二章12 カウントダウン
「ヨル君、大丈夫ですか。一体何があったんですか?」
俺は比較的近くにあったエルの寝室へと担ぎ込まれていた。
エルの寝室は照明により少し明るいので俺の体の現状がよくわかる。体の至る所をぶつけたようで肌を見れば痣が目立つと言っても差し支えが無いほどだった。
「その首の痣……尋常じゃありませんよ」
エルが言うには俺の首に手で絞めつけられたような痣がついているらしい。俺の視点からは見えないが、確かにそんな感覚はあった。首の筋肉が悲鳴を上げているような、そんな感覚が。
「わ、わかんない。突然背後で声がしたと思ったら首が絞めつけられて……」
「誰か侵入してきたってことですか?」
「いや、姿は見えなかった。なんか、幽霊に首を絞めつけられたみたいな」
そう。声は確かに聞こえた。首を絞められた。ような気がする。
だが、それを行った人物の姿は見えなかった。
……まさか、本当に幽霊?
エルが水魔法で俺の体の痣に水を浸けてくれているのも相まって背筋がゾクッとした。
「俺ってば何に襲われたんだろう」
「現状ではよくわかりませんが、ちょっとその部屋を見に行ってきます。ヨル君はここで安静に」
「え、ちょっと待って一人は怖い」
素で怖かった。
一人の時、突然笑い声、首を何かに絞められる。
これが怖くないという奴は余程の能天気かバカのどちらかだ。また一人になれば先程の現象に襲われるかもしれない。だから一人にはなりたくなかった。
「じゃあ一緒に来ますか?」
「行く」
即答だった。
そして俺とエルは俺の体についた首以外の痣を水魔法で治した後、俺がカンテラを落とした例の部屋へ向かった。
廊下は暗くエルの光魔法が無ければ廊下の壁ですら見えない程。そんな中、まだ痺れと痛みの残る首を俺は気にしながらも歩いている。
「ここ。この部屋」
「わかりました。ヨル君は少し離れていてください」
そう言ってエルは俺が手荒く開け、半開きになっている扉へゆっくりと近づいていく。その体に魔力を集約させながら、警戒を怠らず、何かが飛び出してきてもすぐに対処できるように。
ゆっくりと扉を開け、エルは中を確認する。
どうなんだろうか。攻撃したりしないって事はぱっと見何も居ないって事なのだろうが……
「……魔力反応無し。ヨル君が暴れ回った形跡はありますが、おかしいところはありません」
エルの素早い状況確認を聞き、俺は軽く胸を撫で下ろした。
するとエルは光魔法を大量に生成し、部屋の中へと入れる。部屋は眩しいほど鮮明に映し出され、
「これから細部を確認します」
後ろの俺に今から何をするかを毎度毎度告げながら行動をとる。
「机の下、異常なし。窓もキッチリ閉まっています。足跡なんかもありません」
「って事は、俺の気のせいだった?」
いや、そんなはずはない。
もしそうだったとしたら俺の首の痣はどう証明するのか。間違いなくこの部屋で、俺に物理的な干渉が出来る何かがいたのだ。
「逆ですねヨル君。異常が無いのが異常です」
「え?」
「いいですか。ヨル君は間違いなく首に傷を負っていました。つまり確かにここには何か居たんです。けれどそれを示すものが何もない」
エルは俺の肩をグッと力強く抱き寄せながら、表情を険しくして、
「生物が居たわけでもない。魔法でもない……つまりは『スキル』による嫌がらせ。あるいは攻撃です」
「襲われた、って事……?」
「首の痣を治さなくてよかった。ロロ君を呼びます」
「ど、どうして?」
「ロロ君はああ見えてスキルにとても詳しいんです。それと彼自身とても強いですから頼りになります」
そして俺たちはその部屋を後にし、ルーリアとハティの安否を確認した後、ロロを屋敷に招くことになった。
______
「で、俺が呼ばれたって事か」
ある一室に俺たちは集合していた。相変らず日喰中で暗いため、部屋の四隅の照明をつけての会議である。ある一室とはもちろん俺が襲われた、カンテラを落とした部屋だ。
部屋の中には俺、エル、ハティ、ルーリア、ロロの5人がいる。ロロが結構闇に溶け込む色をしているのでそれを知ってか知らずか彼は照明の傍にいた。
「ヨル……痛くない?」
「ああ、まだ少し痛い」
ハティはとても心配なようでさっきから俺の首の痣を気にしている。また、ルーリアも声は掛けてくれないものの、キナ臭い雰囲気を感じ取っているような真面目な顔つきをしていた。
