三章05 屍地肉林
頭が痛い。
開いたばかりのぼやけた視界が血流に合わせて歪む程だ。何故こんなにも頭が痛む。偏頭痛にしては恐ろしい程の痛みだ。
ここは……何処だ?
視界には灰色の天井が見える。どうやら寝かせられているようなので起き上がってみる。現状把握してみるにはそれが一番だ。
が、視界に映った景色は何処か見たような気もするが、来たことの無い建物の中と言った感じだ。それでいて恐ろしい程の違和感がある。
全てが灰色だ。寝かせられていたベット、机や収納棚など家具が見受けられるが全てが灰色。それでいて部屋の一部がよく認識できない部分があり靄が掛かっていたりなど現実の光景にしては余りにも不鮮明というか、フワッとした軽い感じがする。
これは夢だ。
何となくそう悟る。現実ではない、けれど現実以上に反応してしまう夢だ。良い出来事がリアルに感じてしまう夢は起きた時にガッカリ感があるが良いものだ。だが悪い出来事がリアルに感じてしまう夢は……もう見たくない。
ふと思う。
夢を見ているという事は俺は寝ている状態にあるという事だ。もしくはそれに近い状態にあるという事。
俺は、寝ているのか?
実を言うとよく思い出せない。それにただ寝ているだけでこんなにも頭痛がする訳がない、けれどこれは夢だ。何と言うか、夢特有の焦燥感と言うか使命感みたいなものが頭の中で酷く渦巻いている。
――そうだ。行かなくては。
何処に?
――ここに居てはいけないんだ
何故?
途端に焦りが大きくなっていく。この建物から出なくては、そんな思いに動かされ固いのかどうかもわからない床に足を着き走り出した。ここから出るため何度も何度も灰色の扉を開いていく。既に俺の意識は言う事を聞かない様になっていき、ただ逃げるために意識が暴走しているようだ。
そんなかき乱されるような不快感の中で視界はあるものを捉える。
それは気味が悪いまでに赤黒い縁に彩られた異常な存在感を放つ鏡だった。
気が付けば辺りには何もない。
まるでそこは元から灰色の何もない空間であったかのように視界を遮るものは無く、ただ赤黒い鏡だけがそこにある。
そして俺の足はまるで吸い寄せられるように鏡へと近づいていく。灰色の中にある気味の悪い赤が更に心に波を作る。灰色の空間の為鏡部分にも灰色が付いており何も映っていないが、俺は鏡に映る範囲に入った後でゆっくりと鏡に近づいていく。
何か自分らしき人影のような姿が映っているが上手く認識できない。目覚めが近いのか?
でも、あの人影は妙な色をしている。完全には認識できないが、どうも赤っぽい見た目をしている。人は遠くから見たとしてもあんな色にはならないだろう。あれは一体――
「――――――――!」
全身が鏡一杯に映る所まで近づいた瞬間、急に認識を阻害していた靄のようなものが晴れる。そして鏡に映し出されたその姿は、
「――――ぁ」
血塗れの俺の姿だった。
まるで……人の捻じり殺した現場で昼寝でもしたような、全身が赤に染まっていた。髪の白い部分は赤に染まり、まるで自分から流れ出るように全身を鮮やかなまでの鮮血が流れ落ちていく。
「あ――――ぁぁ―――」
記憶が蘇ってくる。
俺はこういう状況にあったんだ。残虐な事を……したはずなんだ。
なのに何故、鏡に映ったこの俺は無表情に不気味な笑みを浮かべているんだ。口がまるで三日月のように裂け、目はまるで人形のような焦点の合っていない恐ろしい表情をしている。
「ぁ―――あ―――ああ―――――――」
にも関わらず漏れる声は悲鳴のようだ。
そして悲鳴が大きくなっていく度に記憶が鮮明になっていく。俺は何かを痛めつけた、そしてそれを――――
――――『楽しいと思ったよな?』
「っ!?」
俺は喋ってない。口を開いてもいない。
けれど急に鏡の中の俺が話し始めた。相変らず人形のような無表情に不気味な笑みを浮かべながら。
――――『なあ楽しかったろう? 何忘れようとしてんだよ、あんなに楽しかったんだからさぁ……ちゃんと思い出すんだよ!!』
「ぁぁああぁあああ、ぁぁぁぁあああああ!!!!!」
鏡の俺が怒鳴った瞬間、視覚以外が捉えていた感覚が再び蘇ってくる。鎖が柔らかい肉に打ち付けられる感触、暴力的なまでの血の匂い、あたまに打ち付けられる鉄の音。
俺は、俺は……俺は……!!
