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治る身体の異世界ライダー  作者: ツナサキ
二章 死の蔓延する国
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二章04 そして僕らは強くなる

 正門から外へ出ると門の横に背中を預けている緑髪の青年が見えた。ガルディアである。どうやら意識は取り戻したようでピンピンしていた。

 辺りには人がまばらながら歩いており、兵舎近くであるからかその半分ほどが兵士であり、皆忙しそうに歩き回っている。


 「はいこれ。預かってたやつ、返すね」


 「あ、剣。ありがとうございます」


 建物に入る前に回収されたゴート爺さんの剣をカルトから返してもらった。ハティの短剣は何処かで落としてしまったらしい。多分崖登りロデオの時だろう。


 「ルーリアはこの後僕について来てくれ。ヨルとハティはガルが案内してくれる事になってるからあいつを頼ってね」


 「ガル兄は兵士じゃないんですよね? それでもカルトさんは信用してるみたいですけど」


 「え? まぁそうだね。お世辞にも堅気とも言えないような奴だけど、昔からの付き合いなんだ。ウザくて、やかましくて、バカでマヌケだけど、唯一人の親友だよ。君らをどうこうしようとか思う奴じゃないから、信用してくれるかい?」


 「もちろんですよ」


 本人の前でないとはいえこのカルトも中々臭いことを平気で言う奴だな。しかも俺と違うところは恥ずかしいと思ってないところだろうか、ケロッとしてる。


 「おお! 全員来たな。じゃあ早速だが、行くか?」


 「頼んだぞガル。なるべく安全な所を見つけてやれよ」


 「わってるよ」


 「じゃあ、二人とはここでお別れだね。けどまた会えるさ、落ち着いたらガルにでも言って僕の家まで遊びに来てよ。美味しい物が沢山あるぞー?」


 俺はこれまでの礼として深くお辞儀をした。ハティも少なからず恩を感じていたようでワンテンポ遅れて頭を下げた。


 「じゃあ行くか、はぐれるんじゃねぇぞ二人共?」


 「はい」


 「うん」


 俺たちは振り返りガルディアを追って歩き出そうとしたが、数歩歩かないうちに俺の名を呼ぶ声が後ろから聞こえた。


 「ヨル」


 「ルーリア?」


 「え、と。その……」


 俺の名を呼んだものの、話す事がまとまっていないといったあいまいな表情を浮かべて沈黙している。

 なんだろうか、また嫌味言われるのだろうか。


 するとカルトもこちらを振り向いてルーリアの肩をポンポンと励ますように叩き、


 「また会おう」


 「――!」


 満面の笑み、とは言えないが軽く微笑んでそう言った。


 そして瞬間的に俺は気づく。その言葉はまさしく、俺がハティにかけた言葉と同様の意味合いが含まれていたことを。俺がハティを励ましたのと同様に、ルーリアは俺を励ましてくれていた。自身の方が、もっと酷い目に遭っているというのに。


 ありがとう。

 そう言いたいのは山々だが、ルーリアの言葉に対しありがとうではどうも流れがおかしくなる。やだなぁもう、こういう時なんて言えばいいんだろうな。

 ハティはなんて言ったっけなぁ……頑張る、だっけ?


 「――ぁ、ああ! また、また会ってくれるのか!?」


 ルーリアは何も言わなかったが、コクリと頷き振り返ってカルトの後を追った。

 なるほど、ハティが泣くわけだ。悪いのは俺なのに、そんな笑顔向けられたら泣きたくなるってもんだ。ハティの時は俺満面の笑みだったし、もっと涙腺に来たんだろうなハティは。




 「初対面の時とはだいぶ当たりが違うけど、何かあったのかいルーリア」


 横を歩くルーリアにしか聞こえたいような声でカルトが言う。


 「別に……」


 恥ずかしがっている。

 というよりは言いたくないといった表情をハティはしており、言葉を濁す。


 「なんだい?」


 しかしカルトはそんな事は気にしないと言わんばかりにそう言った。


 「貴方が言った通り、ヨルは悪くないんです」


 カルトが横眼でルーリアを見やると彼女は少しだけ目を細めながら、言う。自身の思いを、感情を吐き出すように。


 「それはわかってたけど、それでもあの時は誰かに怒りをぶつけたかったんです。例え母を終わらせてくれた『恩人』でも」


 「……」


 「でも、私だけが辛いんじゃないというのを知りました。みんな、みんな何かを抱えているんだって。ヨルも、カルトさんも、みんな。だからってヨルを許せるってわけでもないんだけど……」


