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治る身体の異世界ライダー  作者: ツナサキ
二章 死の蔓延する国
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二章08 少年少女

 あれから数日が経った。


 と言ってもどこかに旅へ出たわけではないから王都にまだいる訳だが。

 内容的にはこうだった。俺とハティはガルディアから貰った廃屋で起き、ベルウィング邸へ向かいそこでエルの指示の下働く。この国で生きていくための通貨等の知識やらを仕事の合間に教わりつつカルトから戦いを学ぶ。かなりハードな毎日だった。まぁエルはかなり俺たちを甘やかしてたけど。


 そんなこんなで暮らしてきたため、まだ王都内の道は廃屋からベルウィング邸までの道のりしか知らない。家から学校までしか電車の乗り方しか知らない的な、あれ。


 ルーリアは剣術メインの剣士志望らしいので俺と一緒にカルトから剣の手ほどきを受けているのだが、ルーリアめっちゃ強い。

 はっきり言うと近づけない。打ち合いの訓練とかやらされたんだけど、強すぎる。何が強いって力ももちろん強いんだけど、速い。疾風、まさに風のに動く。そして動きが何というか、ギザギザしてる。言うなれば雷のような感じだろうか。左から来ると思ったらいつの間にかに右から剣が俺の腹に入っている。とても捉えられない。


 しかも訓練中終始口元を歪ませており、俺をいたぶるのに楽しさを見出しているような表情だった。マジ怖い。

 しかも水をかけて治している所を見られてしまった。それからというもの俺の事なんかお構いなしに殴りかかってくるという最悪の事態に。けど内出血でも治るのは凄いな。骨とかも治るんだろうか。折れた時に試してみよう。


 「死ねぇぇぇ!!」


 「誰が死ぬかぁぁあ!!」


 「……」


 俺は絶句していた。


 現在はルーリアとハティが剣と魔法による壮大なファンタジー異種対戦を繰り広げている。ルーリアは剣を持ち魔法を放つハティに突撃し、それをハティが迎撃するという内容だったのだが。


 「二人共化け物だ」


 ハティは得意属性である炎魔法使用している。ハティのオリジナルの魔法『燃え盛る槍ランス』だ。オリジナルといってもそんなに難しいものではない。とエルは言っていた。曰く、槍の形にして投げ飛ばしているだけ。らしいのだが、それだけであそこまでの威力が出る理屈が不明だ。


 「化け物ですね」


 隣で戦いを観戦するエルが屋敷や柵の外に飛んでいこうとするランスにそこら中に浮かせた大粒の水滴の様な水魔法をぶつけて相殺しながら軽く言った。

 俺からすれば流れ弾に魔法をぶつけてるあんたも化け物なんですがね。


 エルはルーリアの名前をルーちゃんと呼んでいた。ルーリアちゃんでは少し長いもんな。


 そう言うルーリアはなんと、ハティの放つ魔法を持った木刀で軽々と弾いて見せていた。理屈はこうだ。ルーリアの持つあの木刀にはエルが魔法をかけてあり、どうやらそれが『魔法を弾く魔法』らしい。あまり威力の高いものは弾けないらしいのだが、威力の高い=家一軒軽く吹っ飛ぶくらい。らしい。


 「しかしまぁよくも数日でここまで強くなるな。そう言う俺は弱っちいままだけど」


 「気を落とさないで下さいよヨル君。二人は素質がありました。それこそちょっと磨けば光る程にね」


 「俺には素質が無かったっていうダメ押しになってるんだけど」


 「うっ。ほ、ほらヨル君は素が生存に優れてますし。それに魔法陣も解読すれば何かわかると思いますよっ」


 ガルディアが言っていた『心当たり』とはエルの事であった。だからこの前エルに腹の魔法陣の様な紋様を見せてみた。エルが言うにはこうらしい。


 「ちょっとよく調べてみないとわからないですけど……これは『契約印』というものですね。契約印というのは言葉の通りですが魔力を持った何かしらの生物と契約した際に体に刻まれる物の事を言います。契約の内容はそれこそ千差万別ありますからよく調べてみましょう」


 契約印というものらしい。

 考えるにパーシヴァルとの契約印であるというのは間違いないと思う。思い出してみると共に歩もうとか何とか言っていた記憶もあるし、俺だけに声が聞こえたというのもそれが原因かもしれない。


