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僕の記憶探しと彼女の復讐  作者: レモンマン
記憶のない男
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1

***


「おい、明日はどうするんだ?」

 石造でできた大きな屋敷の正面玄関付近で、筋骨隆々の男が黒い髪を持った男に話しかけた。話しかけられたほうは、後ろを振り向いて、うっとうしそうな表情を浮かべる。

「何がだよ」

「お前の記憶探しだよ」

「いいよ別に、名前だけで十分」

「ギルド長との約束忘れたのか、お前」

「忘れたよ、そんなもの」

 そういって、黒髪の男はさっさと屋敷から出て行ってしまう。筋骨隆々の男はそれを追いかけることはせずに、頭を掻いて見送るのみだった。

 青い空が広がる中、黒髪の男は屋敷の前に止めてある馬に跨り、屋敷から遠のいていった。

 黒髪の男には記憶が無い。正確に言うと、とある出来事以前の記憶が無い。だが、彼にとってはそんなことどうでも良かった。とある出来事の後、死にかけているところを『モノクロ騎士団』のギルド長から手を差し伸べられた。その手を取った彼は、モノクロ騎士団の一員となった。ギルドの一員となった黒髪の男は、三日に一度のペースでギルドの本部に顔を出す。そして、ギルド長に会って、何かしらの依頼を受けることになっていた。そして、それ以外の日には自分の記憶を探すことをギルド長に義務付けられていた。ギルド長曰く「素性も知れない男をいつまでも匿う訳には行かない」とのことだった。

 今日は前者の日である。

 ここから馬に乗って、一時間ほどの距離にギルド本部がある。黒髪の男はすぐに町に到着することができた。乗っていた馬から降り、手綱を近くのそれらしい木に括りつけて、ギルド本部を見上げる。

 ギルド本部がある町は、かなりの近代化が進んでいた。移動手段に自動で動く鉄の塊が出てきたのも久しくない。それを使っている人間は少数だが。

 国で一番技術が進んだ町だろう、と黒髪の男は考えていた。とはいっても、まだまだ木造の建物が多く存在し、石畳の地面に街路樹が丁寧に並んでいる。そこらへんは他の町とは変わらない。

 黒髪の男が見上げたギルドの外装は、ごく普通の木造建築だった。見た目はギルドと言うより、酒屋に見えてしまう。男は見上げるのを止めて、ギルド本部の扉をくぐった。中もどうにも酒屋のように見える。無骨な男達がひしめいている。人ごみを縫うように進み、一番奥の扉にたどり着いた。その扉を開き、中に入る。

「あ、来たね」

 声を出した本人は、扉の正面に位置してある机で、なにやら書類の整理を行っていた。そのためか、木でできた机が白い紙に覆われている。

「今日の依頼は?」

 黒髪の男は机のに近づき、言う。その声は平坦なものだった。

「なんだが事務的だな。お姉さん悲しい」

 ふざけた調子でギルド長が言う。ギルド長の見た目は確かにお姉さんといえるほど若かった。金色の長い髪を持った聡明な女性、黙っていればそう見えるだろう。だが、彼女の行動が見た目とは真逆のものだった。

「カイト君、記憶探しのほうは順調?」

 椅子から投げ出した足を子供のように何度もブラブラと上下に動かす。カイトといわれた黒髪の男は、「そこそこです」と曖昧な返事を見せた。

「あ、ちゃんと探してないな。だめだぞ。お姉さん怒っちゃう」

 見た目に反して子供らしい言葉遣いをするギルド長のことが、カイトは苦手だった。ペースを乱される。彼としては一刻も早くここから逃げ出したかった。

「気をつけます。それで依頼のほうは?」

 カイトは苦笑いを浮かべなら質問する。

「ああ、今日はこれ」

 無造作に机の上に置かれた髪の山の中から迷うことなく一枚の紙を取り出した。それをカイトは受けとり、文面を眺めた。

「国からの依頼ですか……」

「そうなんだよね。こんな弱小ギルドに珍しく、国からの依頼が来たんだよね」

 ギルド長の声音はよろしくない。

 ギルドは人々の依頼を受けることで生計を立てている。それはこの『モノクロ騎士団』も例外ではない。そして、依頼の大口は大体二つある。一つは民間からの依頼。商人の護衛などがここに当たる。二つ目は国からの依頼、報酬もよく、仕事も比較的に楽だ。だが、王族のコネを持っている人物でないと依頼はまったくと言っていいほど来ない。そして、『モノクロ騎士団』のギルド長にはそのコネがない。なのにもかかわらず、依頼が舞い込んできた。そこに二人は妙な勘繰りを入れる。

