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 暗い町の真ん中に、長い黒髪を靡かせた少女が佇んでいた。彼女に右手には人間の頭部が握られている。

「どうして……」

 一人少女は闇に染まった空を見上げて、口を開く。同じことを心の中で反芻する。そして続けて思う。私はどうして化け物なのだろう。


***


 彼女は、小さな農村で生まれた。彼女は生まれてきた時から、その身に人並ならぬ魔力を秘めていた。 最初、それを知った人物は口々に「天才だ」「この村に英雄が生まれた」と囃し立てる。だが、それも長くは続かない。順調に成長していく彼女の強大な魔力を、人々は恐れ始めたのだ。その内、彼女を英雄だというものは誰もいなくなった。代わりに「悪魔の遣い」というような、悪評が広がっていく。彼女はなんら悪行を行っていないというのにもかかわらず。そうして、人々の行動は徐々にひどくなっていき、悪評から迫害に人々の行動は増長していく。

 そんな彼女にもちゃんと理解者がいた。それが両親だ。彼女の家は代々農家を営んできた家である。そのため、特に贅沢な生活を過ごしていたわけでもないし、質素な生活を送っていたわけでもない。それで彼女は満足していた。自分を理解してくれる唯一の存在が一緒にいてくれるだけでよかったのだ。だが、その生活にもすぐに終わりが来た。

 まだ十歳にも満たない少女を狙い、人々は暴力、集団でのいじめが始まった。それを彼女は何も言わずに耐えてきた。自分が抵抗をすれば、両親に迷惑がかかる、と思ったからである。

 両親は彼女をこの迫害から救うために一つの手を打った。それは、こことは違う土地に住むこと。だが、農家以外の仕事を探さなければならない。農家として育ってきた彼女の父には、農業以外の知識がまったくと言っていいほどなかったのだ。しかし、それでも彼女をここから逃がしてやるために必死に仕事を探した。そして、彼女が十一歳になる時に、ようやく違う土地での仕事が決まった。今より稼ぎは少ないものの、切り詰めれば、何とか生活できなくもない額だった。家族全員が喜んだ。ようやく悪夢から逃げられる。父の新しい稼ぎ場所が見つかった日は、珍しく豪勢な料理を母がこしらえてくれた。

 そうして、ここを出て行くことになった日の前日、彼らは荷物の整理を行っていた。多くは持っていけないため、取捨選択をしなければならなかった。彼女は荷物の整理を行うと、一人、寝床に就いた。両親はまだ荷造りを行うということで、寝室以外の電気は点いたままだった。

 彼女は眠りにつく。明日が楽しみで仕方がなかった。目が覚ましたら、自分には明るい未来が見えてくるのだと信じてやまなかった。だが、彼女が目を覚まして目にしたのは、明るい未来などではなく、夥しい血に汚れた両親の姿だった。

 彼女は目をゆっくりと覚ました。窓から日が差していない様子を察して、まだ夜だ、と推測した。布団に潜り、目を瞑る。だが、中途半端に眠ってしまったために目が冴えてしまった。冴えてしまったなら、両親の手伝いでもしようと考えて、彼女は布団を出て、両親が荷造りを行っているであろう居間に向けて歩いていく。

 彼女のいた寝室から居間はかなり近い。寝室を出て、すぐ右側にある。この家の部屋はその二つしかない。

 と、廊下に出た彼女はとあることに気づいた。電気が点いてある居間から、物音が一切しなかったのだ。彼女がそれに気づいた時、不思議に思ったが、荷造りが終わったのだろう、と気楽に考えて、彼女は居間の扉を開いた。

 開いた先にいたのは、自分の血に濡れた両親の姿だった。あまりに唐突で一瞬、表情が止まる。

「お父さん! お母さん!」

 彼女は叫んだ。そして、入ってすぐ右に横たわる二人に近づいて、傷に自分の服をあてがう。だが、彼らから流れる血はどこを塞いでも流れ続けた。何度も彼女はさっきと同じ言葉を叫ぶ。その声に二人は指をピクリと動かして見せた。

「モカ。逃げて……」

 か細い声で母が言う。彼女は震えた手で母の手を握り締めた。そして首を何度も横に振る。

「お前だけでも生きてくれ」

 母と同じ位か細い声で父が言う。その言葉にも首を横に振った。

「モカ、聞いて、くれ。私達は、もう長くは、持たない。そこの荷物の中に、少しだけ、お金が入ってある。それを持って、逃げなさい」

 所々とぎてながら、父は居間の隅、彼女と真逆に位置してある場所を指差す。彼女は指差した所などには目もくれず、その手を握り締めた。

「いや! みんなでここから別の場所に離れて生活しようよ……」

 祈るように両親の手を強く握った。だが現実は非情だ。そんなことをしても、彼らから命が漏れ出し続ける。彼らの命が床を赤く染める。

「いままで、ごめんな。お前を守ってやれなくて……。これからは、一人でがんばらなくちゃいけないけど、生きてくれ。どんなに、大変なことがあっても、生きてくれ」

 彼女は父の言葉を聞きたくなかった。それを聞いてしまえば、両親が消えてしまいそうな気がしたから。耳を手で塞ぎたかった。けれど、強く握った両親の手がそれをさせない。

「ずっと貴方の人生を、見ていたかったけど、私達はここまで。 ごめんね、いつまでも、一緒にいたかったんだけど。がんばって生きてね、私達の分まで」

 そう言い残し、彼らの手は力を失う。命を失なった。もう彼女は両親と話すことはできない。一人で生きていくしかない。急に訪れた孤独が彼女を襲う。襲ったのも束の間、彼女はそれを振り払い、あることをすぐに考える。この惨状を起こしたのは誰か? そしてすぐに思いつく。この村の住人だ。瞬間、並々ならない力が沸いてきた。沸いてきた力が、この村の人間全員を殺せ、と言っているように聞こえた。

 彼女は力を失った彼らの手をそっと床に置いた。そして、二人の手をつなぎ合わせて、そこに自分の手を置いた。そして、覚悟を決めて、彼女はとある呪文を唱えた。

 その後、一夜にして村は無くなった。彼女が唱えた魔法で、そこら一帯の土地が消し飛んだのだ。

彼女は逃げるように村だったものから去り、一人行くもなく、今の今まで生きながらえてきた。 


***


 昔の記憶に浸り、彼女は思う。自分に絶大な魔力が宿らなければ、どんな未来が待っていただろう? 両親が、村の人たちが死ぬことは無かっただろうか? いくら考えても答えを知ることはできない。そしてこれからも見つかることは無いだろう。いくら答えが見つからなくても、彼女は想像する。そして彼女は、可笑しな自分を笑いながら闇の中に消えていった。


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