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堕ちた星の在処  作者: ふかふか
2/2

真空

ギャグ路線の予定でしたが…

とりあえず、今回はキャラ紹介回です。テンポははやめです。一話ごとに一つの話が完結するので、ちゃんと最後まで見ていただきたいです。


─序文─

今自分が意識しているこの世界は、もしかしてまだ夢の中なのではないか、と考えたことがある。実際は目覚めていないのに、目覚めたと思い込む現象は、そこまで珍しいことではないようだ。まぁ、これは誰であろうと何度か経験していることだと思う。

そうなると一つの疑問が頭の中に浮かんできた。

“そもそも俺達は、これまで一度でも目が覚めたことがあるのだろうか?”

もし目覚めてないのに目覚めた夢を見てしまっているのなら、いつ本当に目覚めたのかわからないのではないだろうか?俺は気になって友人に尋ねてみた。すると、夢の中の場合、現実と明らかに食い違っていて支離滅裂なものが多いから直ぐに分かると言うのだ。

だが、本当にそうなのだろうか?少なくとも俺はそうは思わない。俺は過去にとても鮮明な夢を見たことがある。気付けば俺は当然のように空を飛んでいた。強風を全身に受けながら街を俯瞰していると、不意に飛び方を忘れてしまい、俺は重力に負け上空から落下したというものだ。今思い出してみると、支離滅裂すぎて全く意味が分からない。しかし、その夢を見ていたときの俺はそのことに対して一切の疑念を抱かなかったし、それが現実だとそれが当たり前だと思い込んでいたんだ。

今、この瞬間も俺は携帯から文章を書いている。そして今、俺はその続きを考えているように思える。だが、直ぐに続きを考えていた俺は過去になる。だから、実際にそう思っていたかどうか確かめるために、過去を振り返り再構築して今に結びつけてみよう。すると、そこは確かに続きを考えていた過去があった。俺の記憶によると事実として続きを考えていた。だが、本当に俺は続きを考えていたのだろうか?もし過去を再構築したのではなく、今現在新しく構築したものだったら?俺の記憶がすべて今初めて頭の中に飛びこんできたものだったら?…と、幾らでも可能性が生じるだろう。つまり、過去にそのような記憶があったからといって、それが事実だとは限らないということだ。

だた過去を否定すれば、“これまで自分が生きてきた数十年もすべて夢の中の出来事で、現実の自分はまだ言葉を覚えたばかりの幼児”だって有り得ることになる。この文を読んでいるアナタだってそうだ、ここまで読み進めたと思い込んでいるが、本当はすべて夢の中の妄想かもしれない。しかし、前述したとおり夢の中ではそれが事実だと信じて疑わないので、飽くまでも理にかなっているのだ。きっと目覚めたとき初めて、今まで正常だと思っていたことが、どれだけ愚かで不条理なことをしていたかが分かるのだろう。俺を襲った心を抉られるほどの悲劇も、きっと夢の出来事だ。すべて支離滅裂な幻想に違いない。だって…そうじゃなかったら俺は………。



─本編─

(…も…ぃ………だ……)

何処からか今にも途切れそうな声が聞こえる。耳を澄ませてみると、どうやら誰かが同じ言葉を繰り返しているようだった。

(…おも…い…だせ……)

とても聞き慣れた声…俺はこの声の主を知っていた。

「俺の…声……?」

もう一人の俺が遠くで何かを囁いているのだというは理解できたが、肝心なことは分からなかった。ついには大きな音と共に現実へ引き戻されてしまった。



「………ん?」

視界に明かりが灯された。もう見飽きてしまった古い馬車の風景が映っている。処々に蜘蛛の巣が垂れ、僅かでも動くと強く軋む床。網膜に映る世界がはっきりと像をかたどっていくにつれ、俺はこの状況を理解していった。