「危険なのが分かってるんだったら、複数で受けたほうがいいんじゃ……」

 カイトの声にギルド長が不貞腐れながら、カイトの持ってある紙を顎で指した。カイトは紙に書かれてある文章にしっかりと目を通した。

「なるほど……」

 紙には『この依頼はギルド長以外に知ることが出来るのは、ひとりだけである。そのルールを守れない場合、ギルドを取り潰す』と書かれていた。

「私も最初は断るつもりだったんだけど、えらく私にこの依頼を薦めてくるから、つい……」

「薦めてきた人って……」

「ロス・ブラット」

 ロス・ブラット。今、カイト達がいる国の第二王子で、次の後継者の一人である。今の王が高齢と言うのもあって、今は後継者争いの真っ最中だ。そんな中、モノクロ騎士団に依頼を出した、というのはどうにもきな臭い、と両名感じていた。

「そんな人と関わりあったんですね」

「いやさ、何故か知らないけど、ギルド長の集会に来てたんだよね。その人。ああ、嫌だったら、こんな依頼受けなくていいんだけど……。どうする?」

「受けますよ。ギルド長の立場的に受けないと、次から仕事もらえないんでしょう?」

「うん、確かにそうなんだけど、危ない仕事だし、カイト君が行きたくないって言うなら、断るつもりなんだけど……」

「だから受けますって、危なくなったらすぐに逃げますから」

「そういってくれるとお姉さん嬉しい。本当に危なくなったら逃げてきていいからね」

「分かってますよ。ああ、多分、この依頼、一日じゃ終わらないと思うんで、記憶探しはできないと思いますよ」

「分かってる」とギルド長は優しい笑みを返した。

 カイトは慇懃な態度をとって、ギルド長の家を出て行った。そこまま、ギルド本部からも出て行き、近くに置いておいた馬を迎えにいく。手綱を木から外して、馬に跨り、石造りの屋敷を目指した。

 石造りの屋敷は、ギルドが保有している土地に建てた、ギルドメンバーの寮のような役割を担っている。ギルド本部から遠いため、その屋敷を利用しているのは、お金に困った人間のみだった。では、何故、あの場所に屋敷を立てたのかと言うと、安い土地があそこにしかなかったとのことだった。

 屋敷に着いたカイトは馬を専用の小屋に入れて、玄関をくぐった。屋敷の中は広い。正面には天井が見えるほど、大きく吹き抜けており、左右には部屋が各三つずつある。そして、ロビーの奥に巨大な階段があり、それは屋敷の一番奥で左右対照に分かれている。その階段を昇ると、玄関に向かう形で壁の沿うように路地がある。その道の左右両方に扉が三つ用意されている。

 カイトは右側の階段を昇り、手前から二番目の扉を開いた。そこが自分の部屋である。

 カイトはさっそく右奥の隅に置かれてある机に座り、先ほどもらってきた紙を懐から出す。そして、真剣に眺め始めた。

 依頼内容を纏めると、こうなる。

 とある人物を捕縛しろ。最悪の場合は生死をいとわない。もし、捕縛対象が死んだ場合に置いては、その人物の死を確認できるものを用意すること。

 そうして、次には捕縛対象の絵が描かれていた。

 長い髪に幼さの残る顔。どこからどう見ても、二十歳を超えているようには思えない。だが、所詮は絵だ。本人とは異なることはいくらでもある。

 それでもカイトは、一抹の不安を覚えた。この少女を捕まえた際にでる報酬を目にしたからである。

『報酬 五十万グラット』

 大体、この国で普通に仕事をこなしているなら、大体、年収は二千五百万グラットである。それの二百倍、一生遊んで暮らせるお金が手に入る。一人の少女相手に王族とはいえ、ここまで払うのは異常だ。無駄なお金を使う前に、兵士を動かせば足りるはず。そう考えながら、カイトは眉を顰めた。

「まあ、いいか、明日になれば分かるし」

 座っていた椅子に凭れ掛かり、文面から目を離したカイトは、引っ張られるように隣にあるベットに寝そべった。そうして、彼はすぐに眠りに就く。


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