二章06 得意な事は生きる事です
「あのーカルトさん。本当に今やるんですか?」
「早いに越したことは無いだろう?」
「そうですけど……まあいいか」
俺たちはベルウィング邸の庭にいた。
草木が生い茂る方ではなく、門から屋敷までの道を挟んで反対側の土が見える方にいた。
カルトは手に訓練用の木剣を持っており、軽く振り回しながら準備運動を整えている。買い出しに行ったエル以外のほかの面子は少し離れた場所で観戦している。ガルディアは腕を組み、ルーリアは愉悦的にこちらを見ている。ハティは少し心配そうにしながらも止めることはしなかった。
「片手で持つには少し重いな、両手でいくか」
俺はカルトに渡された木剣を強く両手で握り締める。
「さあこいヨル!」
「っしゃあ! 先手必勝!」
構えとかよくわからないので切っ先を足元に向けて下段の構えを取りながらカルトに突撃する。剣術というものは習ったことも無いが『従者』と化したルーリアの母親と戦った時に大事なことをいくつか学んだ。
剣で戦うのに必要なものは『間合い』の取り方だ。
銃であればほとんど間合いを意識する必要は無いだろう。実際銃火器を使った戦争と言うものは膠着すると狙いも間合いもあまり意識出来なくなるらしい。聞いたところだが。
だが剣は違う。精々一メートル。長くても二メートルぐらいの物を振って戦うとなれば間合いと言うものが大事になってくる。如何に敵の攻撃を避け、如何に敵の懐まで入り込むかが大事だ。
「うりゃあ!」
軽く雄たけびを上げながら一気に踏み込んで下段からカルトのわき腹を狙い斬り上げる。肉に木剣が入り、軋む音を聞くことになると思ったのだが、そう簡単にはいかなかった。
「甘い」
「っ!?」
両腕でかなりの力を込めて振ったのにも関わらず、カルトは片手で持った木剣で軽く俺のスイングを弾いた。剣に剣を当てて受け流したのではなく、振り払うように弾いたのだ。
「っと!? マジか!」
「ふむ。あんまり力無いねヨル」
「結構本気だったんスけど」
「さぁもっと打ち込んできな」
しかし何回も何回もカルトに打ち込むが、当たる素振りは見えず全て弾かれる。しかもまるで壁を殴っているのではと思うくらいにカルトの持つ木剣は微動だにしない。流石に勝てるとは思っていなかったが、ここまで強いとは。
ヨルが何回もカルトに向けて打ち込んでいる最中、それを近場で見ているルーリアが呟く。
「手加減とか出来ないのかあの人」
「カルトの『スキル』は制御不能だからな。勝手に発動しちまう以上手加減を知らないと言うよりは手加減が出来ないの方が正しいんだろうな」
「その話やっぱり本当なんだ……」
「お、聞いたのか?」
「ええまあ」
かれこれ何回打ち込んだだろうか。既に俺は息切れしており、対するカルトは何か思うところがあるようで首をかしげている。
「スキル使っても良いよヨル?」
「俺のスキルはっ、回復なんでっ、ゼェ、攻撃には無力です……」
「そっか。回復とは珍しいね。じゃあ今度は僕から行くぞ? しっかり止めるんだよ、でないと怪我するからね」
そしてカルトは俺に近づき木剣を振る。
だが非常にゆっくりだった。まるでスローモーションで動いているのではないかと思うくらいだ。だが周りの時間はいつも通り動いており、カルトが意図的にそういう動きをしているのだとわかる。
しっかり止めろと言われたから取りあえず剣を剣に当てるべく前へと差し出したのだが、
「力を入れてしっかり踏ん張って」
「は、はい」
カルトがそう言葉を差し込むことが出来るくらいにゆっくりだ。だが、
「っあ!?」
剣と剣が接触した瞬間、莫大な負担が木剣、腕、身体へと掛かる。渾身の力を込めてカルトが俺を押し潰そうとしているのではないかというくらいに感じた。地面につけているだけだった足はミシッと筋肉の軋む音がし、腕に全力を込めてもゆったりとしたカルトの剣は止まる素振りを見せない。
俺の身体が危険信号を発していた。
このままでは木剣に潰されて両断される。
咄嗟に全力で踏ん張っていた足を体ごと後ろへ後退させて回避する。腕も木剣ごと引き抜いたため右腕にカルトの木剣が一瞬当たったのだが、鉛を押し付けているように重く感じた。
「っあぐ! な、何だ今の……」
「大丈夫かい?」
すぐにカルトが駆け寄ってきた。
どうやら俺はカルトから数メートルほど離れている。しかし自分ではそこまで後退したつもりは無い。
