も存在している。道を歩けば見かけるような主婦からどう見ても暗殺者といったような様相を呈している青年。走り詰めで息を切らしている様な伝令から身分の高い者の護衛に就くような戦士、騎士と様々だ。


 そんな中鉄扉が開くはずの無い速度で開かれたために音に惹かれてその殆どがカルトとルーリアに目を向けていた。


 「ベルウィング……」

 「ベルウィング卿だ」

 「彼も……参加しているのか」

 「当然だろう、セセラギ殿が手を引いてる以上彼だって……」


 カルトの姿を視認した者たちからザワリとどよめき等の声が混じって室内に響いていく。それを確認したカルトは少しばかり苦笑しながら、


 「あの、皆さんお静かに――――」


 「ひゃ……!?」


 そこまで口にしたところでルーリアの背後にあった鉄扉が大きな音を立てながら叩き付けるように閉まった。音の衝撃でルーリアがカルトの背中にポンとぶつかる程に大きな音であり、それは人々の会話や呟きを立った一発で斬り落とすように止めて見せる。

 扉の前にはルーカスと門番の危険人物風の男が二人立ち並んでおり、驚いたルーリアの視線や人々の視線を尻目に、


 「これで全て揃いました、これより計画概要について情報共有を行います」


 ルーカスは無言となった人々へと言葉をぶつけるように宣言して見せた。




 それからルーリアとカルトは一息つく間も与えられず、地下の室内に存在した民家ではあまり見受けられないような大きめのテーブルの傍に立っていた。そのテーブルを囲むように二十数人入るかという人々が二重程の円を作り纏まっている。ルーリアとカルトはテーブルの傍の最前列に存在しており、カルトの隣には誰か一人分は要れそうなスペースが残っている。


 ルーリアがそのまましばらく辺りを見回しながら立ち尽くしていると後ろの人混みから慌てるような声が漏れてくるのをその耳で捉える。何かと思い振り向くとそこにはルーリアにも知る顔がこちらへと向かって来ているのが確認できた。


 「既に全員揃っているね。まあ刻限も迫っているし揃っていなくても話を進めるわけだが」


 「セセラギ卿」


 「カルト君、ギルド経由でレイル・ロードの潜む領域に送り込んだ調査員からの報告は結局あったかい?」


 「いえ、恐らく全員殺害されたものと思われます。ですが調査員はギルド登録の者ですので元よりどう転んでも計画に支障はありません」


 現れた人物を目視したカルトがそう呟くと周囲の人々がザワリと乱れる。


 「どうも皆さん、セセラギ・シン・バルナークです。初めて会う方もいるでしょうがどうぞよろしく」


 現れた男は淡い青色の頭を少し下げながら軽く挨拶をする。すると集まっていた人々はそれに何か思う所があったのか室内に大きな音として存在していた喧騒を一瞬で鎮めた。そして緊張感漂うセセラギの目がここにいる全てを人達を映す、それに伴いまるで緊迫した雰囲気が強制的に与えられるように広がって行った。


 「ちなみにカルト君、何でルーリア君ここにいるの」


 「同胞です、協力してくれるそうです」


 自己紹介の後に即座に問いただすセセラギに対し笑顔でカルトはそう返した。しかしながらどう見てもその笑顔は楽しいから笑っているというわけではなく、他の感情を読み取らせないためのものであるという事がよくわかるものであった。


 「なるほど……君がそう言うなら、そういう事にしておこう」


 「っ、それで、良いのですか……?」


 予想とは違う回答に動揺しながらセセラギに近づきそう告げたのはルーカスだった。


 「構わないよ」


 「しかし……極限まで情報を漏らさないようにしてきたらここまで準備が出来たのではないのですか? それをどうして……」


 「良いんだ。彼女は情報を漏らしたりはしないし、それに人手は多いに越したことは無い。カルト君が引き入れたというのなら、それだけで首を縦に振る理由になる」


 ルーカスは納得はしていないような顔付きではあったがセセラギが意見を変えるつもりは微塵も無いという事を見抜いた様で不満を抱えながら黙り一歩下がる。それを見届けたセセラギは視線を正面へと移し、全体を一度見渡した後で息を軽く吸い込み大きく言葉を発した。


 「それでは早速、本題に入りましょう!」


 その声量は情報が漏れないようにしてきたと言う事柄とは全くかけ離れたものであったが、この地下に集められた人々はそれを聞いた瞬間に更にそれぞれの思惑が混ざり合って擦れるように研磨されていく。そんな肌を削がれるような鋭い空気の中でルーリアは隣に佇むカルトの表情が笑顔へと変わっていくとの横目で捉えていた。