「結論から言おう。犯人を見つけることは不可能だ」
そんな場の緊迫した空気を斬り捨てるようにロロが言った。
「無理なんですか?」
「エル姉。スキルってのは千差万別だ。確かに夜に傷をつけたスキルがどういうものかはある程度絞れるだろう。だが絞れたところで犯人が今どこにいるかなんてのはわからないだろう? 最も心当たりがあるっていうんなら話は別だが」
確かに。
仮にある程度どんなスキルか絞れたとしても、犯人が絞れたとしても意味が無いのだ。そいつがやったという確証も無いからな。
「それでも対策出来ることがあるかもしれない。そういう事だろエル?」
「ヨル君の言う通りです」
エルが俺の言葉に頷くように答える。するとロロは自身の黒い肌の手のひらを合わせながら、
「ま、俺はやれる事をやるだけだ。もちろん手伝うぜ」
と言う。
そして続けざまにロロは一つ一つ整理するように話し出した。
「この部屋が問題の部屋って話だが、エル姉が魔力反応を感じられないって事は間違いなくスキルによるものだ。エル姉、確かだな?」
「はい。間違いありません」
「仮にスキルだとした場合、ちょっとヤバいなこれは」
エルの受け答えを聞いたロロは少し顔をしかめながら俺たちに向けて行った。
「どういう事だロロ?」
「ざっくり考えても複数のスキルが使われている。つまり……」
「複数の人間、組織的な犯行って事……?」
言葉を詰まらせたロロの代わりにその言葉の続きを言ったのは、エルの横に立つルーリアだった。
「なっ」
「組織的とまでは言わねぇが、計画的な犯行である事は確かだ」
「詳しく。詳しく話してくださいロロ君」
「ああ。まずスキル1つ目は夜の首を絞めるスキル。そして2つ目は闇を見通す暗視のスキル。3つ目は遠くから物を見る遠見のスキル。4つ目は夜が聞いたっていう声を届かせるスキルだ」
ロロは指を折りながら現象に必要なスキルを次々と挙げていく。そんなにも必要なのか。俺はただ黙って聞いている他に無かった。
「でだ、声のスキルは確実に必要で独立してるから良いとして。問題は1つ目。これ多分透明な体を出現させて遠隔操作する系のやつだ。これを見てくれ」
ロロはそう言いながら窓の傍まで近づき、俺がカンテラを落とした辺りを指差す。
「この部屋は絨毯だからわかるが、カンテラの燃料を零した所がうっすらと踏まれているのがわかる。足跡を合わせて見ろ夜。多分お前の物じゃない」
「え、嘘。うわ、ホントだ……」
確かにうっすらと絨毯の濡れている部分が踏まれている足跡があり、俺の足裏を合わせてみると俺の物より大きかった。
「そして夜の首の手痣。間違いないだろう。ただそのスキルで視界を確保できるのかは不明だから遠見のスキルは必要かはわからない。暗視のスキルも同様。つまるところあの現象を引き起すには多くて四つかそれ以上。少なくても二、三つは必要だ」
「……ん? じゃあ『透明化』で事足りるんじゃありませんか?」
顎に手を置き思案しながらエルは気が付いたようにロロに向けて言った。
「確かに自身と暗視のスキル持ちを『透明化』させられるスキルがあればと思えるが違う。燃料を零した所についている足跡をよく見てくれ。燃料を踏んだのであればここから立ち去る時に絨毯に幾らか足跡がつくはずだ。それが無いという事はその場で消え去る事の出来るスキル。もしくは空を飛ぶスキルが必要になる」
「そう、ですね」
「まあ長々と話したが結論は複数のスキルを使った計画的な犯行って事だな」
改めてそういう結論を出されると、ゾワッとする。
襲われたという事もそうだが、あの声が、あの少女の声があまりにも冷たかったから……
「ヨル、大丈夫?」
「ありがとうハティ……俺が聞いた声は、俺を玩具にするって言ってた。機会を待つって……」
部屋の中に静寂が訪れる。
口にはしないがみんな分かっているようだった。明らかに異常な、悪意ある行い。それが暗闇である日喰中に行われたのは人目に付かないからか、あるいは、
「で、でも凄いなロロ。まるで探偵みたいだったぞ?」
俺は少し無理やり笑顔を作り出しながら場の空気を冷たくさせまいと言葉を紡ぐ。正直この暗闇で有る事無い事考えるのは気が滅入る。