ということは、
木剣と地面に挟まれ、後退した瞬間潰されているスーパーボールのように弾き飛ばされた。
ということだろうか。額に冷や汗が流れるのを感じた。
「危機回避は中々だ。咄嗟の判断は素晴らしいものがあるね」
「な、何ですか今の……」
「ん? 何が?」
「その木剣めっちゃ重いんじゃないですか?」
「いやそんなこと無いよ?」
カルトは持っていた木剣を俺に手渡してくるが確かに重くない。俺が持っているものよりは重いが精々誤差程度だ。しかし先程のアレは確かに潰されそうなほどの重圧があったはず。
「もしかして本気で力込めました?」
「僕のスキル、とだけ言っておこうかな」
「はぁ」
自慢げな笑顔を貼り付けながらカルトは言う。
力が強くなる、みたいなスキルだろうか。
「どうですかかね。俺は強くなれそうですか?」
簡単に手合せしただけでそんな事もわかるはずないのだが、不思議とそう聞いてしまう。きっとカルトならわかってしまうのではないか。そう思いながら、
「戦いに向いているかという意味なら、『向いてない』ね」
「そう、ですか」
随分あっさりと余命宣告されたような、そんな気分だった。
そりゃそうだろ。底が見えないくらい強い奴に『向いてない』と言われたのだから。それは凹む。
「ただ、君は『強さ』とは何だと思っている?」
「え……敵をバッタバッタと倒せる人?」
「それも一つの強さだ。だが強さとはそれだけではない」
カルトは木剣の切っ先を地面につけ、柄頭の部分を握った拳でコンと叩く。すると恐ろしい現象が起きた。地面は土であるが日々の修練に使われているからか踏み固められておりとても固い。それなのにも関わらず、殴られた木剣は鈍い音を響かせて切っ先が地面に潜り込み突き刺さった。
「これも強さだ。けれど僕は強さには多くのものがあると思っている。計略を駆使し戦況を操る事も強さだし、恐怖に立ち向かえる勇気だって強さだ。わかるかい?」
「なんとなく」
「自分に出来て他人に出来ないことがあるとすればそれは強さ、『強み』だ。それを生かせるようにするっていう事が強さだと思うよ。そのうえで大事なことは自分が何をできるのか。それを知ることが大事なんだ。まずはそこから頑張って行こう」
「はい!」
「今日はここまでにしておこうか。まだここに来て一日も経っていないだろう? やる事も多いだろうからね」
そして俺とカルトは皆が待っている所まで一緒に歩いていった。
しかし見ると顔ぶれが違っている。
ここまで俺達を連れてきてくれたガルディアの姿が見えない。その代わりとして買い出しに行ったエルがハティとルーリアの間に立っており、手には服らしきものをいくつか抱えている。反対の手ではこちらに向けてブンブンと手を振っていた。
「エルさん。そういえば俺服が欲しいとは思ってましたけど、エルさんに言ったっけ?」
「ハティちゃんから聞いたんです。もっと良い服を着て欲しいって言ってましたよ」
そっか。多分ベルウィング邸の探検に応接室から出て行った時かな。
ハティの服を改造してもらったとはいえ上着の色合いは少女チックだしズボンはツギハギ。ハティも気になっていたのかな。
「ありがとうハティ」
「でもヨルは女の子の格好でも似合うんだよ?」
「何を言うんだハティ。確かにそうかもしれないが俺はスカートは苦手だ」
「そう思って一つ良い物を持ってきましたよ! ほら! 私が着てた女性物の普段着!きっと似合いますよ!?」
まさにヤブヘビ。
草むらを突いたら緑色の獣が飛び出してきた。その可愛らしいジト目が血走っている。
「ね、ね? ちょっと着てみましょう? 少しだけで良いんですよ、少しだけ」
そう言い荒い息遣いをしながらエルが近づけてくるのは綺麗な白のロングスカートが目立つ女性物の服だった。その上から黒のアクセントをつけるために小さめの黒い衣服が重ねられている。
「いやです」
「そんな事言わないでくださいよぉ。ねーねー着てみましょうよー」
「何でそんなに着せたいんですか。俺は男です」
「男の子に! 可愛らしい服が似合うのは! 素晴らしいじゃないですか!」
「……」
そんな熱く言われても。
何なのだろう俺の周りの女性は。まとめてみるか。
ヤンデレ。
ドS。
変態。
うん、まともなのが一人もいないぞ! 全員可愛いけど! そこは嬉しいよね!