「ぁぁぁぁぁぁあぁあああああああああああああああ!?」
叫んだ瞬間、灰色の空間は視界から一瞬で消滅して見覚えの無い空間を移す。そして夢では感じられない肺に空気が入り込んでいく感覚が俺に現実に戻ってきたと訴えかけて来る。
「……っはぁ、ぐぁ……!」
全身が重い、それに頭が殴られ続けているように痛む。それこそ全身に重りを付けられている様な気だるさだ。
「こ……ここは……」
まだ筋肉が固まってよく動かない首を必死に振りながら辺りを見回す。
ここは、どこかの一室だろうか。
閉じ込められていた暗闇の独房のような場所ではない。壁は石のようで打ち捨てられた古い建物、その一室にはやたら馴染んでいない朽ちていないベッドやらの家具が置いてある。って事は古い建物に家具だけ運び込んで――――
「光……窓がある……」
光……俺は、あの独房から出る事が……
「……!」
完全に、記憶が戻った。
俺は捕まって連れて来られて、独房に入れられて、そして……その独房で従者を鎖で、
「叩き殺した……」
違う、いくら動いていたとしてもあれは生きてはいないんだ。だから、無理やり動かされる事から解放してやったと言われる事はあっても人殺しなんて呼ばれるわけじゃない。正しい事をしたんだ……従者の殺し方は焼くか解体するかだ。俺はあの時出来る限りをやった……
なのに、両手の震えが止まらない。
冷たい鎖が肉に叩き付けられる嫌な感触がまるでまだ残っているかのようだ。
「――――服、着せられてる……」
震えている手を見た時に衣服の袖口が見えた。
そこから胸へと視線を向けると見慣れない衣服を着せられているのがわかる。と言ってもとても簡素なもののようで所々にボロがある。身体に掛けられていたシーツをめくるとズボンも履かせられている、ボロいことに変わりは無いが。
「……」
ここは、何処なんだ。
この所連続して意識が飛んで、その度に場所を移されて何処にいるのかわかりもしない。見る限りでは廃墟、それも民家では無く洋館のようだがどうにも妙だ。遠くに見える窓から外は建物は見えない、緑の木々が見えるが――――
「っ!」
違う。
窓の外がどうとかそういう問題じゃない。逃げるんだ……逃げられる……!
窓があるならぶち割ってでも逃げられる!
一気に全身に血が流れ始めるのを感じる。寝かせられていたベッドから窓はそう遠くない十歩も走れば辿り着ける、ただそれだけで逃げられるんだ。
「逃げるんだ、誰も来ないうちに。今の、今の内に……!」
感覚的に素足のようだが関係ない。走れば、走れば逃げられ――――
「っぁぐ!?」
何だ!?