 ルーリアは何とも言えない表情を浮かべている。


 「ああ、もうゴチャゴチャして何言ってるか自分でもわからなくなってきた……」


 何かを振り払うように頭に手を置いてルーリアは首を振る。

 カルトは知っている。この少女の葛藤を。

 何故ならカルトもまた、『ロード』により親を失っているのだから。


 一度廊下に呼んだ時、カルトはルーリアに告げていた。


 『悪いのはヨルではなく、憎むべきは『ロード』である』


 正論といえば正論なのだろうという事は当然ルーリアも知っている。知っているのだ。

 だからこそ、ルーリアはヨルをなるべく憎まないようにしていた。まだ幼い少女であり、親を失っているのにも関わらず、自身の心と戦っていた。他人を思いやっていた。

 

 「とにかく、憎むべきは『レイル・ロード』。それは同じです」


 「……ああ、その通りだ。けどさ……」


 カルトは思う。

 この女の子は戦闘も知らないただの子供だ。だが、この子は既に強い。親を失っているのに、王都に着いてからは泣いていなかった。

 

 はるか遠くの国には『竜』という生き物がいる。強靭な身体を持ち、口から吐息ブレスを吐き、翼で大空を飛び回り、どんな強い生き物でも果敢に捕食しようとする化け物。

 竜は子供を育てることが無いという。産み落とされた竜の子供たちは一匹、もしくは一緒に産み落とされた兄弟と共に生きていく。


 だがそんな化け物でも、子供は泣くらしい。親がいない、寂しい、悲しいと。

 まあそれを聞きつけて近寄ってきた生き物を無情にも捕食するらしいのだが、そんな化け物でも一日は泣くらしい。


 「泣かないんだね、ルーリアは」


 「……ぇ?」


 「悲しいなら泣きなよ。君はまだ子供なんだから」


 ルーリアの肩に触れながらカルトがかけたのは、そんなありきたりな言葉だった。

 だが、ルーリアの心もまた随分と摩耗していた。


 「泣けって……普通は、泣くなっていうんじゃないんですか……」


 「君が兵士なら悲しくても泣くなって僕は言うよ」


 「なら……」


 「今は君は兵士じゃない。今の内だよ、泣いておけるのは」


 そう。彼女が入ろうとしている世界は、そういう世界。だからこそカルトは言った。泣けと。


 そうしてカルトはルーリアの顔を覗き込むが、表情は見えない。ルーリアが自身の腕で目を隠し、嗚咽を漏らしているからだ。


 「それでいい。強くなるための最初の一歩は、心の整理だと僕は思ってる」


 ルーリアは強がっていた。心を砕いて強がっていた。

 そして決壊した。周りには知っている人が誰もいなく、自分の身の振り方すら自身で決められてしまうこの状況で、ルーリアは寂しさによって泣いた。




______




 街中を俺達は歩いていた。

 詰所に辿り着く前に通ったような大きい道ではなく、人が歩く歩道と馬車などが通る車道にわかれていないような道であった。道の両端には屋台のような様々なものを置いている店先が見え、歩いている人達も商人のような人達が多かった。


 目を離すと目を輝かせているハティが何処かへ行ってしまいかねないので手を繋いでいる。


 「ガル兄。ここは黒ずんでいる人あんまりいないの?」


 「ってことはお前ら工業地区から入ってきたのか。王都は上から見て右の壁側が工業地区になってんだ。俺達が目指してるのは左の壁側、冒険者地区だ」


 「あーだから作業員みたいな人が多かったのか」


 「ちなみに今いる場所は商業地区。色んな地区のやつが集まってくるな」


 そして俺達はしばらく歩くと、小さめの門のようなものの前まで来た。反対側も含めて五、六人の兵士がいる。


 「こっから先が冒険者用に開放されている地区。通称『武器庫』だ」


 とドヤ顔でガルディアがそう言う。なぜドヤ顔なのかは不明だ。


 「武器庫? 武器が沢山あるってこと?」


 「武器、すなわち冒険者の事である、らしい。素行が悪かろうが悪党だろうがこの国の現状、戦闘で稼いで行こうって奴は貴重な戦力だからな。そいつらが溜まる場所、つまりは武器庫らしい」