「あれ、ガルは?」
キョロキョロと周りを見渡していたカルトが不思議そうに言った。
「あ、兄さんですか? 帰りました。『俺もやることが色々あるから帰るわ』って言ってましたよ」
「あいつ結局お茶飲んで子供たち押し付けていっただけじゃないか。ああ別に迷惑ってわけじゃないよ? むしろ大助かりなんだから」
純粋にガルディアへの不満だったのだろう。愚痴をこぼしたすぐ後に俺達に向けてカルトは謝罪してくれた。
「ね、ね。ヨル君コレ着て見ましょうよぉ」
「いやです」
頬を赤く染め息を乱しながらエルはじりじりとこちらに近寄ってくる。最初はただ後退するだけだったが目がマジになっているのを確認したのでハティを盾にしながら俺はエルから逃げ回る。
てかこんなキャラだったかのかこの人。
「この国では子供に手を出すと犯罪になるみたいな法律は無いんですか!?」
「あるよ」
「カルトさん! エルさん犯罪者になりますよ!」
「服を着せられるくらいじゃ犯罪ではないでしょ。じゃあ僕は剣片付けてくるから」
あろう事か使用人の暴走を止めもせずにカルトはこの場から離れていく。
しかも相変わらずルーリアは『もっと困れ!』みたいな表情を浮かべているし、この白状者共め。
「あ! 他にもカッコよさそうな服持ってるじゃないですかそっちを下さいよ!」
そうして俺はエルが持っている別の衣服を指差すが、
「まぁまぁ。まず先にこっちを着てみましょうよ」
こいつもまた人の話を聞かない奴だ。
どうやって切り抜けようか考えていると後ろに気配を感じる。何やら、背筋が凍るタイプの気配。ハティではない。
け、気配? あっ、まずい。
「あがっ!? る、ルーリア貴様裏切ったな!?」
「ククク……」
そこには俺を羽交い絞めしながらまるで悪役の様な笑い方をしているルーリアがいた。親と村を亡くして数日しか経っていないのに元気な奴だホントに。悲しいとか無いのかコイツ。
「そんなに俺のこと嫌いかお前!?」
「私は決めたんだよヨル……」
「な、何を」
「母さんを斬ったお前に恥辱を与えまくるって!!」
「マジ最低だなお前!?」
「殺されないだけマシだと思え!」
「チクショウ! 反論できねぇ!!」
そして反抗も出来ない。くっそ本当にルーリア力強い。羽交い絞めにされたら逃げ出す術が無い。そして正面からはエルがジリジリこちらに向かってくる。頼みの綱はハティだが、
「ハティ! 助けてくれー!」
そう言いハティに助けを求める。が、ハティは動いてくれない。それどころか少し可愛らしく笑みを浮かべている。まさか、まさか。
「既にハティちゃんは了承済みだよ。見てみたいって」
エルのその一言にコクリと頷くハティ。なるほど笑みを浮かべているわけだ。
「ってうぉぉおおいマジかぁ!?」
驚いている間にもエルは近くまで近づいてくる。仕方ない。出来るかどうかは知らないがやるしかない。あれを。
俺は魔法を使う準備へと入る。
しかし今までのような手のひらから魔力を放出するようなやり方ではない。腕に魔力を集中させるようなイメージで、詠唱はわからないから省く。
「うるぁああ!!」
「「「!?」」」
瞬間、俺の右腕が光り輝く。どこまでも白い光が俺たちを周囲の空間後と包み込む。ガルディアがあの時使った光魔法を見よう見真似でやってみる。俺は魔力や魔法を制御するのはどうやら得意ではない。だがゼロか百であればお安い御用だ。
「くっ、またか!」