「…今のは夢…か」

俺はそう言って肩を落とした。目が覚めたばかりで、まだ夢と現実の区別が曖昧だ。俺はまだ夢の中のような浮遊感にふらふらと揺れながら、脆く外れそうな窓に近づき、少しの間老朽化した馬車からの景色を眺めていた。最近はずっとこうしている気がする。今日は旅が始まってからもう20日目…ずっと馬車での移動という代わり映えのしない日々に正直飽きてしまった。

「……なんだか」

少し外が騒がしいし、馬車が一歩も進んでないような気がしたが、それが眠気を凌ぐことはなかった。ふと少し頭が痛い気がして、顳顬の近くに右手をあててみると、僅かに違和感のようなものが襲ってきた。

「なんか……いや、気のせいか」

それよりも気になることがあった。先ほどの夢のことだ。

「思い出せ」

俺の頭に残っていた言葉…一体何を思い出せというのだろうか。暫く考え込んでいると、突然俺の耳もとに稲妻のような激痛が走った。

「起きろ!!」

耳の奥まで痛みが響き、目の上に薄らと涙を覆わせた俺を見て、戦士は嫌な笑みを浮かべている。

「…起きてるっつの……くそ…耳鳴りが……」

俺が呆れて溜め息をつくと、戦士は木製の色褪せた壁に手をかけ、不思議そうに首を傾げる。

「どうしたんですか勇者さん。大丈夫ですか?」

胸の奥から何かが湧き上がってくるのを感じた。そして、

「お前のせいだろ!」

と、朝から声を荒げてしまった。しかし、戦士が「これで目が覚めましたね!」なんて言うのでまた直ぐ怒鳴ることになった。

彼の名は戦士ブラッド=オールディス。国軍の一人で、俺達の護衛を命じられ共に旅することになった。基本誰に対しても敬語で、性格も気さくで優しい…と旅2日目までは思っていた。だが、少しずつボロがでるようになり、今では隙あらば俺にイタズラしてきて、俺の反応を楽しんでいる。いや、イタズラというかより殺しにかかっているといったほうがいい。昨日は夕食に毒を盛られて死にかけた。

「馬車に揺られてるだけでどうしてこんなに疲れるんだ…。つーか、思ったんだけどこの馬車止まってない?」

「え?今更気付いたんですか?流石勇者さんですね」

戦士が憎らしいほど完璧な笑顔を振りまいてくる。これは褒めているのだろうかバカにしているのだろうか。

「バカにしてるんですよ。ホントバカですね」

バカの部分だけ強調してくるあたり、非常に強い悪意を感じる。だが、大人な俺はこの程度では微塵も動じない。幼稚な戦士など無視して放っておけばいいのだ。

「さっきから全部声に出てますよ。無視できてないじゃないですか。あれ?幼稚なのはどっちだろう?」

くそぉ…後で10回殺す…絶対殺してやるからな……。



昨日俺が盛られた毒を無理やり戦士に飲ませた後、俺は馬車を降り他の仲間である魔法使い達を探すことにした。

「勇者、やっと起きたの?こんな一大事のときにリーダーが呑気に寝てるんじゃないわよ」

後ろから魔法使いが呆れたような顔をして近づいてくる。探す手間は省けたみたいだ。

彼女の名は、魔法使いエレナ=ウィーバリーだ。俺の幼なじみでいつも俺にだけ厳しく接してくるが、これは好意の裏返しらしい。

「悪いな、昨日の毒のせいで生死の境目を彷徨っててさ」

「そのまま死ねばよかったのにね」

ええっと…こ、これも好意の裏返し…だよな?