 「はぁー、武器庫」


 それなりに危険、なんだろうな。

 門まであって兵士もいるし、それなりに覚悟しなくてはいけないかもしれん。


 ハティが人を殺さないように見張っておかねば。


 「おい! そこの少、年?……少女?」


 「え? 俺?」


 と正面から軽めの鎧に身を包み、手に槍を持った兵士がこちらに近づいてくる。槍は流行ってるのだろうか。


 「なあ、俺これでも女に見えんの?」


 ハティとガルディアに聞く。しかし返ってくる答えとしては、


 「うん」

 「おう」


 ただの二つ返事しか返ってこないのである。


 「どの辺が?」


 「髪じゃねぇ? だいぶ長いし。後は服装と……顔?」


 「おいほとんど全部じゃねぇか。金手に入れたら服買ったるからな。髪は、剣で削ぎ落してやろ、ぅか!?」

 

 そう言って背負っていたゴート爺さんの剣を鞘に納めたまま胸元へと手繰り寄せるが、近づいてきた兵士に剣を掴まれて奪われてしまった。


 「何を!?」


 「何を、じゃないだろ。こちら側では武器の携帯は禁じられているのを知らないのか?」


 「あー兵士さん兵士さん、これ」


 と言いながらガルディアが兵士に近づいていき、紙のような物を渡す。すると紙に書かれている何かに目が止まったようで、紙を受け取り読み始めた。


 「……まぁ、そういう事であれば捕まえたりはしないが、道中何もしてないだろうな?」


 「何にもしてませんぜ。俺を信じて」


 「お前を信じる奴が兵士連中にいると思うなよ。今回はカルト君の直筆でもあるようだし信用するが……」


 「ひっどーい。僕が何をしたってんですか?」


 「評判だよ。お前、店先から品物を盗んだ奴を捕まえては盗んだ物を半分ぐらいくすねてから引き渡してるってな。地区の連中は盗人が減って助かるって言ってるが、届け出があればひっ捕らえても文句言えないんだぞ?」


 「しかし見逃されている。つまりそれでお互い助かってるんだから細かいことは気にするなよ」


 ガルディアの評判が悪い理由を垣間見た気がする。

 カルトにコソ泥呼ばわりされるわけだ、火事場泥棒? 違うか。

 でもガルディアは結構知られている人物らしいというのがわかる。この兵士が知っているというのもそうだが、辺りを歩いているときも声をかけられていた時もあったし、何より後ろの兵士たちも、


 「おっ、ガルディアだぞ」

 「何だあの子たち? 遂に人攫い始めたのか?」

 「まっさかぁ……家にお持ち帰りでもすんだろ」

 「じゃあ何でここの門通ろうとすんだよ」

 「それは……よし、全員武器を持て」


 あくまで知られているだけでその評判たるや余りに酷いものであったのだが。

 根は優しいんだけどねぇ、子供と歩いてると犯罪の匂いがしてくる風貌だからなぁ。歳はいくつなんだろうな。


 「クルァ! 後ろの兵士共! 人を何だと思ってやがる!?」


 どうやらガルディアにも聞こえていたようで、指差しながら門に立て掛けている槍を拾おうとしている兵士たちを怒鳴りつけた。


 「この子達の住む場所を探せってカルト君に命令されてるんだってさ」


 ガルディアから紙を渡された兵士が仲間たちの元に近寄って行き、その旨を伝える。


 「カルト? ああベルウィングか」

 「幼馴染だもんなあいつら」

 「弱みを握られたか」


 「いや頼まれただけだけど!!」

 