ガルディアと違い光るのに少し時間を要してしまったようでルーリアは咄嗟に目を閉じることに成功したようだった。しかしそのお陰か拘束が少し緩む。その隙を利用して俺はルーリアから離れることが出来た。
「おお! 出来た。やってみるもんだな」
「逃げたいから光魔法使うとか……アンタ子供か!」
「子供だよ!」
不機嫌そうに怒るルーリアにそう言ってのける。
しかしあれだな。出来るもんなんだな詠唱無しでも。詠唱はイメージを固めるためのサポートみたいなものなんだろう。『右見て左見て、もう一度右見て』みたいな? ちょっと違うか。ルーティーンかなどちらかというと。
「いやービックリビックリ。いきなり光魔法使うんだもん。でもあれかな? ヨル君は光属性が得意なのかな?」
目に当てていた手を下ろしながらエルがあまり驚いていないような声色でそう言った。
「いやわからないです」
「そっかそっか。ちょっと調べてみようか」
「?」
エルは服を持っていない手のひらを広げる。多分魔力を込めていると俺が察した瞬間、その手のひらの中心に光の玉のようなものが出現する。強い魔力信号は感じないのでクロノのような簡単な魔法のようだ。
「それは?」
「ただの光魔法。ただし近くにある魔力の質によって色を変えるように制御をしてあるの。これをヨルにぶつけてみると得意属性がわかると思うよ。だから服脱いで?」
「手にぶつければいいのでは?」
「くっ鋭い」
こいつどうしても俺にスカートを履かせたいらしい。
「折角だから全員計測して貰ったらいいんじゃないかな?」
剣を置いて帰ってきたカルトが少し離れた場所からそう言った。
「あ、カルト君。そうですね。みんな計っちゃいますか」
「よしじゃあ予想しようかな。うーんルーリアは炎かな?」
「その心は?」
横から俺が合いの手を入れてやる。まるで落語家のような合いの手だったために意味が通じるか少し不安だったのだが、
「見た目」
「まんまかよ」
どうやら通じたらしい。
まあルーリアの髪色は燃えるような赤だし言いたいことはわからなくもない。
「ハティちゃんは光かなぁ。何かこう、フワフワした感じだからね」
「そんな適当で当たるんですか?」
「大別して六属性しかないから単純に考えても六分の一だしね。当たる可能性もあると思うよ」
そう俺の問いに答えたのはエルだった。
そのままエルはルーリアの手のひらに光の球を手渡すように置いた。
「どう光るんです?」
「単純さ。炎なら赤、水なら青、雷なら黄色、光なら光量アップ、闇なら黒、命なら紫。簡単だろ?」
「ちなみにカルトさんは?」
「僕かい? 僕は闇と命だよ」
「得意属性二つとかあるんですか」
「凄い人は全部とかもいるらしいね」
ほへー。全部とかよほど魔法に愛されている人なんだろうなぁ。
「あ……」
十秒経たないうちにエルから手渡された光の球がルーリアの手元で変色を起こす。
正直俺も十中八九ルーリアは炎属性だと思っていたのだが、光の球はドンドンと色鮮やかさを帯びていき、そこまで大きな変化は見られなかったものの、確実に色は変わっている。
『黄色』だ。
「黄色。つまりは雷だね」
「私が雷……意外。自分でも炎だと思ってた」
外れたなカルト。
そんな目でカルトを見ると軽く咳払いした後で、
「いやぁ見た目なんて当てにならないね!」
と高らかに言った。
「じゃあ次は、ハティちゃん行きましょう!」
そしてエルはまたしても自身の手のひらから光の球を出してハティに手渡した。
「ハティはどう思いますか?」
「うーん。命とか光とか?」
「俺は炎だと思いますね。ああ見えてハティは炎魔法の扱いが凄い上手いんですよ」
