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吟遊詩人と三百年後の異界伝説  作者: 喜多 旭
第一章 再びの邂逅
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第四話  物語の始まり

 異世界編スタートです!

 目を開けると、そこは森の中の湖であった。

 そんな下らないフレーズが閃の脳裏を過る。


「何、ここ...」


 閃は小さく呟いた。

 その声には疑問と戸惑いの感情が乗せられている。

 それも仕方の無い事だろう。


 先程まで自宅に居た自分が、今は森の中に居るのだから。


 (何? 何があったんだ? ここ、どこ!? )


 閃は心中で叫ぶ。

 周囲を見渡し、暫しの間自問を繰り返した閃。


 (....駄目だ。興奮してるな。まずは落ち着かないと。)


 どうやら焦っていても仕方がない、とひとまず冷静になってから考えることにしたようだ。

 閃は足元の芝に腰を下ろし、木に背中を預ける。

 

 やけに体が軽く感じるな。


 まぁ良い。

 取り敢えず、状況を整理しなければ。


 自分はついさっきまで自宅に居た筈だ。

 そして届けられた羽飾りを手にとって、それから....。


「あ」


 思い出した。

 羽飾りの装飾であるエメラルドに触れた瞬間、光が閃を包み込んだのだ。

 体が浮かび上がるような一瞬の感覚の後意識が遠くなって....。


 目が覚めたらこの状況だ。


「結局何も分からないじゃないか...」


 閃は溜め息を吐き、肩を落とす。

 そして閃の目に入ったのは、芝生の緑と体を包む衣装の()


 (ん....?)


「白?」


 おかしい。

 閃が最後に来ていた服は動きやすい上下黒の部屋着だ。

 断じて白い服では無かった。


 また、大前提として閃は白い部屋着など持っていない。


 理由は単純。

 汚れが目立つからである。


 一度白い服についた汚れは消えにくい。

 染み抜きなどという高等技術は閃には使えないのだ。


 では、今着ているこの衣装は何だ...?


 閃は自分の姿を把握しようと立ち上がり、湖面に映る半身を覗きこんだ。


 そして、自らの姿を捉えた閃は、絞り出すような呟きを漏らす。


「.....トゥーレ」


 

 そう。


 閃が見た自らの姿は、『The Regeneration』在りし日の彼のアバター、トゥーレ・マールスティンと全く同じ姿をしていたのだ。


 所々跳ねた肩まで届く白い髪に、ぱっちりとした翡翠色の瞳。

 白く透き通った肌は、非人間的で有りながらも確かな生気を宿す。


 身に纏う衣装はそんな持ち主の肌色に合わせたかの様に白く、純白のインナーに、光沢のある白のウェストコート。

 その上にはアイボリーの膝丈のコートを羽織っている。


 下半身には細身でグレーのロングブーツを履き、インナーと同色のズボンを薄茶色のベルトで固定している。


 そして最後に...閃の左耳の側で留められた光神の羽飾り。

 羽飾りは閃の困惑を知らぬとばかりに、木漏れ日を反射して輝いていた。


「....何で、トゥーレが」


 体が軽く感じる筈だ。

 そもそもの体の性能が違うのだから。


「ふふ。フフフ」


 失ったはずの半身(アバター)

 失ったはずの体。

 五年ぶりの感覚に、背筋が震えた。

 

「はは...。ハハハハ!」

 

 閃は笑う。

 込み上げる衝動に身を任せ、大声をあげて笑う。

 

 これ程嬉しいことが他に有るだろうか。

 

 戻って来た。

 かつて自らの心血を注いだ半身が、懐かしの感覚と共に。

 

 改めて意識してみると、やはり体が軽い。

 何故今の今まで気が付かなかったのか不思議になる程に。


 普段よりも、音が近くに聞こえた。

 森の緑が鮮やかに見える。

 頬を撫でる風がこそばゆい。

 木々の香りが、土の香りが鼻腔をくすぐる。

 

 そうだ。

 この感覚が、この感動が、あの世界を彩っていた。


「ここは...五年前と同じ、あの世界なんだろうか」


 閃の胸中に生じた一つの疑問。

 その疑問の一部を解消する方法を、閃は知っている。

 

 そして閃は、あの世界のとある起句を囁いた。


「....『インベントリ』 」

  

 果たして世界は閃の期待通りの反応を返す。

 

 閃の眼前には『The Regeneration』のインベントリウィンドウが開いていた。


 『龍髭の修道服』、『盗鍵アルセーヌ』、『神楽器 オルフェウスの竪琴』....その他にも見覚えのあるアイテムの名称が大量に並んでいる。


 「やっぱり....開いた」


 閃は思わず頬を緩める。

 あれ程笑ったというのに、嬉しさのあまり感情が抑えられなかったのだ。

 

 これで、ほぼ決まりか。


 閃の疑念は確信に変わりつつあった。

 

 此処は、あの世界なのだ。

 

 この五年間焦がれてやまなかった、あの懐かしき第二の故郷なのだ。 

 

 そして、閃はおもむろに右手を前に出す。


 インベントリが開けるのならば、スキルも使える筈だ。

 もしスキルが使えるのなら、最初にするべき事は一つ。


 『相棒』が居なくては締まりがない。

 

 そして微笑んだ閃は目を閉じ、謳い始める。

 唯一無二の友を呼び覚ます詠唱を。


 『双翼に天を乗せ、大空(たいくう)を統べし白き鷲。その金色(こんじき)の天眼は全てを見据え、その爪は何者をも貫く。』

 『今此処にトゥーレ・マールスティンは(こいねが)う。顕現せよ、聖獣ルクスアクィラ!』


 閃を中心として、否、閃の差し出した右腕を中心として光が溢れる。


 眼を開けていられないような光の奔流の中で、甲高い鳴き声が一度、響き渡る。 


 そして数秒後、光が収まると、閃の右腕の上には純白の大鷲の姿が有った。

 白鷲はピィッと一鳴きすると、頬擦りするように頭を閃の肩に擦り付ける。 

 

 それを見た閃は一瞬驚きの表情を見せ、しかしすぐに微笑んでこう言った。


 「ただいま。セイル」



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