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二〇一二年宇宙の旅

あらすじになっていないあらすじからも一目瞭然ですが、ライトノベルというジャンルではあまり人気のないSFです。SFに全く関心がない、わけのわからない超テクノロジーとか出てきただけで目の前が真っ暗になる、そんな読者の方にもやさしいライトな仕上がりを目指しました。

それにも関わらず、もはやライトノベルと呼べるのかというくらい長ったらしくくどい表現が増えてしまいましたが、ご容赦ください。


副題に特に意味はありません。


 注意:この物語には、大銀河連邦科学局公認発行の大銀河百科事典を脳インプラントにインストールしていない(たとえば主人公のような)読者諸氏に向けて、要所要所に語句の解説が、何の前触れもなく唐突に、改行なしの長ったらしい文章で入ることがある。基本的には最新版大銀河百科事典の引用であるが、特に読み飛ばしてしまっても物語の進行にほとんど影響がないばかりか、場合によっては悪影響しかない記述もあるかもしれないことを注意しておく。


 二〇一二年八月、僕はキャトルミューティレーションされた。

 僕こと笹川アサトは何の変哲もない日本の男子高校生である。これは大多数の男子高校生に当てはまることだが、これといった身体的特徴はないに等しい。中肉中背、顔は可もなく不可もなく。女子にモテるわけでもないが、全く嫌われているというわけでもない。強いて内面的特徴として挙げるなら、極端なプラス思考と、そこからくる怠惰な人格を有している。まぁそれも、現代の平和ボケした日本社会ではごく当たり前のことかもしれない。

 日本の高校で八月と言えば、夏休みのまっただ中である。決して普段怠惰な人格を持つわけでない一般男子高校生ですら、このときばかりはとこぞって怠惰な生活を送っている。無論、アサトもそんな男子高校生の例にもれず、いやあるいはその中でも特筆すべき怠惰さを持って日々を過ごしていた。

 さて話をキャトルミューティレーションに戻すことにしよう。

 キャトルミューティレーションとは、一般に牛や羊などの家畜が突然いなくなっては骨と皮だけになって発見されるといういわゆる超常現象の一つである。昔はUFOの仕業ではないかとSFマニアたちによって騒がれていた。

 ということは僕は夏真っ盛りのこのご時世、骨と皮だけの超クールビズスタイルになってしまったのかというと、そうではない。どういうわけかというと、実のところそれは僕にもまだよくわかっていない。

 その質問は、僕よりも今僕の目の前で、鈍色のリクライニングシートっぽいものに座りながらストローで謎の液体をじゅるじゅるとすすっている銀髪碧眼の少女に聞くべきだろう。彼女がどうやら実行犯らしいのだから。


「だからさっき説明した通りよ。あんたってもしかしてバカ?」

 先ほどの質問をもう一度投げかけた僕に対して、ふてぶてしい態度でじろりとこちらを一瞥しながら少女は言った。ついでに先ほどじゅるじゅるとすすった謎の液体をベッと床に吐き散らし、「まずっ!」と不機嫌そうだった顔をさらにしかめた。

「だからさ、あそこの機械あるでしょ? あの蛇口が二つくっついているやつ」

 そう言いながら彼女が指差した先には、彼女の言うとおり蛇口が二つある四角い箱のような機械がある。蛇口は箱の下半分にぽっかり空いた穴の上側についており、その下にはカップを置くためのスペースがある。上部は緑と赤の二つのスイッチと、緑色に光るランプが一つある。ちょうどファミレスにあるコーヒーサーバーのようないでたちだ。機械はそのまま床に接続されており、床下からは時々ごうんごうんという洗濯機のような音が聞こえる。

「ああ、あるね」

 僕はつとめて冷静に答えた。この特異な状況に若干頭がおかしくなりそうである。

「それは全自動食べ物飲み物製造機っていうの。有機物をこの船の下部から摂取して、それを全自動で水分と食料に分けて、調理してくれる便利な機械よ。もちろん、味は素材によるのだけど……」

 そういいつつまた顔をしかめて言った。

「おかしいわね。地球人の嗜好を分析した結果、牛肉がかなり高い割合で嗜好されているようなんだけれど、とてもじゃないけど食べられたものじゃないわね。あなたの星の人間って味覚オンチなの?」

 彼女は忌々しげにグラスに注がれた肉色のゲル状物体を睨みながら言った。床では掃除ロボットらしきものが彼女の吐き出した物体を始末するべくせわしなく動き回っている。

「いや牛ってそうやって食べるものじゃないし……っていうか、食べ物の話じゃなくて、僕が聞きたいのは、ここはどこなんだってことと、なんで僕はここにいるのかってことなんだけど」

「ここはそうね、とりあえずあなたがいた星系からだいぶ離れたところね。なんであなたがここにいるのかっていうと、コンピュータがあなたを牛と間違えて船に取り込んだからね」

 彼女は事もなげに言った。牛? 牛と間違えるってどういうこと? 夏休みまっただ中、しがない普通の高校生の僕は確かに死んだような生活を送っていたが、牛と間違えられるほどだったのだろうか。

「まぁ、確かにここの所コンピュータの調子が悪いのは確かね。いきなりエラー出るからびっくりしたわ」

 彼女は恨めし気にそうつぶやく。恨めしいのはこちらのほうなのだが。というかここが宇宙とか何の冗談だ。夢か現実かみたいな適当な生活をしていたせいで、夢の中だということに自分自身気づいていないのだろうか。いやそれはない。なぜなら自動食べ物飲み物製造機とやらの下部にある巨大ミキサーに巻き込まれかけた腕がずきずきと痛むからだ。