 言葉三つ目には罵倒ないしはけなされるという扱いなのは変わらないらしい。


 するとガルディアから紙を受け取った兵士がこちらへと近づいてきて、俺から取り上げた剣をこちらに差し出し、


 「いいかい? あの門の反対側では武装するのは許されているけど、こちら側では武装してはいけないんだよ。今回は構わないけど、本来なら犯罪になってしまうからね」


 「はい。気をつけます」


 「うん。いい返事だ。じゃあコレは返すね」


 と兵士からゴート爺さんの剣を受け取った。

 すると後ろの兵士達がこちらに向けて、


 「ガルディアー! 色々教えてやるんだぞー」

 「頑張れよー」

 「ロリコーン」


 「おう誰だ今ロリコンって言った奴ぶっ殺すぞ!?」


 そして俺たちはブツクサ文句を垂れるガルディアに続き門を潜るのであった。


 門を潜り、俺たちは道なりに進んでいるのだが、冒険者地区『武器庫』か。少なくとも名前負けはしていないようだ。

 往来を歩く人々の印象がガラリと変わった。


 街の方では兵士以外に武装している人を見かけなかったが、こちらは逆である。すれ違う誰もが腰、背中に剣や槍、弓といった武器を携えており、体躯や顔つきも屈強な者が多かった。


 「すっげぇ……」


 誰もが目立つような雰囲気を持つ人達が多かったが、俺たちもまた周囲から浮いているのを感じた。

 それもそうだろう。

 先頭を歩くは緑髪のヤンキー。非武装。

 後ろを歩くは白黒髪の双子。内ズボンの子供は剣で武装している。


 子供を攫っているようではないし、と言っても子供達が緑髪を脅迫している風にも見えない。しかし共に歩くような関係にも見えない。何なんだあいつ等。


 「って視線が感じるなぁ」

 

 と辺りを見回していると、如何にも冒険者という人達に混じってボロ布を纏った俺達くらいの子供や、扇情的な衣服を纏った女性なども見受けられた。


 うーん。スラムではないとは言っていたが、商業区と比べてしまうと貧しくは見えるな。


 「いざ見ると貧民街って感じだな。って顔してるぜ?」


 そう言ったのは前を歩くガルディアだった。


 「まあ無理もねぇ。必然的に金が無い奴らが集まるし、娼……いやなんでもねぇ」


 口が滑った。というよりは年齢的に聞かせたくない。と言った風にガルディアは口を噤んだ。


 「とにかく、お前ら住むとこの希望とかあんのか?」


 左手で口を擦りながらガルディアが言った。


 住む場所、か。

 と言うか流れ的にハティと共に住む的な事になっているのだが、いいのだろうか。

 確かにハティは俺と一緒ならと言ってくれてはいるのだが、そんな経験してきたこと無いし抵抗が無いわけじゃない。山小屋では数か月程暮らしてはいたが、まだ完全に慣れたという訳でもなかった。


 「一軒家ってあるの?」


 「いやぁ難しいだろうな」


 「じゃあ住めるようなとこなら何処でも。ハティは何か希望ある?」


 「無い!」


 「だそうです」


 ハティは何年も一人山奥で暮らしているわけだからな。正直街の住む場所であればあそこよりも便利であるかもしれない。

 まあ山小屋も湖の近くで立地的にはとてもいい場所であったのは確かだが。


 「って聞いては見たものの、金が無いから宿屋も無理だしな……」


 と言いながらガルディアは考え込む。

 働いて金を稼ぐ気はあるが確かに今の俺たちは無一文だ。この国がどんな金を使っているのかも知らないし、従ってこんな無一文の子供に住める場所など探すのは難しいのだろう。


 「……ボロくても、大丈夫か?」

 

 「人が住めるくらいであれば問題ないけど……」


 「なら良い場所がある。こっちだ」


 そしてガルディアは突然歩く進路を大通りから路地裏へと変え歩き出した。

 路地裏は何が流れているのかわからないようなパイプやら管が壁に張り付いていたのだが、そんな路地裏を多少時間をかけて歩いていると冒険者たちが通る様な中心街からは離れていき、段々と地面が石張りから整備されていない茶色い土の地面に変わり、開けた場所に出たと思ったら辿り着いたその場所は地面に薄く草が生えていた。


 そして正面には、完全に捨てられて放置されている『廃屋』が並んでいた。


 「ここは……」


 廃屋のすぐ後ろには王都を覆う壁が見えており、王都の端に位置していることがわかる。外への出口は見当たらなく、中心街へ行くためには長い路地裏を通らねばならない位置にある。