「そ、それより一大事ってなんのことだ?」

「見てわからない?馬車が止まっちゃったの、車を引いてた馬が倒れちゃって」

「さすがに酷使しすぎたか…。三日三晩倒れるまで働かせるとか、今考えると悪魔だな俺達」

「いや、ただ気を失ってるわけじゃないみたいなの。異常な速さで衰弱してる…恐らく何か重い病気にかかっちゃったんだと思う」

「病気…それ俺達は大丈夫なのか」

「うーん、どうだろう…」

二人の間に小さな静寂が満ちたと思えば、直ぐに空気を読まずにそれをブチ破る者が。

「た、大変だよ~!みなの者!聞いてくれたまえ!!」

「…えーっとね、今魔法使いと大事な話をしてるから後でにしてくれねぇかな」

「そんな!?…い、いやあの…馬車が…馬車が……」

息を切らした僧侶が、幾許も無く泣いてしまいそうな潤んだ声で訴えてくる。俺はなにやら嫌な予感がして、僧侶に詳しい状況の説明を求めた。

彼女の名は僧侶アリス=シャムロック。それ以外に書くことは特にない。

僧侶の断片的な情報を総合すると、どうやら瀕死状態だった馬が死んでしまったようなのだ。

急いで現場に駆けつけてみたが、馬はまるですべてを吸い取られたかのように全身が萎れて、骨格がくっきりと浮かんでいた。

「ど、どういうことなの…」

魔法使いは声を震わせながら、地に堕ちその現状に懐疑的な視線を向けた。思えばこのとき既に悪夢は目を覚ましていたのだ。



旅23日目、一切貯蓄は無くなり深刻な食糧不足に陥った。さらに徒歩での移動も限界に近づきつつあり、俺達は次第に歩幅を緩めていった。

「駄目だ腹減ってきた…なんか食えるもんないの…」と俺が弱音を吐くと、戦士が珍しく真面目な顔をして少し俯いた。あの戦士でも流石にこの状況には焦りを感じているのだろうか。

「…うーん、大きな臼の中に丸めた勇者さんを入れて杵でつけば、モチモチになって美味しいんじゃないですかね」

やはりいつも通りの性格の悪い戦士だった。俺も「発想が頭おかしい」と、いつも通りドン引きした。

そんな中、俺達はある深い森の前で足を止められた。眼前には、まるで俺達の侵入を拒んでいるかのように鬱蒼と生い茂った樹木たち。

「やっとね…。ここを抜ければ、ようやく最初の目的地よ……ん?勇者?」

「…なんだろうこの感じ」

俺の頭によく分からない感情が渦巻いていた。魔法使いが不思議そうに此方へ顔を覗かせる。

「何か気になることでもあるなら言いなさいよ」

「…い、いや、別にたいしたことじゃないんだ。はやく行こうぜ」

森の内部は、背の高い木々によって日光が遮られて、不気味なくらい薄暗かった。間欠的に降り注ぐ光や森に棲む動植物達の殺気に満ちた視線が、怪訝な妖気を漂わせている。

「ちょっと怖…くなんてないけどね」

魔法使いは体を小刻み震わせながらそんなことを言うので、どうみても強がっているようにしか思えなかった。

「…………」

俺はこの森に足を踏み入れたときから、何故か心拍数が高くなっている。どうも落ち着かない。なんだかここは初めて来た感じがしないのだ。記憶に残ってないほど遠い昔、俺はここへきたことがあるのかもしれない…。いや、ここへ来たのは最近のような気もする…。謎の既視感に魘されながら、俺は暗い闇の中へと歩を進めていった。



それから約5時間が経過し、俺達はようやく傷ついた足を止めようとしていた。太陽が地平線の下に沈んでいき、辺りがより一層明るさを落したからだ。この暗さだと視認できる光は半透明な煙みたいだ。