「なるほど。根拠があるわけだ」
一方光の球を手渡されたハティはその球に力を込めるようにして球を持っている。『グニニ……』と言っている姿が可愛らしい。
その甲斐あってかルーリアよりも早く変色が訪れる。やはりと言うべきだろうか。光の球は暖色系の色へと変わり、最終的に光の球は見事な『赤色』へと変貌を遂げた。
「ホントだヨルの言った通りだ!」
「だろ? 事ハティに関してなら今俺は世界中の誰よりも詳しいぜ? 寝る前には必ずトイレに行くとか飯食う時は必ず最初に左の奥歯で物を嚙むとか……」
「きゃあああああ!? そう言うの人前で言わないでよぉ!!」
「ギャアアアア!! アジジジジジ!?」
テンパったハティがこちらに向けて赤く変色した球を羞恥の余りか投げつけてきた。どんな効果があるかわからないから手でキャッチしたのだが、手が危うく焦げるかと思うくらいに赤い球は熱を持っていた。
「もう、ヨルのばかっ」
「危な! 熱持ってるよこの球!?」
「そりゃ属性に染まる様な魔法だからそうなるよ。ちなみにこれ簡単そうに見えて凄い難しい魔法なんだぞ? エルも習得に数年かかってるからね」
「エヘン! その通りです! 褒めてください!」
エルは自信満々にそう言いながらまた手のひらから一つ光の球を出現させる。
無論、次は俺の番だ。
「カルト君。ヨル君は何属性だと思います?」
「そうだねぇ……闇かなぁ。髪色も黒の方が比率高いし。おおガルディアの言った通りモフモフ」
考えながらそう言ったカルトは俺の頭に手を置いてワシャワシャと俺の髪をかき回す。ガルディアが触り心地良いと言っていたのを密かに気にしていたようだ。
「ハティちゃんは?」
「ヨルは水かなぁ。ヨルは傷に水をかけると傷が治るっていう異能、あ、スキルなのでそうかなぁって」
「ほほう面白いスキルだ。エルとルーリアはどう思う?」
「ヨル君は炎ですかね。理由はありません、勘です」
「命。命属性は変わり者が多いって噂聞くから」
カルトに振られた二人がそれぞれ答える。
そうだなぁ俺としてはやっぱり水がいいかな。炎とかも情熱的だし光とか闇なんかは中二心をくすぐられるが、やっぱり自分のスキルとマッチしているというのは使いやすそうだしな。
「ではヨル君。これをどうぞ」
「うっし、どうせなら七色に光らせてやんぜ」
「属性は六つだけですよ?」
「そうだった」
テヘ、と軽く誤魔化しながらエルから光の球を受け取る。見ている分には感じなかったが、こうして手に取ってみると魔法由来の物であるという実感が湧く。球自体は重力から影響を受けておりコロンと手の中に収まっている。だが流石は光の球だろうか、重さがまるで無い。
エルは近くの魔力に影響を受けると言っていたがやはりハティみたいに魔力を込めた方がいいのだろうか。
「よし。魔力込めます。うおおおお! 七色に光れレインボゥ!!」
「だから六属性だって」
魔力を込める。魔力を込める。魔力を込める。
込める込める込める。
変化なし。
すでにロクに魔力の込めていなかったルーリアですら変色した時間を過ぎており、それでも俺の手のひらの球に変化は見られない。
一瞬光属性なのではと思ったが光属性は光量が増えると言っていたし、未だこの球は至って通常のままである。
七色に光るどころか、変色すらしないんですけど。
「あの、変色しないんですけど」
流石に無言の空気に耐えられなくなりそう進言する。ハティは普通の表情をしているが他三人は非常にあいまいな表情で沈黙している。苦笑というか、そんな感じの顔だった。