 「おいチビ! さっき死ねって言ったろ!」


 「フン。ヨルを虐める奴なんか死ねばいい」


 どうやら二人のバトルは引き分けに終わったようでゼイゼイと息を切らしながらこちらへとケンカしながら歩いて来ていた。


 「何?」


 「知ってるんだから! ヨルが傷を治せるからって訓練中に本気で殴ってるでしょ!」


 「本気でやらないと訓練にならないしー。それに悪いのは弱いヨルでしょ」


 「グヌヌ……ヨルをバカにするな!」


 「「フン!」」


 大分ソリが合わないらしい。顔を合わせればすぐケンカすると言っても過言ではない程だ。でも思う。ハティは結構過保護なところがあると。

……まあヤンデレ気質だからおかしくは無いのか。でもあれだろ? これでルーリアが俺に惚れるようなことがあった場合ハティはガチで病むかもしれないわけだろ?


 ま、そんな事無さそうだけどな。


 「何見てんの?」


 「いや別に」


 「何よ。言いなさいよヨル」


 「え、えーとその」


 ハティはエルから魔法についての指摘を受けている様でこちらには気づいていない様だった。しかしルーリアはこちらにズンズンと近づいてくる。


 「ルーリアの髪って赤くて綺麗だね。俺赤って昔から好きなんだよ」


 苦し紛れの戯言ではない。本音だ。俺は幼少の時から赤という色が好きだった。赤い車なんか見るとよくはしゃいでいたしな。服なんかも赤とか橙色とかを好んできていた。

 まぁどうでもいい事だが、言いたいのは俺が赤が好きなのは本当という事だ。


 「……嘘言わないでよ」


 「嘘じゃねぇよ? 俺色の中なら赤が一番好きだけどな。だからって血を見ると元気が出るほどマゾでもないけど。赤色の髪って王都でもあんまり見ないけど珍しいのかな?」


 「……知らない」


 そう言うとルーリアは素っ気ない態度を保ったまま屋敷の方へと戻って行った。おや。これは地雷を踏んだ予感。言うなれば恋の地雷……何言ってんだ俺。今の無し。


 ともかく、褒められて満更でもなかったらしい。普段なら嘘つくなと言いながら殴りかかってきてもおかしくないのだが、大人しく俺から離れて行った。照れてんのか?


