表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
治る身体の異世界ライダー  作者: ツナサキ
二章 死の蔓延する国
20/55

二章09 日喰前の日常

 「じゃあ行ってきまーす」


 ロロが訪れた少し後の事、俺とハティは服を買いに出かけるべくベルウィング邸の玄関先にいた。


 「はい。でもお金の使い方は大丈夫ですか?」

 「大丈夫」

 「道のりはわかりますか?」

 「商業地区だっけ。なんとか」

 「ハンカチは持ちましたか?」

 「どこのお母さんだよ」


 かなり心配しているのかエルは沢山の言葉を投げかけてくる。


 「人通りが少ない道は避けて下さいね。知らない人に話しかけられてもついて行っちゃダメですよ」

 「わかってるよ」

 

 そしてようやくエルの小言から解放され、俺とハティはベルウィング邸を出る。その際一回屋敷の方を振り向いたのだが、やっぱり大きいなぁ。屋敷の維持が大変そうなのは目に見えてわかる屋敷だったが、そんな屋敷の一室からこちらを見ているルーリアを発見する。


 しかしルーリアは俺と視線が合うと、片手で頭を痛そうに抱えながら部屋の奥へと消えて行く。その姿はまるで、何かを思い出そうとしているように見えた。




______




 商業地区 中心街


 「ふえぇ……やっぱり人が多いねぇ」


 「だな」


 エルから教えてもらった通り、商業地区の中心街まで来た俺たちだった。物を売り買いするのであればやはりここが一番良いらしい。


 今歩いている道は馬や馬車が走る道路のような区別が無く、人、馬、馬車などがせわしなく交差している。割合的には人八割、馬一.五割、馬車0.五割といった感じである。だから基本的に人の海を馬がかき分けていくといった方がいいだろう。


 道の両端には多くの店が立ち並び商売に精を出している。食べ物、武器、衣服、何を売っているのか不明な怪しげな店。様々な店があるが、それと連動するように道行く人もまた多種多様なものであった。


 今夜の夕飯の食材を買いに来たような主婦から明日の戦いに備える冒険者的な人まで、実に多種多様。


 「はぐれるなよハティ」


 「うん。でもヨルの事見失っちゃいそう」


 「俺ら子供だからねぇ。じゃあはい」


 俺はハティに手を差し出す。

 握っておけば離れるという事も無いだろう。ハティは俺の手を握ってニマァと表情を崩していたが、どちらかと言うと俺は小さな妹を連れているというイメージに近かった。

 ハティは自分が姉だと言い張りそうだが。


 「えーと、エルが言ってたのはこの店、か」


 一応店に来るのが初めてだったためエルにどこの店が良いか聞いておいた。店の感じは至ってシンプル。店中に入って見ることも出来るが試着室らしきものは無く、色んな服を売っている雑多な店という印象だった。


 店に入るとハティの仕草が見て取れるほどせわしなくなる。遠目に見ている店員ですら『ああ、あの女の子初めて来たのかな』みたいな目でこちらを見ている。それ程ハティは目を輝かせて店内を見回していた。


 「子供用子供用……ここか」


 子供用エリアを見つけた瞬間もうハティは我慢できないといった感じに飛び出し、置かれている衣服に飛びついた。


 「うわぁヨルすごい! 色んな色の服あるよ! あれもこれも……うわぁぁ目移りする!」


 そうしてハティが一人で盛り上がっている間に俺は持ち金を確認する。とは言っても枚数を沢山持っているわけでは無い。忘れてないかの確認とどれだけ持ってるかを大まかに確認するためだ。


 「陽銀貨一枚と、陽銅貨十一枚ですか。ま、これだけありゃ多少は買えんじゃねぇかな」


 俺は近くにあった服の値札を見る。服なんて安いものだと考えていたのだったが、すぐにその思考は吹き飛んでしまう。


 

 製法:マナ式製法

 値段:陽銀貨十枚


 「は?」


 高い。驚くほどに高い。手持ちの十倍必要だと?

