嘘が嫌いな彼女は真実に殺される。
大学四年の冬に真っ白な履歴書を残して彼女は死んだ。
記憶は思い出すたびに強化される。
そして少しずつ事実とは変化していく。
それは故意にしているのではない。
例えば、過去のある出来事を思い出したとき
「あの時私はこう考えてあの行動をとったのだ。」
と今あなたが思えば、いつかその出来事を思い出した時、まるで当時の自分がそう考えていたと思い込む。こんな具合だ。
事実は変えられないが、記憶は変えられる。自分にとって受け入れがたいことでも自分の考え方を変えて終えば事実を受け入れることができる。あれは間違っていなかったのだと。あれがあったからこそ今の私がいるのだと。
誇らしい思い出、悲しい思い出、目を背けたくなる思い出に、このようなことが身に覚えはないだろうか。
彼女にはあった。
彼女にはそう思えた。
彼女はそれを自分が自身のためについた嘘だと認識した。
彼女は過去を思い出すたびに、何が真実で何が嘘なのか自身でも分からなくなった。事実が彼女にとっての真実であり正義だった。過去を文字に起こすたび、人に話すたび、正義を犯す自身を疑い、恥じた。