 「ヨルくーん。戻りますよー」


 エルが俺を呼ぶ声に気づいた俺は二人の元へ向かい、共にベルウィング邸の中へと入って行った。


 そしてそんなヨル達をベルウィング邸を囲う外から眺める人物が一人。『白黒混じった』ツートンカラーの髪をした旅人は、


 「あれは……」


 そう言った旅人の顔には驚きと喜びが張り付いており、歪んだ口で、


 「化け物かよ」


 小声で軽くそう呟いた。




______




 ベルウィング邸二階 勉強室


 部屋の中には四人いた。

 俺、ハティ、エル、ルーリア。部屋の真ん中には大きめの机が置かれており、俺達は向かい合いながら座っていた。座学を教えてもらう時は大体この部屋を使っている。


 「では今日はこの国の特徴について勉強しましょう。ルーちゃんは知ってるかもしれませんがおさらいという事で」


 俺の向かいに座ったエルが楽しげにそう言った。


 「まずヨル君。この国の名前と所属地方はわかりますか?」


 そしてエルは俺を指差しながら言う。というか今からそれを勉強するんじゃないのですか。


 「えー。ゴルウズ……王国? 王都だから王国だよな。地方はガル兄が言ってたような……イリス地方!」


 「ええ。ゴルウズ王国であっていますよ。ですが残念。所属地方はマクス地方です」


 「そうだった。まるでどっかの英雄みたいな名前だった」


 「ではっ、この国の特徴は何でしょうか!」


 「エルは教えるの下手くそだね」


 「何と!?」


 「教える人に聞くかね普通」


 無論下手なわけでは無い。わからずとも想像を巡らせて考える力を養うという方針なのだろう。


 「屁理屈言わないで考えてくださいっ。ハティちゃんはわかりますか?」


 エルはハティに質問を振る。ハティも聞かれる前から考えていたようですぐに口を開き、


 「汚い」


 「ええ!?」


 無慈悲にも言い放った。余りに辛辣な言葉にエルはビックリしている。


 「どこですか。どこがそんなに気にくわなかったんですか!? あ、住処ですか!?」


 「全部」


 「具体的には!?」


 「何か臭いし、家には管みたいなのが刺さってるし、全体的に灰色だし」


 「そりゃあ俺ら森のど真ん中で暮らしてたからね?」


 さり気なくフォローを入れておくが、どうやらこの国しか知らないであろうエルにとっては結構ショックだったらしい。


 「でもたくさん人がいて楽しい!」


 「そうですか……王都臭いですか……まぁ王都のくせに工場とかいっぱいありますもんね……って違います! そういう事を聞いたんじゃありません!」


 「特産品とか、そう言う感じ?」


 「そうですそれが聞きたかったんデス!」


 「んー。いってもそんなに詳しいわけでは無いからなぁ。ルーリアはわかる?」


 そんな事は知ってて同然と言わんばかりに口を開くルーリアだったが、何処か不機嫌そうだった。


 「まぁ、一番有名なのは『鉄』かな」


 「そうです! ゴルウズ王国一の物と言えば間違いなく鉄です!」


 エルのテンションがヒートアップしてくる。


 「マクス地方は地中を走るマナは少ないんですが、その代わりに多くの鉄が眠っている土地なんですよ」


 「鉄か」


 確かに国のいたるところに鉄やら鉱石系の物が使われているなとは思っていたが。となると武器の製造なんかも盛んな土地だったりするんだろうな。


 「ええそうです。また、ゴルウズはマクス地方でも鉄を加工する技術に特に優れていますよー。ですからゴルウズは『鋼鉄の国』なんて呼ばれたりもしますね」


 俺が国に来た時の第一印象と同じだった。


 「スゲェな。どうりで至る所に鉄製品があるんだな……もしかして安価だったりもするの?」


 「はい。ゴルウズではとても多くの鉄製品を生産していますから、武器を安く買えるという点では旅人に優しい国でもありますね。ただ今はレイル・ロードのことがありますので旅人はあまり通りませんが」


 「はい。質問質問」


 俺は手を上げながら無邪気に言う。


 「はい、何でしょう」


 「二つあるんだけど、一つ目。地中を走るマナって何?」


 先程エルが言っていた事だ。その言葉から察するに地中に何かが流れているのだろうか。溶岩、ってわけじゃないか。マナっていうくらいだから魔力的な何かなのだろうけど。


 「ああ、マナとはですね。地中を流れる魔力の事です。ただ私たち生物が操る魔力とはちょっと質が違いましてですね、人が触れると過剰魔力反応を起こして死にます」


 「怖っ」


 いわゆる龍脈、的なものだろうか。

 かなり危険なものらしいけど知っている以上何かしらの使い道があるんだろうか。


 「ですが魔力を使用する物……この国で言う時刻塔ですね。ああいうものを動かすのに重宝されます。いわゆる『魔道兵器』です。ま、時刻塔はマナ消費も微々たるものですし、マナを消費して動かしている塔も一つだけですからね」


 「一つだけ? 十個あるのでは?」


 「一つだけマナで動かして、他はそれと同期する形で歯車などを使って設定してるんですよ。けどどの時刻塔もピッタリ正確ですよ」


 「ほほう」


 「あと一つは何です?」


 そしてエルはこちらに質問を飛ばす。その通り。あと一つある。あまり聞きたくない事だがいずれは知ることになるはずだ。


 「さっきレイル・ロードって聞いて思ったんだけど、何で『従者』は太陽の下に出てきてるのか知りたいんだ」


 その言葉に一番早く反応したのはルーリアだった。

 ピクリと眉を動かしただけに過ぎなかったが、それでも感情に起伏があったのには間違いないだろう。それを知ってた知らずか、エルは声のトーンを落として話し始める。


 「あれは、死体だからです。厳密には魔物ではないんですよ。ただ死体が動いているだけ・・・・・・・・・・だから……太陽の下でも活動します」


 理屈はわからないがなんとなく理解した。

 確かロードは夜の大陸から現れる魔物で強い奴の総称だっけ。つまり『従者』は魔物に分類されるけど厳密には夜の大陸に生息するような魔物ではない、という事か。ややこしいな。