 恐らくは不便なのだろう。建てられている家は様々で、煉瓦の様な石造りもあれば木製もある。流石に鉄筋みたいな材質で作られているものは無い。


 「古いし不便だけど、ここなら金は必要ないぜ? 雨風もしのげるしな」


 「完全に廃屋だけど、どうしてこんな場所知ってんのさ?」


 「聞きたい?」


 ガルディアはこちらを向き、少し不自然な笑顔を浮かべながらそう言ったので無言の頷きで答える。すると、


 「俺は捨てられたって言ったろ? 昔はここで暮らしてたんだ。言うなれば実家ってところかな」


 捨てられている廃屋とは言ったものの人が住めそうなくらいには綺麗であり、使えそうだ。

 兵舎があったところ辺りに住む人から見れば捨てられているという認識なのだろう。


 「スペースがあったから家を建てたのは良いものの、ここに来るまでの道路や歩道すら整備されなかったために新参者には認知すらされない場所になっちまってな。おかげで身寄りのない子供だろうが金の無い奴だろうが住めるってわけだが」


 「つまり、穴場ってこと?」


 ハティが辺りを見回しながらそう言った。


 「そういうこったな。どうだ、住めそうか?」


 そう言われ俺は辺りを見回す。

 住めそうか住めないかで言うなれば、住めそうだった。

 廃屋まで行って改めて外見を見てみるとそこまでの損傷もなく、普通に使えそうな家が比較的多かった。流石に木製の家は腐ってたり柱が折れてたりはしていたが、煉瓦造りの家はそこまでではなかった。


 「つーかむしろ今まで住んでた家より広いまである。あの家部屋少なかったし」


 「ねー」


 ハティが家を見ながら肯定の合図を送ってきた。


 と言うかあの山小屋自体本来ゴート爺さんが一人で住む用の家なわけで部屋数がダイニング、寝室、物置の三つしかなかった。家と言うよりはまさに『小屋』だったわけだし、四つも五つも部屋があると果てしなく大きく感じる。


 「家と壁に囲まれて交通の便は悪いがその分住む家を選べるしな。ちなみに俺はスキルで家をよじ登ってを屋根を歩けたからそんなに不便ではなかったが」


 「上手い事スキル使うなー」


 「ある物は有効活用する。でないと生きてけないぞ?」 


 「ガルディアさん。ここは他にも住んでる人はいるの?」


 「ん? ああ、いるんじゃねぇかな。お前らみたいな子供みたいな奴もきっといると思うぜ?」


 確かに人が住んでるらしい家はいくつか見受けられた。

 洗濯物が干されている家もあったし、半壊した煙突から煙が出ているところもあった。


 「ちなみにオススメはこれだ」


 ガルディアは一つの家を指差した。

 その家は灰色の石造りであり所々が何かをぶつけたように壊れている。だが家としての機能はしており、家に入るためのドアがぶっ壊れていたものの、室内には使えそうな家具いくつかそのまま残っていた。


 「テーブルとか椅子とか残ってるんだ」


 「ああ俺も驚いた。実はここ俺が昔住んでたところなんだ」


 「え、この家?」


 「ああ」


 「ってことはこれはガル兄の?」


 「おう。しかしまだあるとは、さては最近まで誰か住んでたな? でなきゃまだ残ってるわけねぇもんな。ま、今はもういないみたいだけど」


 確かに言うとおりでテーブルや机、ベッドの骨組みのようなものは残っているものの私物や生活品のようなものは見当たらない。


 ちなみに間取りとしては部屋が五つほどある。外から家に入るとすぐダイニングのような大部屋になっているのは山小屋と同じだ。その大部屋から部屋が三つに別れており、その部屋は小部屋になっており形状は三つとも同じ。小部屋の一つに物置のような本当に小さな部屋があり、計五つだ。


 「ざっと見た感じどうだ?」


 「埃が凄いからまず掃除かな」


 「だな。木製じゃねぇから腐ることはないし、埃掃えば使えそうだな」


 「じゃあ掃除しよう!」


 ハティの掛け声と共に廃屋の大掃除が始まった。

 都合よく物置に箒があったので俺が埃を掃く。

 どこからか布を持ってきたガルディアがハティに布を渡し、水魔法で布を濡らして床を雑巾掛けするという布陣。


 ガルディアは面倒臭くなって途中で逃げようとしたのでハティが監視しながら雑巾掛けしていた。労働力が減るのは困るからな。


 そうして掃除していると正面にある家の路地裏からこの廃屋群に歩いてくる人影か数人ほど見受けられた。こちらにジロジロ視線を飛ばしながらも、他の家へと入っていく。やはり住んでいる人はいるようだ。