 「……っ!」


 その笑顔が悪しき者の悪辣な笑みであればどれだけルーリアに混乱を与えなかっただろうか。

 

 カルトはまるで遊ぶ子供を眺めるような、それでいて大きな理想を思い描いてそれを成し遂げるために歩を進ませているという実感を含んだ優しい微笑みを浮かべていた。


 「遂に、遂にこの情報を皆さんにお伝えする時が来ました……いやぁ感慨深い。本来遥か昔に捨ててきたものであり、私たちの他にも知ろうとしたものはそれこそ星の数ほどいたでしょうが……と言うかそもそも外務担当の私がする事でもなかったのですが」


 「セセラギ卿、簡潔に願います」


 「ああ失礼」


 カルトは微笑みを苦笑へと変えながら恭しくそう進言する。

 それとは真逆にセセラギは同等の立場の者に言葉を継げるようにカルトの進言にそう返した後、


 「では、我々はレイル・ロードの全容とその居場所を突き止めました」


 瞬間的に地下室中が騒めきで揺れる言葉を発して見せた。


 ザワリなどと言う騒めきではない。

 ガンガンと鳴り響くような喧騒が響く。驚く者、呆然とする者、自身の耳が聞いた事が真実が確かめようとする者、そして喜ぶ者。様々な音が鳴り響きルーリアは少しばかり顔をしかめる。


 「殆どの方がまだ計画概要を聞いておらず、予測を立てるに留まっているでしょうが……今ここに宣言します。我々の目的は、レイル・ロードの抹殺・・・・・・・・・・となります」


 その言葉に更に地下が揺れる。

 それぞれが溢れ出す感情を抑えきれず、またそれを更に煽る様にセセラギが宣言を続ける。


 「対策だとか撃退だとかでは断じて無い! かねてより幾多の命と血を吸って来た悪魔の命を奪う……それが我々の目的、少なくともここに集まる全ての同胞たちが望む願いのはずだ!」


 ルーリアが辺りを見渡すと人々の全てがそれに同意するような表情を浮かべている。数少ない戸惑いや疑念を表情に浮かべている人達ですら強い賛同を隠しきれていない程だ。

 そしてその状況に圧倒されるルーリアもまた、その言葉に魅力を感じざるを得なかった。


 「しかし……レイル・ロードはまさしく悪魔。永き間命と血潮を啜りに啜ったあの化け物はまさしく人が立ち向かえる領域を超えていると言っていい。それ程までに骸の兵を増やしている」


 セセラギは歓声を上げる一部の者たちを静めるような仕草を取り、仰々しくそう続ける。


 「しかしこの度我らは悪魔の全容を知る事によりそれを討ち果たし得る可能性のある計画を立てました。乗るか反るかは皆様次第、反るという場合は情報が漏れないように軟禁となりますが……まあ取りあえず聞いていただきたい!」


 多少喧騒が静まっていき、それと同じく連動するようにセセラギの声量も大人しくなっていく。


 「我々はレイル・ロードの潜む地に潜入しその存在を抹殺するために――――とある一人の少年を救・・・・・・・・・・い出します・・・・・


 セセラギは羽織っていた外套を翻し、手のひらを握りしめてそう言った。

 抽象的、というよりは断片的に近い。およそ理解が及ばない情報を幾つも並べられ、集まった面子の中では理解できているという表情をしている人は存在しない。それ程にセセラギの言葉には具体的な説明が欠けており、あからさまにこれから補足が入るというような言葉ではあったのだが、


 セセラギを覗いてただ二人だけは他の者達とはまた違った表情を浮かべていた。

 一人はカルト。彼の表情は完全に全てを掌握している側の表情であり、その整った顔には疑惑や動揺といった感情は微塵も感じられない。ただただ薄気味悪く優しく微笑んでいる。


 「……?」


 そしてもう一人とは、ルーリアだった。


――――カルトはヨルを差し出したって言ってた。多分少年ってヨルで……でも、助けるって……?


 ルーリアは狼狽していた。

 なまじこれから明かされるであろう情報を知っているだけに更に理解が及ばなくなる。


 「何が、何がしたいの……?」


 ルーリアは隣に佇むカルトへと狼狽隠し切れぬその状態で言葉をぶつけるもカルトは何も返すことは無く、その気味悪い微笑みに幾ばくかの覚悟を灯しながらただ正面を見据えていた。まるでその先に自らの望むものがあるかのように。

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