 納得がいかなかったので他の服の値段も調べてみる。


 陽銀貨八枚。陽銀貨十四枚。陽銀貨五枚。


 値段にバラつきこそあるものの、基本的に高い事は十分に分かった。

 値段の近くに製法:マナ式製法と書いてあるのは比較的安い印象ではあったが、それでも高いぞ。


 「すみません。陽銀貨一枚で買える服ってありませんか?」


 近くにいた店員らしき人に聞いてみる。


 「一枚ですか。ありますよ」


 「ホントですか?」


 「ただどうして品質は落ちますが……奥の方を探してもらえればあると思います」


 店員はそう言っていたので奥の方に入り服の値段を見る。まあ、安い事は安いがそれでも陽銀貨一枚くらいはするようだ。精々ハティの服一着が限度だな。


 「あ、ヨル見つけた! えへへー。これ似合うかな?」


 「あー似合うとは思うけど……予算超過デス」


 ハティが見つけてきたのは黒を基調とした上着とズボンのセットだった。どことなくエルが着ていた物と印象が似ている。もしかして俺が惚れちゃいそうとか言ってたの気にしてるんだろうか。


 「そっか……じゃあ仕方ないね……予算ってどのくらい?」


 「確かハティも同じ量の金手伝いで貰ってたよな。だから、陽銀貨二枚と陽銅貨二十二枚だな」


 「ヨルの分も使っていいの?」


 「いいよ」


 現状使い道と言えば床屋代くらいしか思いつかないし、それも自分でやればタダだから別に上げても問題ないだろう。


 「じゃあ銀二枚と銅十一枚か……」


 「え? ハティの銅貨は?」


 「無くしちゃった」


 「おい」


 「だってー細かいんだもんー」


 「はいはい別に怒ってないから」


 ふくれた感じで迫ってくるハティを躱して俺はそう言う。

 うむ。財布みたいな金を入れる袋が欲しいな。聞くところによると銀行みたいなシステムもあるらしいが廃屋在住の子供に利用できるかは怪しい所だ。


 「じゃあ私は一銀で探すからヨルも一銀で私の服選んで! 可愛いやつだよ!」


 「あ、ああ。わかった」


 とは言ったものの、何を選べばいいんですかね。

 じゃああれにしよう。ハティはスカート以外持っていないから動きやすいようなズボンとそれに似合う上着にしよう。予算が足りるか怪しい所だがセットで売られてるやつであればいけそう。

 女の子にプレゼントする服としてはいささかセンスがないかもしれないが有用ではあるだろう。


 ということで俺は安物の紺色の上着と白いズボンを選択。

 完全にどこにでもいそうな無難な服のチョイスになってしまった……しかも俺でも着れそうな感じ。


 「やだ。俺の服選びのセンス無さ過ぎ……?」


 仕方がないので取り出した服をもとの場所へと戻し、また一考する。

 