 「はー疲れた。二人とももう終わったろー?」


 ガルディアが机にもたれかかりながらダルそうに呟いた。


 「ありがとうガル兄。とても役に立ってたよ、もういらないから帰っていいよ」


 「非情! せっかく金の稼ぎ方教えてやろうと思ったのに!」


 「お、ぜひ教えて下さい」


 「調子のいい奴だ。まあいい。一番手っ取り早いのは!……窃盗?」


 「兵士に突き出そうかハティ?」


 「うん」


 「冗談だって。おいやめろ剣を抜くんじゃない」


 コホンとガルディアは軽く咳払いをし、仕切りなおしと言った風に続ける。


 「一番いいのは魔物退治とかを受けるのがいいんだが、仕事も多いし稼げるが危険だなぁ」


 「戦う、か」


 まあ冒険者地区なんだからそういう仕事が多いんだろうが、戦い方とか知らないんだよな。剣の振り方も知らないし。

 でもこの異世界、子供だけで生きていくには強さも必要だろうからな。


 「剣の振り方とか戦い方とかガル兄が教えてくれるとか無い?」


 「俺も教えられるほど上手くねぇから。けど教えてくれそうな奴なら知ってるぜ?」


 「流石! 顔が広い!」


 「いやお前らも知ってるぞ? カルトだよ」


 出てきたのは、聞き覚えのある名前だった。


 「カルトさんが?」


 「ああ。あいつルーリアを引き取ったし、剣術とか教えるだろうから一緒に教えてもらったらどうだ?」


 「なるほど……考えてみます。ハティも行く?」


 と聞くとハティは嫌そうな表情を浮かべていた。戦うのが嫌なわけではないようで、ルーリアと顔を合わせるのが嫌なようだ。


 「ヨルが、行くなら……」


 相当嫌そうである。嫌なことは結構顔に出る性格らしい。パーシヴァルの時もそうだった。

 しかし俺を一人にしたくないのか、はたまた自身が一人になりたくないのか。どちらにせよハティが俺から離れたがらないのは事実だ。


 というかむしろいてくれないと困るのは俺の方である。何せ俺はこの世界に生きていれば例え山奥に住んでいる人だって知っている事すら知らない可能性があるのだから。もちろんハティだって知らないことはあるだろうが、俺からすればハティはこの世界を一人で生き抜いてきた『先輩』なのだから。


 それにハティは料理が上手い。いや、見た目は酷いけど。

 多分俺がやったら家が爆発しそう、例えじゃなくて。その位ハティは料理に使う炎魔法の制御が上手い。例え家の中だろうが構わず炎魔法を発動し、即座に火力を調節してしまう。


 ちなみに俺は魔法の制御はてんで駄目だ。気を張らないと魔力が水のように流れ出て、魔法による現象が爆発的に強くなってしまう。そういった面ではガルディアと同じなのかもしれない。


 「じゃあ俺はちょっとこれから用事あっから帰るとするかな。また明日ここに来るからそれまでに決めとけよ? 別にどこかの店で働くとかでもいいんだぜ。じゃあなー」


 とガルディアはそっけなく路地裏へ向けて歩いていってしまうのだが、まるで言い忘れややりのこしがあるかのように数回こちらを振り返っていたが、結局そのまま帰っていった。