床に足を付けた瞬間足全体が崩れるように力が入らない。敷かれた床の絨毯に頭から倒れ込みそうになるのを何とか両腕で庇うことが出来たので打ち身程度で済んだものの、それに薬でも盛られているのか何か関節に強烈な違和感がある。こんな逃走経路のある所に寝かせている以上逃がさない工夫があるのだろうが、一体どうなって、
「…………な、に?」
足に、足に何かくっ付いている。
足にある違和感に耐え兼ねズボンを捲ると、銀色の丸い何かが膝と足首付近にくっ付いていて、その付近が赤黒く内出血しているようだ。数は見える範囲で六、七個程だが見る限りこれが足の動きを阻害しているようにも見えるが、
「っが、ぁあがああ!?」
――――痛っ、認識した瞬間足に激痛が――
「うがぁっ、ぎぐあがああぁああがああぁ!?」
銀色の何かと足の肌色の間から血が滲み出てきている、痛いのは明らかにその部分だ。なのに、なのに殆ど足が動かない……痛覚だけを鮮明に残して他の神経が全て絶たれているみたいだ。
まさかこれ、くっ付いているんじゃなくて……埋め込まれているのか!?
「―――――――っ!」
痛い、痛い痛い痛い。
本当に埋め込まれているみたいだ。走れなくするどころか、歩きはもちろん立つことすら許さないような痛みがある。人にこんなことしたら、もう二度と立てなくなるんじゃないのかよこれ……!
薬なんかじゃない。
物理的に逃げられない様に既に仕込まれている。足が動かなければ逃げられないのは道理だ。
「―――――っあ、ふぅっ、ぐうぅっ……!」
何だよ、何だよこれ……!
こんな、こんなことするために俺を攫ったのかアルシアは!?
この埋め込まれているのは何なんだ!?
埋め込まれている……むしろ刺さってるんじゃないのかこの激痛は!?
「――――痛い……痛い……怖い……怖い――――」
精神的な苦痛から逃れたと思ったら今度は肉体的な苦痛か……!
錯綜する思考が更に痛みを倍増させるようだ。
這ってでも窓に向かおうと試みてはいるが、振り返ると死体でも引き摺ったかのような血痕が床におびただしくこびり付いている。寝床から床に着地した時の衝撃が完全に悪かったみたいだ、きっとあれが神経ごと肉を貫くように埋め込まれていたんだ。
「くそっ……くそっ……うぅっぐぐ、ぎぁ!?」
抜こうとするが露出している銀色の部分もほんの少しなため上手く掴めない、それに抜ける気配が全く無い。ただ触れれば痛みだけが伝わってくる、骨に響くような痛みだ。
「はぁっ、はぁっ、……っ!?」
誰かが歩いてくる足音がする。
逃げなくては、足がどうこうじゃない。今逃げなければ殺される。アルシアは……レイル・ロードとその従者は人の足に杭のようなものを打ち込んで寝かせておくような悪魔だ。激痛を背負ってでも逃げなくては、いつか絶対殺される。
逃げなくては、殺される。逃げなくては、殺される。逃げなくては、殺される。逃げなくては――――
「ぅあ……ひ、ああ……」
「あら、起きてたの」
木製の扉が軋むような音を立てて開き、少女の声が俺の耳に届いた。その瞬間俺の心に絶望のような感情が走る。苦しかった時に聞こえてきた声は殆どがこの声だった。幼さを感じさせる少女の声色でありながらそれに似合わない丁寧な柔らかさを感じさせる口調。
けれどそれは悪魔の声だ。幾度も聞いた、ライナの声。
「ひ、ぅぁぁぁ……ぐっ!?」
「よく私がいない間に起きる子ね。離れちゃうと寝付けないのかしら?」
そう言いながら軽い笑みを浮かべてライナは仰向けで座り込んでいる俺の方へと向かってくる。
「血を撒き散らしながら、這いずってどこに行こうとしているの?」
「ち、違……」
「何が違うのかしら。窓に向かってたんでしょ?」
「ひっ……ちが、違う!」
蹴られる。
逃げようとしてたなんて肯定したら間違いなく蹴られる。いやそれだけで済めば幸運かもしれない。またあの独房に入れられることだって十二分にあり得るんだ。見え見えの嘘でもいい、否定するんだ。でないと……