 「よし。じゃあハティは魔法使いだからローブにしよう。あれ、魔導士だっけ? どっちでもいいか」


 それなら無難だ。センスとかいう煩わしいものの入り込む余地は無い。俺が考えるべきは色、サイズのみ。


 「ハティは髪色が白の割合多いから白が良いかなぁ。あえて黒にしてコントラストを前面に出すのも良いけど頭髪でコントラストが成り立ってるからくどくなるしな」


 という事で藍色のローブに決定。

 機能的にはローブというよりは外套に近いだろうか。前を開いて胸元で止める感じだ。装飾や模様は全く無いものであるがこれ以上高いのは予算的に無理。


 「しかしまぁ、服買うだけでこれだけ悩むことになるとは」


 「ヨルヨルー!」


 俺がハティにあげる服を見繕った辺りでテンションの上がったハティの声が後方からした。目を向けるとそこにハティがいるのだが、持っている大量の服で顔が隠れて見えない。


 「どれがいいかな!?」


 「んー。出来れば全部買ってやりたいんですが、これかなぁ」


 正直これ以上服について悩みたくなかったのでハティが持ってきた服の山から適当に一着引きずり出す。

 しかし俺の手に引きずり出された服は、ゴシック調の衣服だったしかもミニスカ。


 「おい何でだよ! 何でこんな吸血鬼が着てるみたいな服混ざってんのさ!?」


 「可愛かったからつい」


 「やべぇよ! 俺が見繕ったローブと合わせると完全に吸血鬼だぞこれ!?」


 「ワハハハ。今宵の私は血に飢えておるぞぉ」


 「こら! 公衆の場で人の首筋に咬みつこうとするんじゃありません!」


 店内は他の客もおりそこまで静かでもなかったので人目に付くという事は無かったが、店内で暴れるのは控えていただきたい。通りかかった店員がそんな目でこちらを見ていた。


 「ガブッ」


 「アルバッ!?」


 店員に愛想笑いを浮かべて誤魔化していたのもつかの間、俺の視界から外れていたハティがガブリと首筋に咬みついて来ていた。


 「甘噛み」


 「ハハハハティさんそういうのは人目に付かないところで僕を押し倒して抵抗できないようにしていだだけると」


 つい本音が出た。いや別にそんな趣味は無いが。

 しかしハティは聞こえていなかったのか、はたまた先程俺が言った吸血鬼の役に入り切っていたのか、


 「吸血鬼の真似ー。アハハハ」


 「ったく。ハハハハ」


 俺の首から離れて可愛らしく笑っていた。

 その笑顔は心から街中へ降りてきたのが楽しいといった風であり、釣られて俺も笑いが零れた。


 「うわ。これ八銀する」


 ハティがゴシック調のミニスカの値札を見て凍り付いた。マジこの国は布不足にでも陥ってるのか? 俺たちが貧乏なだけかもしれないがそう思った。


 「マジかよ。あ、取りあえずこれハティに」


 そう言って俺は藍色のローブをハティに渡す。正直な話気に入ってくれるか心配であったが、


 「えへへ。ありがと、大事にする」


 笑顔でそう言ってくれた。

 まあその後すぐに後ろを向いて自分で持ってきた衣服の山から予算内に収まるように衣服を選び出していたが。店内にいる間中ハティはずっと舞い上がっていたようだった。


 結局ハティは白い感じの服を一銀で購入。俺の見つけた藍色のローブを一銀で購入し、金が底をついた。

 銅貨十一枚。お菓子でも買えるだろうか。

 

 取りあえずベルウィング邸に戻ってからまた屋敷の掃除、飯の準備やらあるだろうから来た道を戻るために歩いていると正面から見知った顔が歩いてくるのが見えた。


 「お? さっきのイカした髪の……夜だったか?」


 「お前は、ロロだっけ?」


 先程ベルウィング邸に顔を出し、そしてすぐさま外へと飛び出していった褐色肌の少年。ロロだった。


 「買い物か」


 「ああちょっとね。そっちは?」


 「あー。腹ごしらえ、かな。ところで夜。何か困ってることはあるか?」


 突然ロロはそんな事を聞いてきた。

 こいつは……お人よし系の人なのか?


 「いや、特に無いけど」


 「そうか。何か困ったことがあれば俺に言いな! 値段交渉は応相談。額によっちゃ何でもやってやるぜ! 『フリースピア』のロロをよろしくぅ!」


 違った。あれだった。ただの宣伝だった。


 フリースピアが何を意味するのかは知らないがよくわかるのはただの売り込みだったという事だけ。二つ名的なものだろうか。聞こうと思ったがその時には既にロロは元気よく人混みの中へと走り出してしまった。


 「何か……通り雨みたいな人だね」


 ロロが人混みに消えて行くのを見送った後、ハティが言った。




______




 「「ただいまー」」


 俺とハティは商業区を後にしてベルウィング邸へと戻って来ていた。屋敷の大きな扉を開いて中に入ると俺たちを出迎えたのは赤い髪を水に濡らしたルーリアだった。


 「寄り道でもした?」


 「いや、してない」


 「そう」


 多分ルーリアは風呂に入ったのだろう。エルとすれ違う時に洗剤みたいな香りがルーリアから漂って来ていた。そしてルーリアは首にかけていたタオルで頭を拭きながら、


 「さっきカルトさんの使いが来たよ。あの人泊りがけで日喰に備えるんだって。だから戻ってくるのは八日後らしい。後訓練はエルさん監視の下で打ち合いだけにしとけって」


 「そっか。明日から日喰らしいからな……てかルーリア」


 「ん?」


 「風呂入ったのか……髪濡れてるとエロいな!」


 「っ!」


 何を言っているんだこいつは!?

