第八話 冒険者になろう
「冒険者、ですか? 」
トゥーレは唐突なスカウトに戸惑い、問い返す。
それに対してエリィは頷いた。
「はい。冒険者です」
どうやら聞き違いではないようだ。
それにしても一体何故?
セイルと二人で旅をしてきたという設定がそんなにおかしかったのだろうか。
疑問を抱いたトゥーレはエリィに理由を聞く。
「あの、どうして私を冒険者に? 」
エリィはぴんと指を一本立てる。
「一つ目の理由ですが、まずトゥーレさんが強いと思われること。この辺りの魔物は他の地域に比べて強力です。その中を護衛も付けずに旅をしてきたなんて、普通では考えられません」
しまった。
アルギスに着くまで魔物一匹の姿も無かったために平穏な地域だと思い込んでいたが、実際はそれなりの危険地帯だったらしい。
そう失敗を嘆くトゥーレに気付かず、エリィは話を進める。
「ですから、恐らくトゥーレさんは中々の戦闘能力をお持ちですよね? 最近周辺の魔物が増えてきていて、猫の手も借りたい状況なんです」
ふむ。
確かに、そういった事情があるのならば納得の行く理由である。
増えた魔物を狩ろうというのに、使える冒険者の数を増やそうとするのは自然なことだ。
半ば頷きかけたトゥーレ。
しかし、エリィにはもう一つ理由があったようで、彼女は二つ目の指を立てる。
「二つ目の理由は、トゥーレさんの職業です。」
はて。
トゥーレの職業と言えば先程自己申告した吟遊詩人くらいのものである。
それに何か問題があったのだろうか。
少し不安になったトゥーレはエリィに問う。
「吟遊詩人では何か不都合が? 」
その言葉にエリィは首を横に振った。
どうやら悪いことでは無いらしい。
「いえいえ、むしろ良かったです。吟遊詩人の方々がいらっしゃると助かりますから」
助かる?
今度の理由はよくわからない。
トゥーレはエリィに問いを重ねた。
「助かる、というと?」
「吟遊詩人の方々は補助魔法や治癒魔法が豊富ですから。普段他の方々のお手伝いをしてくださるのも助かりますし、有事の際にも大活躍してくださいます」
それを聞いてトゥーレは再び納得した。
吟遊詩人という職業は多彩な補助魔法を操る支援職である。
『The Regeneration』でも低レベルのうちから支援系統の能力を豊富に扱えると人気だった。
ある理由からプレイヤー全体のレベル層が上がるにつれてロマン職として扱われるようになってしまったが、支援専用職として見ればかなりの効率を叩き出していたはずである。
ちなみにトゥーレは完全な支援特化ではなく、どちらかと言えば戦闘向けの能力構成をしている。
とある独自の方法で吟遊詩人の『特殊能力』の欠点を補った結果、偶然トッププレイヤーに上り詰められる程の性能を発揮したのだ。
支援職のくせに前線へ出張って敵を薙ぎ倒すトゥーレは色々な意味で例外であった。
トゥーレがそんなことを思い出していると、エリィから声が掛けられる。
「どうですか? 冒険者になってみません? 」
トゥーレは考え込む。
「そうですね.....」
冒険者になってみても良いかもしれない。
トゥーレにとって悪い話ではなく、幾つかそう思う理由もあった。
まず一つ、この世界での生活基盤を整えるのにちょうど良いと思ったこと。
今まで忘れていたが、自分はこの街に来たばかりでなにもわからない。
食事をするにせよ、宿をとるにせよ、誰かに教えてもらわなければならないのだ。
そして、冒険者ギルドはその「誰か」にうってつけの存在だった。
二つ目に、冒険者になるのが公的な身分を手に入れるもっとも簡単な方法であること。
トゥーレはこの世界に飛ばされて来たわけであって、当然身分証などない。
しかし、冒険者ギルドに登録するともらえる冒険者タグはどうやら身分証明に使えるらしいのだ。
これを逃す手は無い。
その他にも幾つか金銭などの細々とした理由もあったが、概ねこの二つだろう。
(うん、冒険者になってみよう)
そして決断したトゥーレは俯いていた顔をエリィに向け、口を開く。
「冒険者になるのも、良いかもしれませんね」
それを聞いたエリィの表情がパッと輝いた。
「本当ですか!? ありがとうございます! 」
余程嬉しかったのか、トゥーレの手を握ってブンブン振り回している。
「あの~」
「へ? あ、すみません! 」
遠慮がちなトゥーレの声でようやく気が付いたのか、慌てて手を離すエリィ。
彼女はコホン、と咳払いをして気を取り直すと、冒険者ギルドのシステムについての説明を始めた。
「失礼しました。それでは、登録する以上冒険者ギルドに関する説明が必要なのでさせていただきますね」
「まず冒険者ギルドのシステムですが、簡単に言えば依頼主からの依頼をギルドが受注し、調査の後冒険者に仲介、そして依頼達成の際には予めギルドが依頼主から預かった報酬を冒険者に支払うという流れになっています」
エリィはおもむろにギルド左手のボードを指差す。
「冒険者はあちらにあるようなボードに張り出された依頼書を選び、カウンターで手続きをすることによって依頼を受けます」
「また、冒険者はその実力・ギルドへの貢献度・素行その他の要素で十段階に階級分けされていて、上からS上位、S下位、A上位、A下位、B上位、B下位、C上位、C下位、D、Eとなっています」
そこで一度息を切ったエリィはトゥーレの方を見て続ける。
「トゥーレさんはこれから登録する新人さんですので、ランクはEとなります。ただ、Eランクですと街中での依頼しか受けられません。実技検査をして戦闘能力を担当の職員に見せていただければDランクからのスタートになりますが、お受けになりますか? 」
トゥーレは少し迷ったが、多少時間が取られるくらいなら良いだろうと検査を受けることにする。
「はい。受けます」
「わかりました。それでは、訓練場の方へご案内しますので少々お待ちくださいね」
わざわざエリィが案内してくれるようで、彼女がカウンター横の職員用出入り口から出てきた。
せっかくだから、今のうちにお薦めの宿でも聞いておこうか。
トゥーレは歩きだしたエリィについていきながら質問する。
「あ、すみません。この辺りでお薦めの宿屋ってありますか?」
前を歩いていたエリィは律儀にも立ち止まると、少し考える素振りを見せた。
「そうですねぇ...この辺りですと、東大通りの飛燕亭と、西大通りの白樺亭と、少しお高めなんですが南大通りの金糸雀亭が宜しいと思います。どの宿屋もテイムされたモンスターの宿泊を認めていますので」
エリィに感謝を述べたトゥーレは彼女と共に再び歩き出す。
そして2分ほど歩いたあと、エリィがある扉の前で立ち止まった。
「ここが訓練場です。試験官の方はもういらっしゃるはずですので、その方から後の流れを伺ってください」
エリィは来ないのかと訪ねてみると、どうも冒険者に気を使って試験官以外には試験内容を見せないそうだ。
ならば一人で行くしかないだろう。
そう意気込んで扉を開けたトゥーレの目に入ったのは、タイルの敷き詰められた訓練場と、そこに立つ筋骨隆々の武装した男性の姿。
「応、よく来たな!! 」
帰りたい。
男性の荒ぶる筋肉を見たトゥーレは心の底からそう思ったのだった。