「…あ、あとどれくらいで村に到着するのかな?」

僧侶が前を歩く俺に話しかけてくる。

「正直に話すと…予定ではもう着いてる」

「そんな!?……もしかして勇者君迷子…とか?」

「いや、それはないない。地図ではここら辺がロレーヌ村なはずってなってんだよ」

「そんなぁ…私もう歩けないよ……」

「じゃあ、足元も見えないぐらい暗いし、そろそろ寝れる場所探すか」

「うん!そうしよう!そんな無駄に歩き続けるみたいな、損なことは私嫌いだしね!」

「なんか急に元気に…」

僧侶は「そんな」が口癖なのだろうか。旅を始めてから何回言ってるだろう…とか魔法使いに聞いてみる。すると「86回よ」と即答された。

「…なんで正確にカウントしてんだよ。ちょっと怖いな」

「え!?こ、怖いっ!?」

「うおっ、どうしたの」 

魔法使いは驚いたような表情と同時に、声を滲ませて泣きだしてしまった。

「…ちょっと冗談で言ってみただけなのに……。…うぅ…引かれちゃった…かな………」

「おいおい、心の声が漏れちゃってますよ」

そういえば、魔法使いはメンタルが非常に弱いのだった。完全に忘れてしまっていた。彼女は毒舌のくせにちょっとマイナスなことを言われれば、忽ち悲観的になって泣いてしまうほどの精神力の持ち主なのだ。

「ご、ごめんて…そんなことないから」

「……ほ、本当…?」

「うーん、どうだろ」

「え!?」

魔法使いをからかったり慰めたりした後、俺達は野宿するのに適した場所を探した。皆無言で捜索する中、ふと僧侶が口を開いた。

「ここで“人間”に見つかったり…とかそんなことは無い…よね?」

その問いに戦士が素早く反応する。

「それは問題ないと思いますよ。我々の“変装”は完璧ですからね」

「…本当にこの姿って“人間”からみても“人間”に見えてるのかな?」

「まぁ、実際に“人間“”に会ってみないと確かめられないですね。我々は“人間”ではないので、我々からみたら完璧ですが本人がみればどう思うかは分かりません」

「そ、そうだね…」

なんだろう…“人間”という言葉に俺の心が強く反応する……。それは“人間”が俺達の敵だからなのか。いや、それもあるだろうが違う…何かが違う…。

「勇者、どうかしたの?」

皆に心配をかけないように平然を装っていたつもりだったのだが、何故か魔法使いにはバレてしまったようだ。いつも魔法使いは俺の些細な異変でも気付く。なんだか…

「ちょっと怖い…」

「…っ……怖…い……よね……ごめ…ん……」

「うわっ、泣くなって!違うから!そういうことじゃないから!」

ちょっと面倒くさいと感じるときもあるけど、それでも俺はこんな魔法使いだったからこそ“守りたい”と思えたんだろうな。この旅だって魔法使いが行くと言わなければ、恐らく断っていただろう。もう俺にとって彼女はそれほどの存在になってしまったんだ。



木々の隙間からしか素顔を見せない星空を眺めながら、俺は少し前に見たあの不思議な夢のことを考えていた。「思い出せ」とか何のことなのか…ずっと気掛かりだった。どうしてもただの夢とは思えなかった。まさかそれがこんなことだったなんて考えもしなかった。そう、それは突然だった…。

グサッという何かが刺さったような鈍い音がして、世界は忽ちスローモーションになる。ゆっくりと音もなく地面に近づいてゆく僧侶の身体。

「…あ…あぁ…思い出し…た………」

すべてを思い出してしまった俺は、唯唯事実に痙攣していた。瞬時に戦士が飛び出して、土に汚れた僧侶の小柄な身体を抱き上げる。

「勇者さん!しっかりしてください!!僧侶さんが何者かに矢で…!!」

戦士が必死に事実を訴えかける。それでも呆然と立ち尽くす俺を見て、戦士は舌打ちしそれ以上俺に視線を向けることはなかった。

「魔法使いさん!矢が放たれた方向に今すぐ走るんだ!!まだ間に合う!!」

「わ、わかったわ!」

魔法使いがこの場を離れてからも、暫くの間俺は麻痺した足を地面から離すことができなかった。その間も戦士は、虚ろな瞳をした僧侶に何度も声を振り絞って呼びかけている。しかし、応答する気配は一切ない。

何もできない俺は、慎重に時間を遡ってみることにした。本当に突然だった。困憊して無防備だった僧侶を、背中から鋭い金属製の矢が貫いたのだ。しかし、問題はここからだ。矢が刺さっただけでは説明がつかないほど、僧侶の容態が悪化しているのだ。戦士のこの表情からも分かる、恐らく僧侶はこのままでは死んでしまうだろう。

