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吟遊詩人と三百年後の異界伝説  作者: 喜多 旭
第二章 冒険者
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第七話  冒険者ギルド

「それにしても広い街だなぁ」


 トゥーレはアルギスの街の大通りの一つを歩きながら呟いた。

 ここは本当に広い街である。

 仮にこの街をポリゴンデータで表すとすればどれ程の容量になるだろうか。

 

 薄々分かってはいたが、やはりこの街は『The Regeneration』には存在しなかった街であるようだ。


 もっと詳しい情報が欲しい。


 そう考えたトゥーレの視界にふと、一軒の建物が映る。

 中々に大きく、周囲の建物と比べて一際頑丈そうに見えたその建物。

 先ほどからちらほらと見かける武装した人々が頻繁に出入りしており、非常に目立っている。


 しかし、その建物がトゥーレの目に留まったのはまた別の理由だ。

 建物の二階部分の壁に輝く紋章。

 その紋章の模様に、トゥーレは見覚えがある気がしたのだ。

 それも、アルディアの中で。

 

 交差する二振りの長剣に、それを包む翼。

 長剣は武力を、翼は自由を表していた....と記憶している。

 あの紋章は確か....

 

「冒険者ギルド? 」


 トゥーレは思わず声を漏らした。

 

 間違いない。

 確かにそうである。

 あれはアルディアの冒険者ギルドの紋章だ。


「うわぁ....本物だ」


 トゥーレはどこか嬉しそうに呟く。  

 それもそうだろう。

 この時トゥーレは初めて、この世界がアルディアだという確信を持ったのだ。

 冒険者ギルドが同じ紋章を掲げてここに存在する以上、この世界がアルディアである可能性は極めて高い。

 

 あの頃の思い出を忘れられないトゥーレとしては、良く似た別世界ではなくアルディアに居るということが嬉しかったのである。


 肩にとまるセイルも、主の感情を投影したかのように嬉しそうに一鳴きした。


「入ってみようかな」


 ここがあの頃の冒険者ギルドと同じものであれば、いくらかの情報収集が出来る筈だ。

 ここに入らない手はない。

 決して個人的興味から入る訳では無いのだ。

 

 肩の上のセイルが呆れたような目で見ているからか、トゥーレはそんな言い訳を考えながら冒険者ギルドのドアをくぐった。


◇◇◇◇◇ 


 冒険者ギルドの内部は大きく分けて三つに別れていた。


 まず正面のカウンター。

 依頼の受注や報告をするためのカウンターの内側には、容姿の優れた女性や、強面の男性達がずらりと並んでいる。


 次に右手の酒場。

 武装した男達が数人ごとに別れて丸いテーブルに座り、料理や酒を楽しんでいるようだ。


 そして左手には五つ程の大きなボードが壁にかけられていて、ボードに張られた紙のようなものを冒険者達が眺めている。


 その全てを見回したトゥーレは、思ったよりもきれいだな、と感じた。


 『The Regeneration』の冒険者ギルドはここよりも全時代的だった。

 カウンターなど無く、当然女性など居ない。

 それぞれのギルドをまとめるマスターが半ば酒場のような形で冒険者を集め、冒険者一人一人に見あった依頼を見繕って出していたのだ。


 それに比べればずいぶんな発展具合である。

 

 ここまでシステム化されるのにはそれなりの時間が掛かる筈だ。

 自分がアルディアから離れていた五年間でこうなったと考えるには無理がある。

 一体何があったのだろうか。


 トゥーレは少しの間入り口で立ち止まって考え込んでしまう。

 すると、後ろから声が掛けられた。


「道を空けてくれるか? 」


 男にしては少し高く、女にしては少し低い声。

 その声を聞き、トゥーレは自分が通行の邪魔になっていることに気がついた。


「あ、ごめんなさい」


 直ぐに道を開ける。


 ついでに片手を挙げながら通りすぎていく声の主を見ると、どうやら子ども、或いは女性であろうと思えた。

 白い外套を羽織り、フードを下げているために顔は見えなかったが、背が低かったのだ。


 声の主はもう一人のフードを下げた人物と共にカウンターへと向かっていく。


 自分もカウンターに行ってみようか。


 トゥーレの頭にそんな考えが浮かぶ。 

 実際、トゥーレが先ほどまで抱いていた疑問の答えは冒険者ギルドが知っている筈なのだ。

 すんなり教えてくれるとは限らないが、聞いてみる価値はあるだろう。

 