 「じゃあ夜の大陸に棲む魔物は太陽の下に出てこない?」


 「はい。出てきません。仮に出てきたとしても本来の力を全く出せなくなるので負けることは無いでしょう」


 ドラキュラみたいに塵になって消滅。とかではないのか。


 「けど朝の大陸にも魔物はいるよね?」


 「そうですね。朝の大陸と夜の大陸の魔物。これの違いは未だに解明されていませんが……っと脱線しちゃいましたね。今日はこの国についてですから……地理行きましょう!」


 苦手な奴来たー。学校の授業で一番嫌いな奴だよ。

 別に方向音痴とかいう訳じゃないんだけどさ……国の首都だとか地方とか隣接する国の名前とか。そう言うの覚えるの苦手なんだよ。


 「ではこちらをご覧下さい」


 エルはそう言いながら机の上に大きな紙を広げていく。幾度も見たようで初めて見る忌まわしいこいつは、


 「世界地図」


 「ええそうですよ。これがガルム大陸の全容になります」


 古臭い感じの地図ではあったが、これが……

 今俺のいる、『世界』か。


 縮尺とかはよくわからないが形ならよくわかる。結構ボコボコしていて形への形容は難しいが確かに大陸だと思わせるような形をしている。

 そして目立つのは大陸の左側を三、四割ほど占める灰色の土地。


 「この黒い部分が夜の大陸か?」


 「ええそうです。魔物たちが沢山いる地域ですね。本当かどうかわかりませんが金銀財宝が眠っているなんて噂がありましてですね。自分から行こうとする人もいるらしいですよ」


 「どれどれ? わぁホントだー黒い部分あるね」


 俺が指差したところを隣に座るハティが覗き込むようにして見ている。結構ハティの着ている服は汚れてきている。一着しかないから仕方ないとはいえ、そのままにしておくのも不衛生だし、何よりハティは『白』ってイメージがあるから汚れているのは似合わない。通貨については教わったし労働分は貰ったからそれで買ってあげようか。


 「どしたのヨル?」


 「え? いやハティの服汚れてるから新しいの買った方が良いんじゃないかなって思って」


 俺だけ服貰ってるのも不平等だしな。山小屋行って替えの服を取ってくるにしてももう何着かあっても困らないだろう。


 そう思っての発言だったが思いのほかハティは表情を明るくして、


 「ホント!? じゃ、じゃあヨルも一緒に選んで!」


 「俺も? そりゃ心配だからついては行くけど……女物の服装に詳しくないし、ハティの好きなやつで良いんじゃない?」


 「いいの! ついてくるなら選ぶぐらいいいでしょ」


 「良いけどさ……じゃあ午後から行くか」


 「うん!」


 ああ、いいな。


 ハティの屈託のない笑みを見ていると心が洗われるようだ。ハティは嘘ついても見破れそうな感じだし……いや、俺騙された事あったわ。意外とポーカーフェイス得意だったわ。


 「何ですかヨル君。勉強中にデートの約束ですか? 感心しませんね」


 正面を向くと頬杖をつきながらこちらをニヤニヤと見つめるエルと目が合う。


 「デートって、ただ服買いに行くだけだって」


 「立派なデートですよ。ただ、行くなら間違いなく今日行った方がいいですね。明日から『日喰』ですから歩くのも大変です」


 「ああ。そうだっけ」


 そう。明日からは7日間世界が闇に覆われる。『日喰』が起きるのだ。

 思えば俺は日喰の時に湖に落ちてきたらしいけど、その時は意識なんて無かった。故にこれが初めての体験。


 ハティに聞いたことがある。どの位暗くなるのかを。

 明かりが無ければ何も見えないらしい。それ程までに暗くなるらしいのだ。といってもそれは森の中での話だ。ここは沢山の人が住んでいるし街灯のような設備もそれなりに見受けられるからそこまで暗くはならないのだろうが。それでも心配だ。


 「ちなみにマクス地方はここにあるんですが……何かおかしいと思いませんか?」


 「え?」


 「よーく見て考えて見て下さい。この国は今、夜の大陸のロードの被害を受けているんですよ」


 そう言いながらエルは不敵な笑みを浮かべてガルム大陸の中央にある一区画を指差す。


 何だ? どういう事だ? 