そう思い話題を無理やり変えた俺の意思を汲み取ってくれたのか、ロロもまた笑顔を返し、
「フフン。子供だからって甘く見たらいかんぞ? 俺は小さい頃から自然と共に育ってきた部族の生き残りだかんな。対魔物戦、対人戦、洞察力。いずれもそこらの有象無象とはわけが違うぜ!」
ビシッと親指を立てて自身に向けながら明るく話す。
「この国出身じゃないのか?」
「まあ違うな。もっと遠くから流れ着いてここに居るって感じかな」
「なるほど」
「それより日喰中の警護も依頼なんだろ? 金は誰が払うんだ?」
ロロはあまり当てにしていないといった感じにそう話す。
当てにしていないというよりは払ってくれりゃ文句は無いといった感じだろうか。
そうか。ロロが前に言っていた『フリースピア』とは何でも屋の事だったのかもしれないな。ニュアンス的に。ならば当然今回の件は依頼と言う形になり、当然依頼料も発生することになる。
「金、か」
困ったことに全財産陽銅貨十一枚なんだよね。
「私が払います」
「え、流石にエルに払わせるわけには……」
「でもこの屋敷で起こった事ですし……」
「じゃあカルト当てに請求書回すわ」
「「それだ!」」
俺とエルの声が重なった。
本音はエルも払いたくなかったのだろう。俺と言葉がシンクロして「テヘッ」と舌を出してエルは笑った。
その後、流石に離れた部屋で寝たりするのは事件の起こったすぐ後では危険というエルの判断の下、俺たち5人は隣り合った部屋で日喰の間を過ごす事となった。
エル、ルーリア、ハティはエルの寝室にて眠り、その隣の部屋でロロと俺は椅子とソファを交互に使いながら過ごした。
「ありがとうロロ。今回は助かったよ。本当に」
「よせやい、照れる」
「今度是非礼をさせてくれ」
「そうか……ちなみにお前らどうやって金稼いでんの? 生活資金的な」
「金? ベルウィング邸で使用人として働いて、生きるために必要な知識と力を教わって金を貰ってる。いつまでも世話になるのもあれだからいつか独立することになると思うけど」
「ほう。なら独立するとき俺と組んで仕事やらねぇか? 俺も相棒っていうか、人手っていうか、パートナーみたいなの探してたんだよ! この国は余所者が金を稼ぐのは難しいから魔物討伐とかの依頼が多くなるんだけどよ。どうだ?」
「はは。縁があったら是非」
「おう! 何か知らねぇけどよ、お前とはいい仲間になれる気がするんだよな!」
暇な依頼であったにも関わらず、日喰中俺をずっと護衛してくれたロロとこんな会話があったことをここに記しておく。
だが結局、その後の日喰中に奇妙な現象が起こることは無くロロが護衛として活躍する機会は無かった。何事もない事は良い事ではあったが、「機会を待つ」と言ったあの声が俺の頭の中で気味悪く反響し、妙な不安をかき立てていた。
______
日喰が終わった。
何もなかった。無論ロロが来た後の話だ。
太陽が昇る。日喰中に照らせなかったことを謝る様に今日は晴天だ。王都中に漂っていた不安も消え失せただただ世界は輝いている。
そんな太陽の下、ベルウィング邸の庭で俺、ルーリア、ロロ。そして兵士の務めを果たし休暇へと入った屋敷の現当主、カルト・ベルウィングが居た。
俺とルーリアは木剣を用いての訓練。カルトとロロは話し合っている。
「くっそ何でルーリアってこんなに強いんだよっ……オラッ!」
「私は元々剣を振るのが得意だった。初心者のヨルになんて負けない」
「グッ!?」
俺の渾身の一振りを軽く弾き、ルーリアは俺に肉薄してくる。そして片手に持った木剣をしならせ、遠慮無しに痣を水で治した俺の首元へと叩き込もうとする。
仕方ねぇ。これ以上殴られるのは嫌だし、本気出しちゃうよ? こっすい本気だけど。
俺の首へと叩き込まれるはずだった木剣を片手で鷲掴み。剣と剣で打ち合うはずだった訓練のため反則。だけど仕方ないよね、ルーリア強すぎだから。
「は! 見たか反射神経という点において俺はルーリアを上回っている!」
「それっ、反則……!」
「はいそこまで」
俺がルーリアの木剣を掴み、逃げられなくなった所へ今までの礼も含めて一発お見舞いしてやろうと剣を振りかぶった瞬間後ろに人の気配がし、いつの間にか俺の背後に回り込んでいたカルトが俺とルーリアの木剣を取り上げた。
