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「というわけで、行けって言われて来たんだけど。
まあ当然終わってるよね。」
「……あなた、何しに来たのよ?」
「ごはん取り上げられたんで、泣く泣くここまで村の見物をしに。
魔物とやら、強かった?」
「全然。逃げ足は早かったわ。」
「あっそ。
じゃ、お仕事かんりょー。宿に戻るとしよっと。」
「……
ま、まってください!」
帰ろうとするぼくを止めたのは、さっき戸口まで来ていた男。あっけにとられてたみたい
だね、甘い甘い。
そんなんじゃ、冒険者に勝てないってのにねぇ。
「ど、どうでしょうリセア様、この方にもご同行願っては?」
「……はあ?
このいい加減なやつと同行しろっての?」
「い、いえ。
敵は一応数が不明ですし、その……」
「まあいいわよ、別に。私の取り分が減ることさえなければ。」
「……えーっと。」
「わかりました。リセア様の報酬と成功報酬はそのままの額であればよろしいのですね?」
「ええ、いいわ。こいつと組むことも仕事と思えばいいだけよ。」
うーん……
ま、いっか。
「いくらで、何をするの?」
「ありがとうございます。
なにとぞ、よろしくお願いします!」
「おーい。仕事の詳細……」
「詳しいことはリセア様にお聞き下さいませ。では私はこれで失礼します!」
「うわ、行っちゃった……
なんか、すっごい厄介ごとを押しつけた態度だね。」
「……まあ、厄介ごとを押しつけられたことに変わりないもの。」
「まったくだ。しかも、組んでか……」
「む。何なのよ、その言い方?」
「べつに。さて、宿に戻ってごはんごはん。」
「……ふん。なんで私が……」
背を向けて歩き出すぼくに、律儀に横をついてくるリセア。
いや、食事しに戻るだけかな。
「で、どこで何をしろって依頼なわけ?」
「しょうがないわね、教えてあげるわ。
北東にある遺跡に住み着いている山賊が、たまにこの村を襲うらしいのよ。昔は大した
ことなかったんだけど、最近になって魔物を操るようになったって。」
「ふうん。それで?」
「行く、壊滅。」
「なるほど、シンプルでいいね。魔物付き山賊討伐と。」
「寂れた村だし、旅人もあまり通らないしって。それなりに迷惑してるみたいよ。」
「まあ、そういうことなら確かに一人よりは二人の方がいいのかもな。」
ぼくの言葉に、リセアも頷いた。
引き受けた時は、一人で討伐ってことで報酬渡されたんだろうに……とは言わないでお
くか。何がどう転がるのかは知らないけど。
「なるようになるね。」
「……楽天的ね、あなた。
足は引っ張らないでよね?」
「はいはい。早く宿に戻ろ。」
「むかつくやつね……
一人の方が良かったかも。はあ。」
「気楽に行った方がいいよ。気をつけてね。」
「わかんないやつ。言われずとも気をつけるわよ。」
言うと、リセアは歩調を上げて一人で宿を目指し―――ふと立ち止まった。
一呼吸置いて振り返るリセア。その真横を、そのままのペースで通り過ぎるぼく。
「あなた、そう―――って、こら、何無視してんのよ!」
「してないしてない、ちゃんと聞いてる。」
真横を通り過ぎたぼくに、少し走るように追いついたリセアが怒りながら続ける。
「平然と人の真横歩きすぎておいて、何が無視してないなのよ!
もういい、出発は明日の朝だからね!」
「朝ね。起きれたら行こうか、それじゃ。」
「ふざけてんじゃないの! 仕事として引き受けたんでしょ、起きる!」
「……第一ぼく、報酬の話すらしてないのに。逃げられたから……」
「そう言えばそうだったわね。バカなやつ。」
「しょうがないから、リセアと同じってことにしておこっと。」
「……極悪。」
「極悪って言われるような価格設定なの?」
「……」
気まずそうにそっぽを向くと。
リセアは、今度は立ち止まらず一人で歩いて行ってしまった。
知りたいことは、どうせ聞いてもわからないだろうし。
「マイペースマイペース。なるようにくらいは、なるさ。」
右の腰に差した剣の柄を、右手で掴んだまま。
空いた左手で、軽く青い髪を掻き上げて。
晴天を一度見上げて。
「―――さて。
この結末は、どこへ流れますやら―――」
ぼくは、小さな呟きを風に乗せた。