 周りの地方とかよくわからないし、今俺がわかる事と言えばマクス地方は夜の大陸に直接面していなく、四方が他の地方に囲まれているという事だけしかわからないが……


 「あ!?」


 「気づきましたか?」


 「昼飯食い損ねた」


 ズゴンと鈍い音を響かせてエルが椅子から転げ落ちる。今時そんなリアクションする奴初めて見た。


 「冗談冗談。夜の大陸と面していないのにロードの被害を受けているって所でしょ?」


 「そ、そうですそこです。それとお昼ご飯の件はすみません……早めに切り上げて夕ご飯にしましょう」


 基本俺たちの一日はほとんどがベルウィング邸での時間を占めている。朝はガルディアに紹介してもらった廃屋で起き、そこから日が落ちるまでずっとベルウィング邸で雑務、訓練で一日が終わる。


 ついでに食事もさせて貰っている。厚かましい? いんだよその位厚かましい方が子供らしいだろ。日喰が終わったら一旦山小屋戻って要り様な物を取りに行こうと考えてるから、それが終わったら変わるかもしれないが。


 「それで何で夜の大陸に面してないのにロードの攻撃受けてるの?」


 「ええ……それが問題なんですよねぇ。先程も言ったんですが、夜の大陸の魔物は自身の力がうまく発揮できないこの大陸に渡ってくることはありません。本来は太陽が力を失う日喰の時のみ来るんですが……」


 「ふむ」


 「これは恐らくなんですが、『レイル・ロード』はマクス地方の何処かに潜んでいます」


 「力を出せないのに……留まっている?」


 「はい。太陽が昇っていても『従者』が消えないのはそれが原因だと。これは意見が分かれるところなんですが、留まっているため従者は消えず、日喰の際にレイル・ロードが力を取り戻すために従者が狂暴化する。という説が有力ですね」


 という事は日喰時の従者は更に強いという事か。恐ろしいな。


 「わかりましたか? もし王都外でレイル・ロードを見つけても近寄っちゃいけませんよ。食べられちゃいますからね」


 「そんなホイホイ見つけられたら苦労しないだろうに」


 「つれませんねぇヨル君は。ここは『キャー怖いぃ!』って誰かに抱きつくところですよ?」


 「きゃーヨル怖いよぅ」


 「ヘドバン!?」


 エルの言葉を聞き取った瞬間、隣のハティが俺のわき腹目がけてベッドバット、もとい抱きついてきた。そしてグリグリと頭で腹を抉り、上げた顔は満面の笑みである。可愛い。


 「ちっ」


 そしてそれを見たルーリアはやかましいと言わんばかりに悪態をつき、席を立って部屋近くの窓辺に歩いて行った。嫉妬? 嫉妬ですか?


 そんな目で見ていたら睨み返されたので俺は視線を止む無く切った。


 「にしても地理の勉強じゃなかったっけ?」


 「ハッ!? そうでした。ちなみにこちらがマクス地方の簡略図になります。ゴルウズはここです。更にこれがゴルウズの間略図になります。王都はここです」


 エルは更に別な地図を二枚取り出して淡々と説明をする。ルーリアが席を立ったが彼女は知ってて当然の無いようだから別に問題は無いという事だろうか。


 「ざっくりしてんなぁ」


 「まぁ正直言うとこんなの知ってても意味無いですよ。旅するにしたって地図さえ読めれば迷ったりなんかしませんから! アッハッハッハ!」


 「……ちょっと」


 「「「ん?」」」


 エルの笑い声を遮ったのは、訝しむようなルーリアの声だった。俺は振り向き窓辺に行ったルーリアに視線を送るがルーリアの目線は窓の外に向かっている。


 「この屋敷に出入り可能は人数は?」


 「え? 住んでる人って事ですか? ヨル君達も含めると、私、カルト君、ルーちゃんの五人ですけど」


 「じゃあ不法侵入。黒い少年みたいな人が屋敷の中に入って来たよ」


 「え!? 泥棒ですか!? バカですねよりによってベルウィング邸に入るとは! ケチョンケチョンにしてあげますよ!」


 「と、取りあえずエルを追うか」


 エルが部屋から飛び出していった後の沈黙の後、俺はそう言った。

 よく考えたらカルトが居ない時は男って俺だけなんだな。やべぇハーレムだよ。


 泥棒退治に飛び出したエルを追う足取りがウキウキしていたのを感じた。


 