「今の動きは良いよヨル。君は水をかければ傷が治るスキルだっけ。剣術では間違いなくルーリアが上だ。けれどね、大切なのは『自分の強みで戦う事』。だから傷を負ってでも敵を倒すという姿勢は『君の強み』と言えるだろう」
カルトは自分の言ったことに自分で頷きながら続ける。
「ま、これが本物の剣だったら手の指ごと首が飛んでるけどね。そこまで再生できるのかなぁ?」
「考えたくも無いですね」
「ガードするなら掴むんじゃなくて腕で止めると良い。堅い骨がもしかしたら刃を止めてくれるかも」
「う、うん」
真面目な顔して結構ぶっ飛んだことを言うカルトにちょっと気圧されながらも、俺はカルトに朝一番に伝えていたことを聞く。
「それで、日喰中に起きた事件に関係ありそうな人って見つかりました?」
「いや、ロロとも話してみたけど流石に犯人を特定するのは無理そうだね。だけど君達を屋敷に泊めたエルの判断は正しかった」
「下心丸出しだった気もするけど」
「ハハハ! それもあるだろうね。これからは日喰時には警備をつけるようにするから多少は安心してもらえると思う。といってもそんなに長く居るつもりないんだって? ロロが言ってたよ」
「はい。あまり長く居るのも迷惑だと思ったので……どのくらいで剣術修められますかね?」
俺がそう聞くとカルトは腕組をしながら「うーん」と頭を悩ませている。そしてしばしの時間をかけて出した期間は、
「半年。長くて一年ってところかな」
「意外と短いんですね」
「ま、今出した期間はヨルが武器を、いや体をどう動かせばいいのかを教えるのにかかる時間だ。それが出来るようになれば一通り戦えるようにはなる。そこから強くなれるかは君次第だ」
基礎的な事を教え、そこからは自分で訓練を積めという事か。剣術がどのくらい時間をかけて上達していくのかはあまり知らないが一年やそこらでは基礎が限度くらいなのだろう。
「わかりました。頑張って半年くらいで覚えられるように頑張りま……す?」
俺はカルトの言葉に少し間をおいて答える。
カルトはそれなりに身長もあるので近くで話す場合少し上を向かなくてはいけない。カルトの顔を見上げると、その目は俺を映していなく訝しむような表情で青い大空を見つめていた。
「……何だ?」
「え? うわっ!?」
カルトが低くそう呟いた後、腰に提げていた剣を抜刀し俺とルーリアを背中の方へと押しやる。
な、何だ一体。
そう言おうとした瞬間、カルトは声から焦りがはっきりと感じられるような声色で、
「何か来るぞ!」
カルトがそう言った数秒後、ベルウィング邸の庭が大きな炸裂音と共に大きな地響きを発し砂煙が舞い上がる。砂煙や衝撃音、地響きは精々ベルウィング邸全体に行き渡るくらいの小さめのものだ。
だがそれらが発生する一瞬、俺は白い雷のような物を視界に捉えていた。
「……パーシヴァル?」
舞い上がる砂煙の中に俺の中で浮かんだ単語を送る。
すると砂煙はまるで切り裂かれたかのように霧散し、それを巻き起こした生物の姿を映した。
少し凹んだ修練場土の上に雄々しく立つは白の一角獣。まるで電気で砂の微粒子を弾いているのではないかと思わせる程に白い体には汚れが無い。そしてその堂々たる直立はこの世界に来てから何度も見た、
「パーシヴァル! パーシヴァルじゃんか!」
そしてその白き一角獣に仕えるように背後には黒い傷だらけの馬、キズガラスがひっそりと佇んでおり、「正直こんな移動方法自分がするとは思ってなかった」みたいに落ち着かない様子だ。
「キズガラスまで! どうしたんだお前ら!?」
俺は二頭の前まで駆け寄っていきそう質問する。するとパーシヴァルはその堂々とした直立を崩さず、
―――私たちは貴様の『剣』。力を欲するとき私たちは貴様の隣に居る。
とだけ呟き長い首を反らせて大空を見つめていた。
「ってか上から降ってきた? どうやってここまで?」
―――遊び好きの友に送ってもらった。
「送ってもらったって……お前みたいなデカ馬を持ち上げるような奴がいるのかよ」
と俺がパーシヴァルと会話していると正面からロロが超警戒態勢で近づいてくるのが見える。そう言えばカルトも抜刀してたような。
……当たり前だバカヤロウ! 空から正体不明の生物が降って来てあろうことか俺が話しかけに行ってるとか異常事態だ説明せねば!