「あー、ヨル君。これはあれですよ。『得意属性無し』です」
「ワッツ?」
聞き馴れない七つ目の属性が出てきた。
「得意とする属性が無いんですよ。『無属性』と言い換えてもいいです。理論上はどの属性魔法でも使えるはずなんですが……その」
「魔法の才能無いって事だね!」
「ナニィ!?」
何か申し訳なさそうに言葉を濁しているエルであったが、そんなの関係ねぇと言わんばかりにカルトが止めを刺してきた。
「で、でもでも周りの魔力に影響されやすいって利点がありますよ? 火の近くなら炎魔法が強くなるし、水の近くなら水魔法が強くなるとか……」
「逆に言えば水の近くで炎が弱くなるって事ですか?」
「う、うん。人並み以上に?」
「わお! 泣いちゃいそう!」
そっかー俺魔法の才能無いのかー。べ、別に悲しくなんかないんだからね。身体に水かけてゾンビアタックする以外に道が無くなったけど悲しくなんかないんだからね。
「あともう一つ利点があります! 『魔防力』が高い点です! どの属性からの攻撃も弱めることが出来ますよ?」
「防御力高くても嬉しくねぇ……」
てか俺のステータス防御に振り過ぎじゃね? ただでさえダメージ受けても治る身体なのに『魔防力』とやらまで高いって……この体完全に『死なない事』に特化してるな。
「でも魔法は使えるぞ?」
「無属性だからって使えないって訳ではないんです。ただ、魔法を生業とする職業『魔導士』には致命的に向いてないんです」
そしてそのままエルは続け、俺は黙って聞いていた。
「得意属性がある。それだけで三つの利点が存在します。効力の強化、魔力の節約、扱いやすさの三つです。魔導士にはこの三つが戦う上で前提条件ですから、つまりは得意属性が無い=これら三つが無い状態で戦う事となってしまうんです」
「はぁ」
「ですから魔導士にはその、向いてないって事になりますね。簡単に説明しましたが教える機会があったらまた詳しく教えますね」
「ありがとうございますエルさん」
「いえいえ、それより敬語使う必要はありませんよ。ぜひぜひタメ口でエルと呼んで下さい」
俺が敬語でそうお礼するとエルはどこかで聞いたような返しをしてくる。流石は兄妹。ガルディアも同じような事を言っていた。
「では遠慮なく。ところでエルは何歳? あんまり年上だと気も引けるんだけど……」
「私? 私は十三ですよ」
え。
十三歳? なのにこんな大人びて綺麗なのか?
いやそれは偏見だ。十三歳でも綺麗な人はいる。そう言われればそれまでなのだが、レベルが違う。綺麗、優しい、カッコいい、態度が大人びている。使用人という仕事をしてきた成果なのかとても俺の知る十三歳ではなかった。
言われてみれば確かに背が大きいと言っても俺の身長より頭一個くらい大きいくらいだ。十歳くらいの男より。そう考えるならば俺も相当小さいのだ。つい日本で生きてた体基準で考えてしまっていたから年齢を高く考えてしまっていたのだろうか
あれ? 待てよ。エルが十三歳という事は?
「……じゃあガル兄とカルトさんって」
「僕かい? 僕は十七だけど」
そう言いながら大きな屋敷の現当主、十七歳の青年兵士はにこやかに笑った。
後で聞いた話だが、カルトの幼馴染であるガルディアも十七歳であるのだが、身長がデカい+強面も相まってか年齢通りに見られることが皆無だったという。
そら信じられないわ。カルトもガルディアも二十歳は超えているものだと俺は思っていたから。




