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吟遊詩人と三百年後の異界伝説  作者: 喜多 旭
第二章 冒険者
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閑話二  ザレアのぼやき

 やってられるか。


 初めはそう思っていた。

 俺はこれでもAランク下位の冒険者だ。

 それが、登録すらしてねえ野郎の試験官だなんて、馬鹿らしい。

 せっかく酒場で良い気分で居たのによ....


 酒場から引っ張り出されたのはつい数分前のことだ。

 一月ぶりの休暇にケチをつけられて苛々する。

 

 そして、その思いはやって来た新人を見て、さらに膨れ上がった。


 受付嬢の案内で訓練場に入ってきた野郎は貴族みてぇな服を着た優男。

 ご丁寧にも肩にペットの白鷲まで乗せてやがる。

 おまけに立ち居振舞いも全くの素人。

 戦えるのかねぇ?

 

 実力の無い貴族の子弟がコネでランクを上げようとするのは珍しくない。

 そういう場合ギルドは実技試験でわざと実力者を当てて自主的にやめさせようとする。

 まさかそれじゃねぇよな?

 あれはお礼参りが面倒臭ぇんだ。


 だが、試験についての説明を終えた後。

 そいつが俯きながら浮かべた表情を見て、それまでの思いは全部吹っ飛んだ。

 

 何だこいつ。

 人を人とも思ってねえような笑い方しやがって。

 

 とんだ食わせものだったってワケか?

 見掛け通りの腕前とは考えない方が良さそうだな。


 じんわりと滲む手汗を払いながら、木剣を握りしめた。

 フゥっと息を吐いて覚悟を決め、模擬戦の準備を進める。

 

「始めるぞ」


 砂時計をひっくり返し、少し離れた位置に置いた。

 この砂時計は小さいながらも魔導具で、ひっくり返してから15秒後に音が鳴るようになっている。

 


 俺は砂時計を一瞥して流れ始めた砂を確認し、直ぐに視線を優男に戻した。

 

 .....くそったれが。


 

 いつのまにかヤツは竪琴のようなものを構えていた。

 目を逸らした一瞬の隙に、どこからか取り出したらしい。

 ついでに白鷲が居なくなり、遠くで地面に立っている。


 更に取り出した竪琴をその指で弾き、流麗な音を奏で始める優男。

 何かの魔法だろうか。

 音が目に見える光に変わり、優男を包んだ。

 光は目を開けていられなくなるまでに大きくなる。

 

 やがて光が収まり目を開けると、そこには男が立っていた。


 断じて優男ではない。

 その男は蒼い軽鎧を見に纏い、腰に青い宝玉が嵌められた長剣を身に付けているのだから。

 髪の色も瞳の色も蒼で、優男とはまるで違う。



 しかし、そんな確信を裏切るかのような声が訓練場に響いた。


「行きますよ」


 それは確かに、優男の声だった。


 優男はゆっくりと剣を抜き、両手で構える。

 そしてじりじりと体制を整え....


 それからの事を、俺はあまり覚えていない。


 水を纏ったように見えた優男が霞むような速さで踏み込み、剣を振った。

 それを何とか木剣で受けたが、数合打ち合った後に木剣が折れて、弾き飛ばされた。

 

 俺が覚えているのはそれだけだ。


 そのまま意識を失った俺が目を覚ましたのは一時間後。

 ギルドの治癒魔術師によると、優男が俺を担いで運んできたらしい。

 完全装備で、百数十キロにもなる俺を、だ。

 

 人とは思えないような身体能力に、相当高レベルであろう魔法。

 

 あんな化け物と戦っちゃ命がいくつあっても足りねぇ。

 俺ぁ金輪際、試験官なんて絶対にやらねぇからな。


 ギルドの治癒室のベッドの上で痛む肋骨を押さえながら、若きAランク下位冒険者、ザレアはそう呟いた。


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