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【騎】 月夜の帰路

月時計と田中ニコの二人が、それぞれの持ちキャラの一人称視点で交互に書いていく合作です。必然的に、視点変更が都度起こり読み辛い事にはなりますので、その点はあらかじめご承知置きください。

月時計が王女リシュレイア、田中が騎士ラグナス視点をつとめます。


背景設定はありますが、決まったストーリーはなく小噺的な感じを予定。

他のお話よりも更新はゆっくりめで、気が向いた時の不定期になります。

日が沈み、光を失っていく空にうっすらと月が浮かび始める。

予定よりも大分遅い時刻の帰路に、内心のみで嘆息した。


――相手は王族だというのに、気の利かないオヤジだ。具体的にいうと、無駄に話が長い。

こんな夜道で万一の事がありでもしたら、責任は取ってもらえるのだろうか。――否、取れる筈もない。仮に、いくら相手に誠意があったところで、絶対に許されぬ事だ。

それに、そんな事態を防ぐ為に己が存在するわけで、詰まるところ自分が姫の傍に居る以上、万一の事とは起こり得ないのだが。


我が主である、メラウェン国のお転婆姫は、馬車での移動よりも徒歩を好む酔狂な奴だ。

当然、己が仕えるに足ると判断した人物であるからして、王族という立場を自覚せぬほどの愚者というわけはないし、そこは距離や用務の内容によって比較的適切に使い分けられている筈なのだった、が。

それでも、その甘さは充分な『隙』と成る。

どこから湧いて出たのかは知らんが、背後に四……五人。

抑えているつもりで、隠し切れていない気配。

素人ではないが――相手が悪かったな。


「姫。お待ちください」


自分が立ち止まれば、そのまま一人で行ってしまいそうに颯爽と歩く主を呼び止める。

剣の柄に掛かった俺の手を見て、聡い彼女は察したらしく、その表情が引き締まる。

かばうように小さな姫の体を引き寄せ、低く腰を落として構えると彼女の耳元に唇が近くなった。


「あの塀に背中を預ける。――走るぞ」


彼女にしか聞かせない声と、言葉を囁く。


一対多数の戦いにおいて、多方向から囲まれるのは致命的だ。正面と後ろを同時に相手にする事は出来ない。

そして誰かを守りながらの状況で難易度が高まるのは当然で、尚更早くに、人員的不利をカバー出来る体勢を築けるかが肝要である――のだが、俺は姫を先に走らせて後方を意識しつつ追いかける。

こういう場面では、お姫様の手を引く騎士というのが絵になるらしいが、体格差のある俺が引っ張って走ったところで、どんくさい姫は転ぶだけだ。お姫様抱っこなんてアホな真似が出来るわけもない。

それに、こいつはそんな事をせずとも自分で走れる。


途中、足の速い奴が追い付いて来たのを押し返しながら、距離を稼いでいく。

俺があまりに簡単そうに受け止めるので、そのうち相手が怯んだのか勢いが削げてきた。

あの馬鹿王子の仕込みか、はたまた身なりの良い娘を狙ったその辺の賊か――どちらにしても、身の程を弁えるべきだな。


「この御方を何方かと知っての狼藉か――。だが知らぬならば知らぬで、それもまた罪だ。大人しく散るがいい」


抜き身の剣と眼光を突き付け、冷やかに言い放った。

大抵の者はこれでビビるが、同じく大抵の者は及び腰で向かってくる。

この時点で、勝負は決したようなものだろうに……全く、馬鹿め。


神経に及ぶほどに深く切ったり断ったり、とにかく後遺症が残るような形にしてしまうと、姫がうるさい。命を奪うなど論外だ。

なので面倒だとは思いつつも、剣の刃ではなく打撃で応戦する。

それでも、決着はすぐに着く。



地面に、失神した不届き者が五体。

結局素性は聞かなかったし(どのみちこういう輩が素直に答えたという話は見聞きした事がない)、これから彼らにどんな処罰を与えるかというのは、自分の判断する所ではない。

この場の決定権は全て、己の主にしてこの国の第三子である王女に委ねられているのだから。

自分はただ、彼女を護る従者でしかない。


「お怪我は御座いませんか。リシュレイア姫」


彼女に危害が及ばなければ、それでいい。

逆をいえば、いくら結果がうまく収まったからといって、姫の身に傷がついた時点でそれは自分の存在意義に関わる由々しき事態となってくる。

彼女を守護する事が、王女付の親衛隊である自分の、唯一にして最大の役目――少なくとも、この場ではそれが建前であり、また何処からどう見たとしても正しい認識だった。



自分が盾となっているのだから、何ら心配も不安要素もない。

その事を誇るでもなく、謙遜するでもなく、ただの一つの事実として、粛々と責務をこなす。

それが騎士ラグナス・オルブライトの表の顔である。

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