 そんな目でルーリアは俺を見た後に、ギョッと驚いたような顔をして何処かへ走り去っていった。何だ? 照れているというような雰囲気ではなかった。何かから逃げようとしたような、そんな……


 あ。

 背後から殺気を感じる。

 最近見ずとも殺気で誰の殺気かわかるようになってきた。といっても殺気を放つ人なんて近くにハティしかいないんだけどね。仲悪いルーリアが逃げ出すくらいだからさぞハティはルーリアを睨んでいたんだろうな。


 ポン。と優しく俺の背に手が置かれる。小さい、そして柔らかい手であったがその手にはかなり力が込められている様だった。俺はぎこちない動きで首だけ後ろを向きながら、


 「いやっ、ほらっ、事実じゃん? 別に口説いたとかそういうんじゃ……」


 「ヨール」


 「はいっ」


 振り返るとハティがムスッとした顔でこちらを睨んでいた。


 「あれでもルーリアは女の子なんだからセクハラしちゃダメだよ」


 「はいっ。気をつけます」


 「はい、いい返事」


 おお凄い。

 ハティが暴走しない。目から光が消えているものの、ギリギリのところで堪えている。てっきりルーリアを仕留めに行こうとしてそれを俺が必死に止めるという未来を予測していたのだが。

 それだけデートもとい一緒に服買いに行ったのが嬉しかったのだろうか。怒りが嬉しさで中和されているように感じた。


 「けどあいつは仕留める!」


 「わぁー待て待て待て! ステイ!」


 即座に走り出そうとしたハティを羽交い絞めで捕まえる。顔にハティの長髪が絡みついて来てくすぐったい。


 「ほらルーリア何もしてないじゃん。ただ風呂上がりだっただけじゃん!?」


 「ヨルは私のなんだから!」


 「おいハティどさくさに紛れて凄いこと言ってるぞ気づいてるか!? エルー手ぇ貸してくれー!」


 「うにゅ。誰か呼びましたー?」


 すると一階にある食堂からエルがおたまを持って現れた。


 「またルーちゃんとハティちゃんのケンカですか? もー仲良くしないとダメですよ」


 エルは持っていたおたまでハティの額をコツンと叩く。するとその衝撃で我を取り戻したのかハティは走り出そうとするのをやめた。


 「むー。だってルーリアが……」


 「『ハティちゃんのヨル』が盗られそうになった?」


 エルは意地悪くニヤニヤしながら言う。聞こえてたんかい。


 「あ、の。あぅ……」


 そしてそう言われたハティは顔を真っ赤にして言葉に詰まって口をパクパクさせている。


 「いやぁヨル君好かれてますねー」


 そのカッコいい執事服でそのニヤケ面をしないで欲しい。マジでそう思った。

 しかし言っている事は的を射ている。でなければハティがルーリアを襲いに行こうなどとは思わない。何たってハティは独占欲が強そうだしな。


 しかし真面目に考えてハティを止める俺たちが居たから良いものの、二人きりの場合はかなり危険だぞ。ハティに言い聞かせようとしても無理そうだし……これからも顔を合わせることは多いだろうしな。