「おき、起きたら……立ち上がったら足が痛んで……それで、それで……血が出て……」
駄目だ。
これ以上の言い訳が咄嗟に浮かんでこない。しかもどう足掻いても窓に向かっていたことは否定できない。
「それで?」
「っ……ごめんさない……ごめんさない……ごめ……なさい」
言葉が浮かんでこない。
独房に入れられて、足に杭を打たれてもう反抗心が削り取られてしまったみたいだ。俯いて、ただ謝る事しかできない。恐怖と足の痛みで目が滲んてきている。
「そう……逃げようとしたわけじゃないって、信じてあげるわ」
「……え?」
「ええ信じるわ。起きたら足に拘束杭を打たれていて出血したら誰だってパニックになるわ。それはもうのたうち回るくらいにはね」
「……っ!……っ!」
必死に首を縦に振るが妙に優しいのが怖い。
それにライナの顔には独房で一度だけ見せた時のような加虐的な快楽を感じている笑みを浮かべている。その表情が心に突き刺さる様に恐ろしい。
「だからほら、これあげる」
「……?」
手渡されたのは布切れだ。
それなりに分厚い、衣服用とは思えないようなの布切れ一枚。
「……え、ぁ、これ、布……?」
「そうよ」
「これ……何を……」
「何をって、ほら見なさい」
そう言いライナは俺の血がこびり付いた床を指差す。
「汚したら綺麗にする。当たり前の事でしょ? だからほら、綺麗に拭きなさい?」
……拭け? 拭けって血の事を言っているのか? 嘘、だよな?
だって俺は今リアルタイムで出血中なのに、
渡された布で血を拭いたところで足から流れ出た血がまた床を汚すことになる。そんな状態では何刻過ぎたって汚れが落ちることは無い。
そんな奴に床の血を拭けって……そんなのただの拷問――――
「―――――――――っ!」
「ね、私優しいでしょう? 大人しくしていれば出血なんてしなかった拘束杭だったのに、暴れ回って出血した挙句に逃げ出そうとしてた貴方をこれだけのことで許してあげるんだもの」
「――――――――――――」
言葉が出ない。
ライナは許す気なんて最初から無かった。ただ出血しながら必死に喚く俺を見てただ楽しんでいただけだった。それだけだったんだ。
「返事は? やるのやらないの?」
「…………やり……ます」
「はい良く言えました。じゃあ終わるまでそこで待ってるから」
そう言いライナは俺が寝かせられていたベッドに腰を下ろし、両手をベッドに付きながら楽しそうにこちらを見ている。何処まで加虐趣味なんだ……でも、やらなければもっと酷い目に遭うのは間違いない。
「ぐっ……うぅ……ぁぁ……」
「ほらヨル違うでしょ?」
「……っ?」
「床を拭くときはちゃんと膝立ちで拭かないと」
「……はい」
足の関節には杭が刺さっている。
当然膝の近くにも刺さっており、膝の皿には刺さっていないが膝立ちなんかすれば激痛と出血が増すことは間違いない。ライナはそれを知っていてわざとそう言ったのだろう。それが……楽しいんだろう。
「ぎっ……ぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ、ぎっ……!」
「ほらほら、唸ってる暇があったら手を動かして」
「っ……っ……!……はい……!!」
――――痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。でもやらなくては、耐えられるものは耐えなくては。出来なければそれは死に繋がる。いやだ、死にたくない。死にたくないから……
「はっ、はっ……はぁっ……ぎっ……がぁ!」
「ほらもっと前にもあるわよ」
「はい……ぎぃ……! ぐっ、ぎ……ぁあがああ!?」
膝を突いて進む度に出血している。
ズボンが既に血に濡れて、進む度に床に血を擦り付けている。渡された布も既に赤くなり始めている……死ぬ程の出血では無いと思うけど、少ないとも言えない。