「…もう…そんなこと…は……させ…な………」

様々な感情が俺の中から湧きあがってくるが、喉に詰まってどうしても神経まで巡らない。俺は何度同じ過ちを犯せば気が済むのだろうか。

「俺は…俺は……今度こそ全員救ってみせるんだ……」

重力に押し潰されそうな体を無理やり引きずり、瀕死の僧侶に駆け寄る。

「ゆ、勇者…!僧侶さんの様子がおかしい…こ…このままじゃ……」

「分かってる、ちょっと下がってろ」

戦士から僧侶の身体を預かると、俺は勢いよく背中の矢を引き抜いた。傷痍から血飛沫が噴きだし、俺を赤黒く染める。飽きるほど血を目にしてきたからか、もうこの程度では何とも思わない。だが、戦士はそうではないようで、見るからに動揺している。

「お、おい…それじゃ出血が…!」

「大丈夫だ、傷を塞ぐぐらい容易い」

俺はまるで血に飢えた悪魔のような笑みを浮かべながら、流血の止まらない傷口に両手を翳した。

「回復魔法…か…」

これは初歩の回復魔法。魔力を自己治癒に必要な細胞に変化させ、自己治癒力を大幅にあげることにより、瞬時に傷を治すことができる。

「……おかしいな」

傷を塞ぐことには成功したのだが、僧侶の顔色に変化はない。寧ろ、さらに事態は深刻化しているようだった。

「どうしてだ!痛みはなくなったはず…!」

「勇者…多分他に原因があるじゃないかと……」

「はぁ!?じゃあ、それはなんだよ!僧侶が矢に刺さるまでは何も異常なかったはずだ。そして、矢に撃たれた後こんなことになった。つまり、矢以外に原因があるわけないだろうが!!」

「…その矢に他の原因があるとか」

「てめぇな!こんなときにまでふざけたことを…!!」

このとき既に俺の頭は、忿怒と焦燥に支配されていた。俺の心に深く突き刺さった後悔の念が、より一層それを引き立てた。そして、俺は黒い感情に身を任せ、握り潰すぐらいの勢いで戦士の胸倉を掴む。

「ちょっと待て、話を聞け勇者。こんなときこそ冷静になるんだ」

「うるせぇ!黙れ黙れ黙れ…!!」

「この…いい加減にしろバカ!!今は仲間割れしてる場合じゃないだろ!」

様々な感情が錯綜し揺蕩う俺の一切の邪念を振り払うように、戦士は俺を数m先まで突き飛ばした。お陰で今必要な分の冷静さを取り戻すことができた。

「…いて……すまなかった戦士。少しずつ落ち着いてきた…」

「よし…俺が思うに矢には何か細工が施されていたんじゃないかと思うんだ。例えば、矢に……」

そのときだった。俺の近くにいた戦士の声でさえ、掻き消されてしまうほどの凄まじい悲鳴が暗夜の森全体を木霊した。恐怖と壊乱が混じり、倒錯した低調な叫び声。その正体、発信源、状況などが一度ですべて伝わってきた。そして分かったことはただ一つ。

「魔法使いがマズい…!!」

俺は戦士に僧侶の身を預け、思考より先に行動に移していた。呼吸するのも忘れて無我夢中で駆けた。背後から戦士が俺の名を叫んでいるが、振り返っている余裕などなかった。

高鳴る拍動が全身に脈打っているのを感じる。もう心臓が破裂しそうだ。

「エレナ…!!お前は絶対に死なせない!!」

その瞬間、二度目の悲鳴が耳を貫いた。今度のはエレナじゃない、これは…紛れもなく戦士の声だ。駄目だ今は振り返るな、と必死に自身に言い聞かせるが、俺の動揺は顕著に現れてしまった。最悪のケースが脳裏を過ぎり、一気に足取りが重くなる。俺の中に溜まった多くの黒い感情に締めつけられて、苦しさのあまり嘔吐してしまった。