 よし。ここは、


 「ハティ。俺はルーリアと仲良くしろとは言わない。けど、傷つけちゃダメだ。女の子はね」


 「むー」


 「な、一緒に色んなものを見るんだろ? 人殺したら捕まっちゃうしさ」


 そう。俺たちは山奥が不便だからここまで来たわけじゃない。色んなものを、色んな世界を見たいからここまで来たんだから。


 「……うん」


 ハティの上目遣いヤベェ。

 その仕草から可愛らしい子犬が連想できるほどに威力が高い。


 「てか一緒にいてくれないと俺寂しくて泣いちゃう」


 俺はニッと歯を見せ笑う。

 笑う事はいい事だ。笑うと緊張がほぐれる。血行が良くなる。発汗も良くなる。笑い過ぎは体に毒だが、笑顔に悪い事なんて一つも無いと思っているから。


 ことわざにだってある様に、陽気は陰気を寄せ付けない。だから俺は笑う。陰を弾くように。


 「……そっか。わかった」


 そしてハティも歯を見せニッと笑う。そうそうこれだよこの笑顔。好きだなぁこの笑顔。


 「ヨ、ヨル……言葉漏れてる……」


 「え、嘘。まぁいいや事実だし!」


 そしてまた笑う俺と恥ずかしそうに笑うハティの微笑ましい光景を見て、その場にいたエルは緑髪を揺らしながら、


 「二人は笑顔がよく似合いますねぇ」


 少しだけ目を細めながらそう言ったその顔もまた、笑顔に感染していた。


 「そういえば今日は美味いスープでも作ろうかと思ってるんですが、ハティちゃん得意なんでしたっけ?」


 「うん得意だよ!ねぇねぇ私も手伝っていい?」


 「はい。是非お願いします」


 「お。ハティ作るの? じゃあ俺も見てよっと」


 そして俺たちは廊下を歩き、食堂へと入って行った。

 ハティのスープ楽しみだ。果たして普通の物になるのか、はたまた壊滅的な澱み輝く紫スープになるのか。非常に楽しみである。


 ベルウィング邸は一階に食堂がある。

 部屋の端に厨房と繋がっている扉があり、そこからやたら長い机のある大部屋へと行き来が出来るようになっている。案の定天井にはよくわからない鉱物が埋め込まれたシャンデリアが吊られており、豪華絢爛。本当に金に困っているのだろうか。


 「ヨル君そこのお皿取って下さい」


 「あいよ」


 現在俺、ハティ、エルは厨房スペースにて夕食の準備をしている。と言っても俺は皿出したり物運んだりしかできないのだが。

 ちなみにルーリアは使用人ではなく、市民権をベルウィング家から貰っておりどちらかと言うと食客、養子みたいな感じになっている。しかしあくまで『そんな感じ』であり、厳密にカルトは言及しなかった。

 ルーリアを気遣っての事なのか、それはわからない。


 そんなこんなで基本的にルーリアのやる事は訓練のみであり、雑務はやらない。自分の住んでいた村が壊滅したばかりの少女に雑務させるのもあれだが、掃除くらいは手伝ってくれる。


 しかしそれを持ちだすのであれば更に深く掘り下げる必要がある。挙げるとすれば、


 ルーリアは元気過ぎる。


 この一点に尽きる。

 数日前に両親が死に、壊滅した村の生き残りだと言われてもそうは見えない。明るいとも言えないが、それでも不自然さを感じるほどであるのは否めない。

 多分俺たちと同い年くらいであろうルーリアであれば、まだ落ち込んでいても不思議は全く無い。しかしルーリアは俺を虐めながら口元を歪めるくらいに元気だ。


 更に罪ではなかった、直接その現場を見てなかったとはいえ母親だったもの・・・・・を斬った俺の事を恨もうとしない。


 もちろんこの世界、この国ではそういう事が当たり前。例え従者になった肉親が攻撃されてもそれは仕方がないという考えを人々が持っているのならそれも頷ける。


 「――ル君」


 しかしもしそうでない場合、ルーリアは間違いなくおかしい。

 という事は……


 「ヨル君!」


 「おおう!? ゴメンちょっと考え事してた」


 「厨房でボーっとするのは危ないですよ……ほら、ハティちゃんがスープ作りましたよ」


 考え事をしていると突然眼前にエルの顔がドアップで描写されたため思考を中断しハティの近くの鍋を覗き込む。すると鍋の中身は綺麗な琥珀色に輝いており、小さな窓から入り込む夕日と鮮やかに調和していた。


 「おお。紫色じゃない! スゲェなハティ超美味そう! いやーもうハティさんには頭が上がりませんわー」


 「エッヘン!」


 「……尊い」


 自信満々に胸を張るハティを見ながらエルがニヤケ面を手のひらで隠し、小さくそう呟いたような気がした。


 というかやっぱ具材が悪かったのか。

 エルがチマチマ様子を見ていたが結局手を貸してはいなかったからな。

 多分山で採れた『何が』があの紫色を創り出していたのだろう。





……毒じゃないだろうな、あの紫スープ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