「拭き取れた? まあ床も絨毯だから完全に拭き取れるってわけでもないだろうけれど、それでも水分が無くなる位には出来るでしょ?」
「はっ、はっ……ぐぅっ、はっ……」
もう、無理だ。
膝がミシミシと音を立てている。これは多分そういう物なんだ、出血はするが死ぬまではいかず……けれど死ぬ程の痛みを与える。これ以上……膝で立っていられない。
「ひ、ぐっ……っあ――――――っ!?」
バランスを崩した。
けど、立て直せばまた激痛が走る。無理だ、自分からその地獄に飛び込む気力がもう無い。
「っぅあ……!?」
血で汚れた床に倒れ伏してしまった。
血液特有の嫌な匂いが鼻先を刺激し、顔に触れる。
――――立たないと、床の血を拭かないと、殺される。
「ヨル? 全然拭けていないわよ?」
「……っ今、拭きます……」
「はあ、満足に床を拭くことも出来ないのね。がっかりだわ」
「ごめ……んなさい……ごめんなさい……もう、許してください……」
最初から分かっていた事だ。
ライナはこうやって血塗れで懇願する俺を見たかっただけだ。例え吹き切れたとしても次の責め苦があっただろう。
「全く、これじゃ知性の無い屍よりも役に立たないわね」
「……」
そういうライナの声は言葉とは裏腹に満足げだ。
「まあいいわ、大目に見てあげる。それじゃあ行きましょうか?」
「い、く……?」
許された?
どこに行く?
今度は何を、
「アルシアのところよ。あの娘も会いたがっているから、会いに行きましょう?」
「ア、ル……シア」
「ほらヨル、立って?」
立つ。
は、はは、はははは。
「無理、です。痛くて立てません……」
「そう、じゃあこれで」
「…………っ!?」
た……った?
何で俺は立てている? 自分で立ったつもりはない、むしろ立てるはずがない。でも、立っている、立てているという事は――――
「っぁぁあっぁぐっああがあぁあ!?」
わからない。全くもってわからない。
何故痛い、何故立てている、何だこれ、意味がわから、痛っ――――
「なっ、に……ぎっ、何なっ、っこれぇ……!!」
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
さっきとなんて比べ物にならない、膝より下が焼かれているみたいに痛いし、足首からも血が染み出してきている。これは、強制的に……!
「じゃあ行きましょうか、前をどうぞ?」
「っぅあぁあが!? まっ、待っでぎぃいあああぁ!?」
足が……足が勝手に動く……!?
操られて……! 一歩踏み出す度にっ――――!?
「っがはっ、かひゅっ……どうなってっ、っこれぇ!?」
「アハハハ。その訳がわからないけど痛くて困惑してるその表情好きよ? ほらそうそう、そこの扉を開いて」
身体が……完全に操られている。足だけじゃなく手まで勝手に動く。
何だ……これは魔法か!? でも、魔法は確か生きている生物しか使えないって――――
「っ!?」
扉を開くと、廊下の隅に従者が恐ろしい死に顔で突っ立っている。やっぱりここは彼女達の住処なの――――
「っぅうああぁあああぁ!?」
「ほらヨル、そのまま真っすぐよ」
「いがっ、や、やめ……ってよぉ!? いだっ、痛いがらぁっがああ!? やめっ、やっぁぁぁぁ!?」
「フフッ、可愛い悲鳴」
話を、全く聞いていない。
ただ、本当に楽しんでいるだけだ。どうすれば、どうすればこんな残酷な人が出来るんだ。死んでいるから、従者だからできるのか? 隣で笑っている少女がもう人には見えない。これは……魔物だ。
「ひぐっ、えっぐ……っああ!? ぎっあがっ、ひぐっ、ぅぅあ……!?」
「こらヨル。男の子でしょ?泣かないの」
「無理ぃぃあああ!? やめっ、やぁぁ!? お願いだがらっ、ぎぁがっ……やめでよぉおお!!」
呂律が回らない。視界が歪む。痛みが脳を侵している。
これからどこに連れて行かれて、そして何をされるのか。そんな恐怖と痛みに怯えて泣き叫ぶことしか出来なかった。