 二階から降り、出入り口にしては明らかに大げさなほど大きい屋敷の玄関まで辿り着いた俺の目の前に飛び込んできたものは、


 「あー! ロロ君じゃないですか!」


 少年に向かって懐かしむような声で話しかけているエルの姿だった。


 「おうエル姉久し振り! ロロ・シャード。ただ今帰還したぜ!」


 ロロ・シャード。

 そう名乗った少年は腕を組んで仁王立ちしている。


 少年を形容するには一言で足りた。

 『黒』だ。


 上半身には衣服を身に着けておらずズボンを履き、額にバンダナのような物を巻き付けている。全身が黒目の褐色肌で身長は俺と同じくらいか。どちらかと言うと痩せた感じの体型であるためか上半身にしなやかな筋肉がガッシリついており、鍛えられているという印象が見受けられる。更にはボサボサで手入れがされていないような黒い髪と相まって彼自体の黒さに拍車を掛けていた。


 「カルトの野郎は居るか?」


 「カルト君は勤務中ですから居ませんよ。帰ってくるまでここで待ちますか?」


 「いや。居ねぇんだったらいい。また明日来る。明日は居るか?」


 「明日は日喰ですからまた仕事で居ませんね……」


 「そっか。じゃあ兵士連中に聞いて探すわ」


 俺と同じ歳くらいではあるが結構荒々しい言葉で少年は話す。するとエルの後ろに接近した俺達に気づいた様で、


 「エル姉。後ろの奴らは何だ? エル姉のガキか?」


 「違いますよっ! 一体私はいつ出産したんですか!?」


 「カカ! 冗談冗談。まあ理由とかめんどくさいから聞かねぇけど……おいお前」


 「え? 俺?」


 独特な笑い声を上げながらロロと名乗った少年は俺を指差す。


 「お前……スゲェ髪色だな! 染めてんのか?」


 「地毛だ」


 「地毛か! イカしてるな!」


 「そりゃどうも」


 第一印象は陽気なオラオラ系褐色少年という印象だった。褐色=女の子=エロいというのが俺の勝手なイメージだったが、今褐色と言われたらこの少年と言う他にないくらいにインパクトがあった。


 だってそうだろう? 突然屋敷に入ってきた少年が上半身裸の黒肌なんだぜ?

 記憶に残らない方がおかしいってもんだ。


 「俺はロロ・シャード。お前さんは?」


 「俺はヨルだ」


 「夜か。見たところ歳も近そうだしよろしく!」


 ちょっとヨルのニュアンスがおかしく、『夜』と俺の名前を覚えたみたいだったがまあ大きな間違いでは無いしいいか。


 「隣の女の子は?」


 ロロは俺から視線を外して隣のハティとルーリアに視線を送る。彼もまた、屈託のない笑みを見せていたが、流石にハティには叶わない。


 「ルーリア」


 「私はハティ! ねぇねぇ君何で肌が焦げてるの? それって全身? それとも傷なの?」


 ルーリアはいつもの態度を崩さずにそっけなく答えたが、ハティの目にはロロがとても珍しい生物に映ったらしい。ロロの近くへと走って行きながら彼を質問攻めにしていた。


 「ルーリアにハティかよろしく! んで俺の肌の色か? ま、生まれつきだな。そういう人種ってこった」


 別にロロは嫌そうな表情は浮かべてはいない。ただハティの好奇心丸出しの質問攻めに気圧されているといった印象だった。


 「ロロ君。どうせですからお茶でも飲んでゆっくりしていきますか?」


 エルが仲良さそうにしている俺たちに気を遣ってくれたのかそんな事を言ったのだが、


 「いや、カルトを探しに行くからその時間は無ぇな。また今度。そん時はみんなの話を聞かせてくれよ! 夜、ハティ、ルーリアのな!」


 そう言いロロは玄関の外へとつながる扉を押し開け、手を振りながら外へと駆け出した。


 ロロ・シャード。

 黒肌の彼は己が道を走る。

 彼にとってここで皆と出会えたことが幸運だったのかもしれない。一人ぼっちの彼は見つけたのだから。友を、仲間を、相棒を。そうこれは、


 『一人ぼっち』が集まった、少年少女の物語。

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