 トゥーレは早速カウンターに向かって歩いていった。


◇◇◇◇◇


「こんにちは。ご依頼ですか? 」

 カウンターの向こうで亜麻色のポニーテールを揺らす受付嬢。

 垂れ目でおっとりとしていて、地味な印象を受けるが、美人である。

 それに何処がとは言わないが、大きかった。

 

 トゥーレは彼女の胸元に刹那の間だけ眼を向けたあと、紳士的に返答する。

 

「いえ、幾つか聞きたいことがあるんですが、宜しいでしょうか? 」


 トゥーレはこの身体の優しげイケメンフェイスを総動員して微笑みながら話す。


「何でしょうか? 」

「お名前は? 」


 この間僅か0,5秒である。


「ぇ...あ、私はエリィです」


 困ったような顔をして名乗る受付嬢あらためエリィ。

 どうやら会心の微笑みは効いていないようだ。

 

 諦めて普通に話すことにしたトゥーレは、本題の質問に入る。


「この世界の名前は何で、今は何年ですか? 」

 

 ド直球の質問だ。

 多少怪しまれても正確な情報が欲しい。

 そう考えた故のこの質問である。


「えっと...この世界というのが一番広い意味だとするとここはアルディアで、今は聖暦665年です」


 不思議そうな顔をしながら答えるエリィ。

 その言葉を聞いたトゥーレの頬は盛大にひきつっていた。


「665年...? 本当ですか...? 」  


 小さな希望を込めて再度質問したトゥーレの言葉は...残念ながら否定された。


「本当ですよ? カレンダーをご覧になりますか? 」


 カレンダーまであるらしい。

 希望を砕かれたトゥーレはゆっくりと首を振って否定する。


「いえ、大丈夫です...」


 過去の『The Regeneration』の中にも、設定されていた年代というものがあった。

 そしてトゥーレが記憶する限り、その年は...聖暦360年。

 つまり、今はあの頃から約300年後の世界であるということだ。


 この街に見覚えがないはずである。

 300年もあれば都市の一つや二つ、簡単に作れるのだから。 


 絶句するトゥーレに、エリィが心配するように声をかけた。


「あの....どうされましたか? 」


 その言葉にハッとしたトゥーレは、なるべく不自然にならないように返答する。


「あぁ、いえ。私の故郷と年の数え方が違っていたもので....」


 それを聞いたエリィは首を傾げる。


「この辺りで違う数え方なんてありました? 」


 不味い。 

 なんとか話を自然に整えようと頭を回転させるトゥーレ。

 そして入門の際に自分の職業として、吟遊詩人と名乗ったことを思い出した。


「私は遠方から各地を旅して周っている吟遊詩人でして。それなりに遠くから来ているんですよ」


 行けるか....?

 祈るようにエリィの反応を待つトゥーレ。

 エリィは...


「そうなんですね~。旅の道中は冒険者をお雇いに?」


 何とか誤魔化せたようだ。 

 胸を撫で下ろしたトゥーレは、気楽に答えを返す。


「いえ、この白鷲と一緒にですよ」


 すると何故かエリィの目が輝いた。


「お一人で? 失礼ですが、戦えるんですか? 」

 

 少し身を乗り出したエリィに驚きながらも言う。


「えぇ、まぁ、それなりには」


 エリィの目の輝きが強くなった気がした。


「あの、お名前は? 」


「トゥーレです」


「トゥーレさん、冒険者登録はしていらっしゃいますか? 」


「してません....」


 矢継ぎ早に放たれる質問に、気圧されながらもなんとか答えた。


 それを聞いたエリィはトゥーレの眼を見据え、再び口を開く。


 その口から放たれたのは...トゥーレの未来へ繋がる言葉。


「トゥーレさん、冒険者になりませんか? 」



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