 「でもよかったよね。ヨル」


 「ん? 何が?」


 「私たちが嫌われてなかったこともそうだけど、出会った人たちがとても優しい人ばっかりだったから」


 「ああ、うん。それは俺も思ったよ。運がよかったよな俺たち」


 正直俺は出来すぎていて怖いと思うくらいだった。

 まるで、これから起こる不幸へ導かれるためだったのではと思うくらいに。

 上げて上げて、そこから奈落へ落とすための準備に思えるくらいに俺たちの出会い運は完璧なものだった。


 「うん。最初は怖かったけど、初めて見る物ばっかりで凄いワクワクして……ここに来てからずっと街並みに目を奪われちゃって」


 テヘヘと言いながらハティは自身の頭を撫でる。可愛い。


 「嫌な奴にも会ったけど……」


 多分ルーリアの事だ。折角同い年くらいの同性であるのだから、もっと仲良くして欲しいと少し思う。


 「でもでも、初めて色んな人に会えて、こんな大きな街まで来れて、とても楽しい! こうやってここまで来れたのもヨルのお陰。ありがとうヨル!」 


 「――――!」


 目が眩んだ。そう錯覚するほどに眩しい笑顔をハティはしていた。

 純粋に嬉しかった。こんなに可愛い少女がまるで物語のエンディング一歩手前といった感じに『私を森から連れ出してくれてありがとう』と言ってくれたのだ。


 思えばいい思い出もあるが、それ以上に大変だった思い出も沢山ある。

 凄い無双してウハウハの異世界生活とは行かず、あまつさえ住んでるところも良い所とは言い難い。この世界の洗礼を受け、右腕に傷が付いたりと痛い思いも沢山した。

 

 けれど、多分、それは俺も同じなんだよハティ。


 「俺も、そう思う。ハティがいなかったら今頃俺死んでる、それにハティがいなかったら楽しくなんかなかったよ。ありがとうハティ。一緒にいてくれて」


 そう言い我ながら臭い事を言ったと思っていると、ハティが俺の両手を握ってきた。突然だったので一歩後ずさってしまう。


 「ヨル!」


 「は、はい」


 そしてハティはニッと歯が見えるほどに笑いながら、


 「これからもよろしくね」


 そう言ったハティは純粋で、健気で、愚直で。少しだけ、意地悪してやりたくなるような雰囲気だったから、


 「んじゃ、末永くよろしくお願い申し上げます」


 と芝居掛かった口調で意地悪いような表情をハティに見せると、まるで茹でられているように顔が赤くなっていくが、どうやら俺がからかっていると知ったらしく何とか耐えて、


 「むー。そういうイジワル言う人は信じるなってお爺さんが言ってたよーだ。ヨルのイジワルー」


 「あっ、ちょ、ゴメン! ゴメンて! ちょっとからかっただけだって、もう言わないから」


 ハティは握っていた俺の手を乱暴に投げ捨ててふくれてしまい、慌てて謝罪する。

 そんなやり取りをしながら俺たちは、ガルディアから教えてもらったこの廃屋の中へと入って行くのだった。




______



 

 どうやら俺は、寝床運に好かれていない様だった。

 ちゃんと考えていればわかっていたはずなのだが、取りあえず掃除することで頭が一杯だったのかもしれない。


 「しまった……ベッドの骨組みはあるが、敷く物が無い……」


 致命的だった。そも、この廃屋にベッドの骨組みがあることは僥倖だったのだが、またしても一つしか無い上に敷く物が無ければ使うことも出来ない。周りの家を探してみても使えそうなものは無く、ある物と言えばどこからともなくガルディアが持ってきた毛布一枚だけだった。


 結論として地べたで寝ることになるのだが、流石に気候は穏やかでも寝る時に何もないというのは風邪を引いてしまうかもしれない。幸い家自体は石造りだから室内で木を燃やして暖を取っていてもいても引火するという事は無いだろうが、それでも毛布二枚は欲しかった。


 「良い方法があるよヨル」


 そう言ってハティは持っていた毛布を広げ、俺を恵方巻の様に毛布で巻いた後、自身もその中に潜り込んできた。


 「大胆過ぎじゃね?」


 「私は全く気にならない。むしろヨルの匂いが良い匂い」


 と何故か自信満々にハティはそう言った。


 「大分遠慮というものが無くなっていよいよ双子みたいになってきたな……」


 ハティは恥ずかしくないのだろうか。と思ったがこの満面の笑みである。


 まあハティが良いなら何も言うまい。ハティ、主張、絶対。密かにそんな決意をしていたからな。


 だが、子供とはいえ男女がここまで密着するという事はつまりそういう事であり仮に俺がハティのどこに触れても不可抗力という訳でそのままグヘヘな展開になってしまうという事もあr


 「イギャ!?」


 「ヨ、ヨル? どうしたの?」


 「痛った!! 静電気ビリッてしたんだけど!? 腹の辺りに!」


 まるで良からぬ妄想をした俺を戒めるように、腹部の魔法陣らしき紋様がスパークを起こしたような気がした。

 その電撃には鎮静作用でもあったのか獣欲に囚われかけた俺は理性を取り戻し、この世界はどうなのかは知らないが事案が発生することは避けられた。


 というか僕も子供だから事案でもないんだけどね多分☆



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