「で、僕はいつごろ地球に帰れるんですかね? ていうか、今地球に向かっているんですよね?」

「アハハ、帰れるわけないじゃーん」

 彼女はアメリカンジョークを言うアメリカ人みたいに、両手を天に向け首を振りながら鼻で笑った。イラッ。

「は? だって僕はここに間違えてつれてこられたわけで、あなたにとってはいらない存在ですよね?」

 僕は動揺を隠しきれず、若干うろたえながら言った。

「あのねー、事はそう簡単じゃないのよ。私がエラーに気づきつつもこんな遠くまでさっさととんずらしたのは、未開惑星調査団の連中が来たからなのよ。未開惑星保護条約っていのがあって、未開惑星の食料を研究目的以外で採取したり、原住民と接触したら厳しく罰せられるのよ。つまり、あんたがいるってばれたらまずいわけ。ついでに牛もまずいわけ。二重の意味で。わかった?」

 わかったようなわからんような。

「ていうか君はそんなまずい場所で、なんだってそんなまずいことをしていたの?」

 率直な疑問。

「あ、言ってなかったわね。私は宇宙グルメハンターのソフィア・デザートイーターよ。ソフィって呼んでいいわ」

 ソフィと名乗る少女は銀色のサラサラとした髪をかきあげながら言った。今更だが、ソフィと名乗る少女は宇宙人とはいえ地球人とほとんど見分けのつかない外観をしている。というか、よく見るとかなりの美少女だった。銀髪碧眼、影のかかるほど長いまつ毛、線を引いたような眉、薄紅色の唇、どことなく幼さを残す面影。まるで人形のようとは彼女を言い表すために作られたような言葉だ。

 しかし誠に残念なことに、服装がジャージだ。黒地にピンクのラインが入っている。ジャージのようなというより、ジャージそのもの。宇宙にもジャージってあったんだ。僕が一番感動を覚えたのはそこであった。

 ていうかグルメハンター? グルメという割に食べているものはあのゲル状の肉で、まったく説得力がない。僕がいぶかしげに見ていると、彼女はそれを察したのかむっとして答えた。

「私は素材専門なの。未知の素材を発見して、その味データを採取して売るのよ。これはそうね、味見ってところかしら」

 彼女はグラスをゆらゆらさせながら言った。素材? まさかゲル状になってしまった牛を売るわけではあるまい。

「味データというと?」

 僕が尋ねると彼女は得意そうに答えた。

「味覚インプラントっていって、味覚情報を入力することでその入力した味を体感することができるのよ。そこの宇宙フード株式会社が宇宙船搭載用に作った、自動食べ物飲み物製造機から出てくるモノがあまりにまずいっていうんで、味覚インプラントが今大流行なのよ。今や料理人は味データを組み合わせてその情報を販売するのが仕事ってわけ。私ら素材ハンターはその料理人に新しい食材のデータを販売しているのよ。」

 なるほどわからん。どうやら要するに、あの見るからにまずそうなゲル状物体は食うに堪えないので、いっそのこと舌に機械を埋め込んで脳みそにおいしい料理だと勘違いさせる装置が流行っているようだ。宇宙では料理人は包丁を持たず、コンピュータをいじって料理をこしらえるらしい。何ともおかしな話だと思う。

 ところで、地球人の僕が宇宙人のソフィと普通におしゃべりを楽しんでいる(?)のを疑問に思われる方も多いだろう。ちなみにこれも言語インプラントというものによるらしい。よく宇宙人にさらわれて、なんだかよくわからないチップを埋め込まれて帰ってきたとかいう話をよく聞くが、まさにそれだ。要するに、ソフィは僕に言語インプラントチップなるものを埋め込んで、あらゆる宇宙言語とのコミュニケーションを可能にしたのである。宇宙言語学者の仕事は、もっぱら未知の言語体系を持つ未開知的文化系を発見しては解析して、言語インプラントにインストールするという重箱の隅をつつくような仕事に明け暮れているらしい。


 いろいろと感心してしまったが、本題に戻ろう。問題は僕がどうすれば地球に帰れるのかということだ。まだ望みを捨てたわけではない。捨てられるものか。

「僕が地球に帰る方法って、本当にないの? ほらよくあるじゃん、ペンみたいなのから光がビカッと出て、記憶なくなっちゃうみたいな。そういうの使っていいからさ、帰りたいんだけど」

 食い下がる僕を少し憐れむような目で見てソフィは答えた。

「そうね、確かにそういう道具はあるし、未開惑星人と接触した場合はそうする義務があるわ。私は食材専門で、基本的に人とかかわらないから持ってないけど。そうね、ちょうどこれからあなたの身分証発行とコンピュータ修理のために市場惑星に行くから、そこで買ってあげる。まぁしばらくしたら、未開惑星調査団も帰るだろうし、そしたらたぶん帰してあげられるわよ」

 それを聞いて僕はかなりテンションがあがった。小躍りしたくなるくらいに。実際には小躍りとまではいかないものの小さくガッツポーズをした。同時に安堵の溜息がどっとでた。

 なんだかんだ平静を装っていたが、やはり不安でたまらなかったのである。そうだ。記憶を消す装置を買って、調査団が帰るまでの辛抱だ。ちょっとした宇宙旅行だと思えばいい。どうせ記憶は消えちゃうんだし、ソフィに粗相をしない程度に楽しめばいいのだ。元来ポジティブシンキングの持ち主である僕はそう考えることにした。


このたびはご拝読下さり誠にありがとうございました。


推敲はざくっとしかしてませんので本文は完結編の投稿に合わせてざくっと変わる可能性もありますのでご了承ください。おそらくたくさんの空白ミスや誤字脱字等についても。


最終的には完全体になる予定です。たぶん。

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