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治る身体の異世界ライダー  作者: ツナサキ
三章 生きるために
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幕間1 彼らの彩る大計画

 ベルウィング邸。

 高く上がった日が屋敷の全容を映し出す。大形の建造物ではあるがそれに見合った人の気配は確認できず静まり返っている。そこから幾分か離れた繁華街では人々の喧騒が響いているがその喧騒も屋敷には届いていない。


 そんな静かな屋敷の一室にある書斎の机に座り、考え込むような姿勢でピクリとも動かない青年がいた。長い髪を適当に後ろで纏め、手を下顎の部分で組んで室内の一点を睨み付けている。

 カルト・ベルウィングは何かを待っているように動かない。その眼は鋭く締まった口元から決意じみたものを感じさせていた。


 静かに張り詰めた空気の中に突如として室内の木製の扉が叩かれるような音が響いた。

 

 「どうぞ」


 次いでカルトの声が声を発し、一呼吸置いて扉が開く。


 「失礼します」


 その扉から一人の男性が室内に入り込んできた。

 歳は二十代だろうか。カルトと比べて確実に年上であることはわかるがそれ程離れているわけでもないという雰囲気。清潔感のある短髪に黒を基調とした機能的な軍服の様な衣服を身に纏い、それとは裏腹な柔和な表情を浮かべている。


 「私、セセラギ・シン・バルナークより貴方に『協力』するように命じられました。ルーカスと申します」


 「お待ちしていました、どうぞ座って下さい」


 カルトは目の前のソファに座る様に誘導し、それに対しルーカスと名乗った男は一礼するも扉の傍から動かずに佇んでいる。カルトはほんの少し首を傾げた後に机から立ち上がり、


 「では話を聞きましょう。伝えることがあるから来たんでしょう?」


 「ええ。では単刀直入に……準備が整いました・・・・・・・・。つきましては私と共に同行を願います」


 「……予想以上に早いですね」


 「勿論です、どこで事が起きても対処できるように準備を進めていたのですから。確かに予定よりも早く事は進んではいますがね」


 饒舌とはいかないがスラスラと話すを前にカルトの顔からは先程まで存在した睨み付けるような剣幕は消えており、カルトは息を吐いて椅子から立ち上がった。


 「ベルウィング殿、許可などは要らずにこの部屋まで来るように仰せでしたが……エリアルさんはいないのですか?」


 「ああ、エルは今病院へ行っているんですよ。先の事件で仲の良かった少女が重傷を負いまして、その見舞いに行っています」


 「なるほど、そういう事だったんですか」


 「ええ、ですのでルーカスさんには申し訳なかったのですがここまで一人で来て頂いたわけで……」


 二人はともすれば牽制し合うような微妙な距離感で話し合ってはいるが、話の本質が捉えられないような曖昧な会話をしていながらもその距離を詰めようとはしない。

 しかしながら付いて来いと進言するルーカスの言葉には反し立ち上がったカルトもそこから一歩も動かずルーカスという男もまた動かない。すると今度はルーカスがカルトの態度に疑問を持ったようで少し首を傾げた。


 「どうしました? 悠長に構えている暇はありません、出来れば急ぎ集合場所まで向かいたいのですが――」


 「……まさか」


 「……?」


 ルーカスの呼びかけを余所にカルトは自身の背中側にあった窓へと向き直り、施錠されていた鍵を外して窓を開け放った。そして縁の部分に片足を掛けその反対の腕を窓から外へと出し上の方へと掲げるように突き出し、


 「んぎゅ!?」


 その直後に窓の外から嘔吐くような可愛らしい声が響き、その声の主を掴んだであろうカルトの腕は引き抜くように振り下ろされる。するとカルトの手には彼には見慣れた少女の首根っこが掴まれていた。


 「……ルーリア」


 「……かはっ!」


 ルーリアを視認したカルトはそっと首元から手を引く。

 しかしカルトは窓の外から盗み聞きしていたと思しきルーリアに驚いている様な表情をしておらず、どちらかと言うと目を細めて悲しそうな、残念そうな顔をしていた。


 「ルーリア……なんて事を……」


 「……っ!?」


 正面にいるルーリアですら聞き取れないような独り言をカルトが発した瞬間、ルーリアはカルトの背後から一瞬だけ漏れ出すような殺意を感じ取った。しかしその針のように鋭い殺意すぐに消え失せ室内へと溶け込む。


 「ベルウィング殿」


 「……はい」


 殺意の出所であるルーカスはルーリアにもしっかりと聞こえるように声を大きくカルトを呼んだ。


 「見た所……その少女は『盗み聞き』をしていたようですが?」


 「そのようですね」


 「……わが主からは貴方は聡明な人物だと伺っている。その貴方であればこの事態がどれだけ重大なものかわからないはずはないでしょう」


 「申し訳ありません、まさかルーリアがこんな事をするとは思わなかったもので」


 ルーリアは向き直りながらそう告げるカルトの背後で観念したかのように立ち上がる。その際チラリと背後を窓に視線を流した辺り危険が迫れば飛び出してでも逃げるという意思が感じられるが、近くの男二人は気づいていない様で会話を続ける。


 「思わなかったでは済まないだろう!! 我々の判断一つに国の未来が懸かっているんだ……それを、それを一番良くわかっていたのは貴方だったはずでしょう」


 「その通りですが、ルーリアの気配に気づかなかった貴方にも落ち度はあるのでは?」


 「……っその少女は窓外の壁に張り付いてでも聞こうとしていた、既に我々の事が知られていたんじゃないのか!」


 「ええそうですよ」


 「「っ!?」」


 何気なく、当たり前のように呟いたカルトの言葉に驚愕といった表情を見せたのは二人・・だった。カルトの正面でルーカスが、そして背面では何言ってんだコイツというように驚愕の表情を晒し反射的にか窓へと一歩後退った。


