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「……?」


「何事だ……?

 身体が動かない?」


「ぬ、ぬぅ、なんなのだ!

 えぇい、動け、うぬう、うおおっ!」


 魔族の慟哭。

 辺りを意味もなく荒れ狂う力と炎、そして―――


 ぴくりとも動かない、その身。


「ぬ、ぬああっ!」


「―――気は、済んだかい?」

「!?」


オレの中に生まれる、驚愕。

 外側のオレの中にいる魔族が驚くのが、自分が感じているように、我が事としてわかる。


「人は、魔族の器となる。それがこの世界のルールだから。

―――だが、人以上に器に適したものがあれば、それに引き寄せられる。」

「な……」

「それが、この世界の特別なルールだ!」



 オレの言葉に従い、オレが手にした剣が白い光を放つ。

 魔剣『アナザールール』

 より上位の世界のルールにより生み出された、無限に魔族を集め続ける魔剣。

 オレが片時も離さず、あるいは未来永劫共にある一振り。


 アナザールールより溢れだした白光が、オレを、オレの内なる魔族を包み―――

 やがて再び剣に吸い込まれるように、消えた。


「―――ふう。」


 アナザールールが魔族を吸い込み。

 一体、どれほどオレは、その場に立ち尽くしていたのか。


「一欠片、回収完了。」


それだけを呟くと、オレはその場に座り込み、そのまま大の字になった。


「一体、後何百匹いるんだかねぇ……」


けして手を離れない、手から放さない、この白き魔剣。

 魔族を吸収するたびに、際限ない力をオレに与えるこの魔剣。


「これは、オレに科された業、オレに与えられた終わることなき罰―――」


いつものように、自分へのおまじないを呟いて。

 オレは、ゆっくりと意識を落として行った―――




 終わらない贖罪。

 終わらない業と罰と物語。

 どれほど繰り返そうと、どれだけ同じ時を送ろうと、日々は終わらない。

 いつか、あるいはありえない、その終わる日に到るまで―――




 静かに、眠りに中にあるオレの意識に。

 触れてくるもの―――アナザールールに触れるものがあった。

 吸収直後の不確かな意識と眠りの中で、それでも刻まれたシステムがオレに覚醒を促す。


「ん―――」

「あ……」


静かに目を開く。

 いや、本来は目で見る必要などないのだけれど。人であるゆえの癖とでも言うべきか、

目を開き顔を向ける。

 逃げた少女―――リセア。


「あ、あの……」

「……」


しばらくの間、何を言うか考えて―――


「終わったよ。ここにいた魔族はもう、消え去った。」

「……あなたの、剣の中に……?」

「―――見てたのか?」


状態を起こすオレ自身の気配が、すっと細められる。その瞳とともに。

 その気配に一瞬押されたリセアだが、オレを見つめ返して口を開いた。


「見ていたわ。

 ううん、正確には、見ないで聞いていた。戦場に足を踏み入れてはいけないと言われた

から。」

「賢明だな。

―――まあお前がいた所で、どのみちアナザールールに魔族が吸収されることに変わりな

いんだが。」

「……うん。」


少しだけ、気落ちしたように呟くリセア。


「……オレが強かったことか?

 魔族が怖かったことか、自分が逃げ出したことか?」

「……

 やっぱり、全部、当たってるかな?」


少しだけ悩んだ後、どこか明るい顔を上げて微笑むリセア。

 なんとなく、その笑顔が瞳に残った気がした。



「色々、教えてもらえる?」

「聞かない方がいいと思うぞ。どうしてもと言うなら、別にオレはいいけどな。」

「どうしても。

 あたしにだって、意地とかプライドとか、好奇心とかあるもの。」

「最後のだけなんじゃないのか……?」

「あは、かもね。

 まあ理由はいいじゃないの、教えてくれるんでしょ?」

「教えてもいいが、知ったら消さなければならない―――と言ったら?」


少しだけ気配を細めて言うオレ。


「嘘ばっかし。」


リセアは取り合わなかった。


「……ふふ。

 まあいいだろう、本当でも知らんがな。」


オレは苦笑しつつそれだけ言って、両の瞳を覆うように手を当て、目を閉じた。

 意識が、戦闘用から非戦闘用のそれへと切り替わる。


「―――っふぅ。

 あー疲れた。戦闘終わったから、こっちの性格でいいよね?」

「二重人格ってやつ?」

「うぅん、そこまで複雑じゃないよ。

 まあ、一種の息抜きかな?」


ふぅんと呟くリセアに頷いてから。

 ぼくは地面に腰を下ろしたまま、ゆっくりと語り始めた。


「魔族。この世界の一欠片であり、形と肉体を持たぬただの『意味』である存在。

 他の動物や、人間の身体を自分のものとすることが許されている。世界によって。」

「……」

「最初にいた魔族は、動物を身体にしていた。

 魔族は動物やなんかを身体にしている場合、倒されたり自分の意志でそこから出て概念

存在に戻ることができるんだ。

 だけど、人間の身体に入った場合は、魔族はもう概念存在には戻れなくなる。最も波長

が合い、最大の力を振るうことができる、そのかわり魔族は肉体を得て生身となる。

 それが、この世界の、魔族の意味と正体だよ。」

「……よくわかんないんだけど……」

「まあ、魔族ってのは性格だけの人間みたいに思ってくれれば近いかな?

 他人の身体を奪うことで、初めてホントの人間になるってことね。」

「んー。なんとなくわかった……かも。」

「うん、なんとなくでいいよ。魔族になんか、関わり合いにならない方がいいしね。この

先ずっと。」

「えっと。

 そしたら魔族を倒すには、人間の中に入られて、人間ごと……って、こと?」

「そそ。だから魔族は、1人の人間によって倒すことはけしてできないと言われるんだ。

……ま、そんなことはどうでもいいよね。」


ぼくは、小さく笑った。

 リセアが聞きたいことは、きっとそんなことじゃない。そう思ったから。


「100年前に両親を探し妹と暮らした少年は、何も知らぬまま。

 ふと目が覚めた時には、魔族の目の前だったよ。生け贄として、ね。」

「……」

「少年は強かったけれど、それは常識的な強さだったから。

 武器もなく手足を縛られていれば、為す術はなかった。

―――ちょうど、今日のあなたのようにね。」


ぼくは、縛られた姿を思い出して、軽く微笑んだ。


「だけど―――」

「もういいよ!」

「……

 どうしたの?」

「ごめんなさい、ごめん、もういいから……」


リセアは。

 何を思ったのか。

 何を想ったのか。

 それだけを言うと、ふいに、泣き出した……


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