鉄のような足を引きずり、なんとか悲鳴の発信源まで辿り着いた…はずだった。

鼻や口を両手で塞いだところで和らぐことのない、噎せ返るような悪臭が、何故か辺りを漂っている。この腥羶い臭いの正体を俺は知っていた。…違う、こんなもの俺は知らなかった。だが、直ぐに現実から逃避することなど許されなかった。目の前にその根源がいたのだ。

「よぉ…お前もこいつと同じで、俺に殺されにきたみてぇだな」

そこにいたのはエレナではなく、上半身が鮮血に染まっている謎の若い男だった。その男が「こいつ」と言って指差した先には、俺の“守りたかったモノ”が無造作に転がっテいた。…いや、そんなはずはない。

「エレナ…?エレナはどこに……」

「この女のことか?この女は…オレガコロシタ」

「……エ?」

この男が何ヲ言っているのか分からない。

「オレガコロシタってなに…?どういう意味か教えてよ」

「はぁ?俺にビビって気が狂っちまったか?…ったく、人間様に刃向かおうとするからこうなるんだ。これでよくわかっただろ。お前ら虫けらの考えた変装なんかバレバレなんだよ」

「ねぇ、教えてよ。教えてよ教えてよ教えてよ教えてよ教えてよ教えてよ教エてよ教えてよ教えテヨ教エテヨ」

「って、聞いちゃいねぇな…。人間の言葉を使えるってだけで、所詮虫けらは虫けらか」

ゆっくリと人間ガ虫けらの方に、“血溜まりの中心に横たわるモノ”を故意に踏みつケながら近ヅイてくる。

「しょうがねぇ、じゃあな虫けら。悪く思うなよ、弱い者が淘汰されるのは自然の摂理だ」

そう言ッて虫ケラの頭を掴ムト、一つの命が消えタ。ソシて、視界ハ暗転しテイった…。



暗闇ノ空間二眩イ光ガ照ラシ始メタ。ソノ光二呼ビ起コサレテ、俺ハ目ヲ覚マシタ。

「俺ハ…生キテイルノカ……?」

ナンダカ少シ平衡感覚ガオカシイ…。マルデ船ニデモ揺ラレテイルカノヨウダ。

「シカシ、腹ガ減ッタ…」

俺ハヒドイ空腹感二襲ワレテイタ。何カ食ベレルモノハナイカ、ト辺リヲ見回シテミル。

「ナンダ…イッパイアルジャナイカ」

視線ノ先ニハ“頭部ノナイ赤黒イ無機物”ガ落チテイタ。モウ一つアルハズダガ、ドコニモ見当タラナイ。ドウヤラ男ノ方ハ無意識ノ内二胃ノ中二収メテシマッテイタヨウダ。

「モウ君ト離レタリナンカシナイカラネ…」

俺ハ欲望ノママニ体ヲ動カシ、我ヲ忘レテ“肉塊”ヲ喰ライ続ケタ。カノジョノ腑ヲ嚥下スルタビニ、俺ノ中ノ何カガ満タサレテイクヨウニ感ジダ。

体モ心モ血塗レタ悪魔ノ存在ヲ、神ハ否定スルダロウ。ダガ、別ニイイシソレデイイ。

「アハハ…コレデイツマデモイッショニイラレルネ……エレナ…」

神ノ粛清モ甘ンジテ受ケヨウ。コレデ仲間全員殺シタノハ87回目ダ、モウ慣レテキタ。

「…………」

俺ハ懐カラ刃物ヲ取リ出スト、勢イヨク振リ上ゲタ。ソシテ、世界ハ歪ミナガラ再ビ暗転シテイッタ……。



─GAME OVER─



コンテニューしますか?

→はい

 いいえ




魔法使いは頭部を潰され、戦士は刺殺され、僧侶は毒殺され、勇者は自殺してしまい、登場人物全員死んでしまいました。しかし、安心してください。物語は全然始まっていないのです。まだ主人公視点にもなってないです。

とりあえず、1~2週間で次の話作れるよう頑張ります。

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