「あーその皆さん。これは僕の友達です」
「離れろヨル。そいつは魔力を持っている。危険だ」
「あーカルトさん違うんです。エルから俺の腹の契約印の話聞いてませんか?」
「聞いたが……まさか、そいつが契約者か?」
カルトは心底驚いたという表情で固まっている。無理も無いか、いきなり自分の屋敷の敷地に馬が二頭落ちてきたらそりゃ驚くわ。
てかどんだけ上空から落ちてきたんだ、足折れないのか?
いろいろな疑問があるがそんな心配を感じさせない程のパーシヴァルの直立だ。
「うおぉー白黒の馬だカッケェー! こいつら夜の馬かよスゲェー!!」
ロロは会話を聞いてなんの突っかかりもなくそれを飲み込んだようでパーシヴァルとキズガラスの周りをウロチョロしていた。
そして抜刀していたカルトは渋々ながらも剣を下ろす。パーシヴァル達に敵意が無いのを見切ったような目をしていた。そしてカルトの後ろでルーリアが面食らったようで腰を抜かしていた。
「……わかった。取り敢えず契約印の話をもう一度聞こう。それと飼うのであればヨルたちの家に持ち帰ってくれよ」
頭を悩ませたようにカルトはそう言い、結局エルがみんなの前でもう一度契約印の事を話す事で収まりがついた。しかしパーシヴァルとキズガラスは廃屋の方で住まわせようとしたのだが、パーシヴァルが「無用だ」といってまた何処かへ行ってしまった。
マジ何しに来たんだあいつら。
時々ベルウィング邸の庭にキズガラスが出現したりするので近くで暮らしているのは確かなようだが……どっかの馬小屋占拠してんじゃねぇだろうな?
まあ、あんな事があった後だから少しだけ見守られてる感があって頼もしい、かな。
そして俺とルーリアは剣を、ハティは魔法を教えてもらいながらの生活が本格的に始まった。
とある日の剣術訓練
「違うヨル。もっと体全体を使え。敵を剣で撫でるんじゃない。一発で致命傷を負わせるほど深く、だ」
「うっす!」
カルトの教えは実に素晴らしかった。
騎士の戦い方みたいな形式的なものを教えられると思ったが、実際は違う。より効率よく、より確実に敵の命を奪う事に特化した体の動かし方を教えてもらった。
残虐、では無いのだろう。負けた者を辱めない。だが殺す。そんな冷徹な戦い方を。
冷徹……冷鉄?
鋼『鉄』の国と冷『徹』をかけたギャクだよ笑えよ。
とある日の魔法訓練
「契約印というものは契約生物と魔力を相互交換することが出来るそうです。故に互いの魔力の乱れがよくわかるのだとか。ヨル君はあまり感じないみたいですがパーシヴァルはかなり魔力の流れに敏感みたいです」
「なるへそ。それで?」
「わざと魔力に乱れを作る事でパーシヴァルに助けを求めることが出来るのではないかと。後恐らく契約内容の関係から一定魔力を差し出すと『必殺技』使えると思いますよ」
エルの教えはとても理に適っていた。
多少大雑把ではあるが大事なところはしっかり押さえ、それでいて契約印の研究、発見に余念が無かった。
必殺技。まさかそんな言葉を聞く日が来るとは。アレだろうか、俺もあの白い雷魔法を使えるようになるのだろうか。
そそる、物凄いそそられる。が、契約印を通しての魔力提供は難しくとてもお世話になっている間に身に着けることは不可能だった。
そうやって俺たちは王都でベルウィング邸にお世話になりながらも訓練を行う。覚えることは実に多く、大変だったがやりがいのある毎日であり、そんな濃密な半年はあっという間に過ぎていった。