 「どういう事ですか、それじゃあ貴方は彼女が盗み聞きしているのを知っていたと!?」


 「そうでは無くて……つまるところルーリアは我々と同じ『協力者』ですよ。我々の事は知っているが……盗み聞きなんて悪戯するとは思わなかった。ただそれだけです」


 「な……ぁ?」


 カルトの説明に思考が追い付いていないルーカスは無理矢理思考回路を動かすがその口からは溜息に近い嗚咽が漏れている。一方ルーリアは更に困惑しており、不審な動きを見せたカルトを気づかれないように探り回っていたはずなのに気がつけば何やら事情は知っている仲間と説明されている状況に追いついていないようだ。


 「つまり……貴方は明らかに不審なこの少女を『同胞』であると、盗み聞きは同席するのを許されなかった子供の『悪戯』であると……そう仰るのですね」


 「そういうことです、彼女は仲間……危険な事など何一つありません」


 「……貴方がそこまで言うのなら良いでしょう、ですが|セセラギ卿(我が主)には報告させて頂きます。その結果同胞の頭数に入るのか……それとも事が終わるまで軟禁となるのかを決めてもらいます」


 「では、ルーリアも『集会』に連れて行っても?」


 「もちろんです、むしろここに残していく方が危険だ。連行してでも連れて行きますよ」


 そしてルーカスはカルトに背を向け廊下へとつながる扉を開く。


 「ついて来て下さい」


 そう言い残しルーカスはカルトの反応を伺う前に扉から出て行く。その姿は些か不満、抗議の意が感じられたものの、言葉には出さなかった。そして一瞬静寂が訪れた後で軽く息を吐きながら普段と全く変わらないような調子で、


 「それじゃあ僕らも行こうか。ルーリア、窓閉めてね。出掛ける時は戸締りはしっかりしないと」


 「……」


 カルトもまたそう言い残し伝えたルーリアの反応を伺わずに扉へと向かう。


 怪しかった。

 カルトとセセラギが何かを企んでいる様な密談を耳にしたあの時からアルシアはそれとなく探りを入れていた。もちろんそれは気づかれない程度のものであり、ルーリアに入る情報は極めて少なかったがカルトが何か公には出来ないような事を計画、実行していると知る。


 だからこそ、それを知るべくルーリアは壁にしがみ付き盗み聞きするという賭けに出ており、自室にはいつバレても良いように扉にトラップを仕掛け荷物を必要最小限にまとめて逃げ出せるように準備までしていた。


 「私は……仲間じゃない」


 「だとしても、君に死んでほしくは無い。仲間として――――僕らの戦いに協力してほしい」


 扉の一歩手前で立ち止まりそのままの姿勢でカルトは呟く。外にはルーカスが待っておりこの会話を聞いているかもしれない。その懸念はルーリアにですら感じ取る事が出来たにも関わらず、カルトは言葉を口にした。


 「知られてしまったから、協力しろ――――でなければ死ぬ。そういう風に聞こえるんだけど?」


 「そういう訳では無いんだけど……ええと、そうだな」


 困ったようにカルトは言葉を詰まらせ首を傾げるが、変わらず視線は扉へと向いており背を見るルーリアからは表情が全く読み取れていない。


 「率直に行こう。会話を盗み聞こうとしていたという事は、僕が何かをしようとしていたことは知っていたって事だね?」


 「……その何かをするためにロロは片目を失って、ハティはお腹を刺されて……そしてヨルは何処かに消えた」


 そうルーリアが呟いた瞬間、カルトの肩がピクリと揺れる。


 「あなたが何をしようとしてるのかはわからない。あの三人に起きた事がどう必要だったのかは知らないけど、そんな事が必要な計画・・・・・・・・・・に私は協力なんてしないから」


 その言葉には人の心を波立たせるような感情は込められていなかったが、ルーリアは思いのままを言葉にした。


 企てのためによく顔を合わせていた少年少女を陥れたかもしれない人物を前にルーリアは異常なほどに冷静だった。友人、と呼ぶべきものか不明だがそれに近しい、もしくは傍から見ればそう見える者達を傷つけられたのであれば怒りに燃えるか、それとも恐怖に囚われるかの二択なってもおかしくは無い。


 『冷静でなくなれば相手の言葉に呑まれてしまう』


 ルーリアの言葉の後に振り向いたカルトの表情には、それを本能的に理解しているルーリアへの感心と、


 『本当ならばこんな事はしたくない』


 そんな感情は混ざり合って同居していた。

 そして即座にカルトは無表情へと顔を戻し、


 「ヨルは今『レイル・ロード』と共にいる」


 「……っ!?」


 呟く言葉にルーリアの心と身体が酷く揺れる。

 先程までの冷静さが嘘だったように。それ程までにその言葉はルーリアにとっても重みを持っていた。


 「な、にを……」


 何故。

 どうして。

 どうやって。

 協力者。

 お前は敵なのか。

 あらゆる言葉を紡ぐためにルーリアの口は動こうとするがそれだけしか言葉にならない。


 「僕がそうした、そう企てた。ヨルを差し出したと言っていいだろう」


 「な……」


 「全ては……そう―――――――レイル・ロードを仕留・・・・・・・・・・めるために・・・・・

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