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No.7


「矢倉、本探してきて」

「隣の机に置いています! 詳しい参考資料が必要ならすぐに図書館なり本屋なり行きますから、取りあえず目を通してください」

「さんきゅー」

 矢倉の折角の長台詞だが全部聞いちゃいられない。

 ポイントっぽい背景に貼り付けられた付箋のページを次々に開いていく。

「コレよさそう、んで下は・・・・・・」

 服装は決まった、ビジュアルはこんな感じ。挿絵は何とかなる。

 あとは背景デッサンと色塗り!

 時間がない!

 これ以上ないってくらいに集中しすぎて頭が痛くなってくる。


「先生、お茶です」

「・・・・・・」

「先生!」

「んー」

 ぐい、と一口飲むとすぐに隣の机へ置く。

 俺はすぐ水分補給を忘れるので、このままいくと無理やり飲まされてしまう。



「ミモー?」

「・・・・・・リッカ? 悪い、今仕事中だから。矢倉のとこ行っててくれるか?」

「分かった」

 素直な返事が返って、すぐにパタパタとスリッパの軽い音が遠ざかっていく。

 眠りから覚めると不安になるようで、家に着たばかりの頃は、仕事中だろうが風呂に入っていようがお構い無しに側に居たがったが、今では聞き分けが良くなった。

 しかし不安になるというのは、リッカの前にいた環境のせいなのだろうか。

 一度なんか夜中に目が覚めてパニック状態になってたときがあったし・・・・・・

「いかん、集中集中」

 あとは色塗りを完成させればいいだけだから。もうちょっと待っててくれ。



「終ったぁー!」

 頭の中では惜しみない賞賛の拍手が送られ、ファンファーレが鳴り響いていたが、部屋には誰もいなかった。

「あれ・・・・・・皆帰ったのか?」

 しーんとした部屋。

 隣に行っても、台所に行っても気配がしない。

「まさか寝て――――ないしなあ」

 どこ行ったんだ、皆が帰ったり、遠出をしたりするならメモ書きくらい残すだろうし。

 リッカがいないってことは・・・・・・


「矢倉さーん、こっち終ったッスよー」

「ありがとうございますー。じゃあそこの袋に詰めていただけますかー?」

「はーい」

「え、草取りしてたの?」

 ドアを開けると、玄関前から久しぶりに見た土の色が広がっていっている。

 声をかけるのと同時に、汗まみれの青年二人は爽やかな笑みを浮かべた。

「深川も矢倉も・・・・・・ありがとなー」

「いえいえ」

「私もそろそろ」

「そういえば、リッカとアンミツは?」

「ああ、先輩たちなら買い物です。夕食の材料買ってくるって言ってましたよー」

 深川は軍手の甲の部分で汗をぬぐった。

 指先に付いた泥で額が汚れる。


「お前汗だくじゃん。湧いてるから風呂入ってけよ。矢倉も入るか?」

「あー・・・・・・いえ、私は自宅で入りますから。深川さん、どうぞ」

「いいんですか? オレ着替え持ってきてないですけど」

「俺の貸してやるからさ、後で持ってくよ。食事前にさっぱりしとけ」

「すいません、じゃあお先に」

「んー」



 それから十分ほどして、リッカとアンミツが帰ってきた。

 アンミツは両手にバッグをぶら下げ、リッカは上機嫌で小走りに近づいてくる。

「おいおい、転ぶなよ。おっ、ソフトクリーム買ってもらったのかー? よかったなー」

 こく、と嬉しそうに頷きながら食べかけのコーンを差し出す。

 一瞬戸惑いながらも、一口かじるとさくっとした懐かしい感触とミルクの味が広がった。

「甘い?」

「ん、美味い。ありがとなー、リッカ。俺は十分楽しんだから、残りは食べていーぞ」

 うーんだか、ふーんだか曖昧な返事をすると、リッカは満面の笑みでコーンにかぶりついた。

 早速口の周りが粉とクリームで汚れる。

「そうだ、リッカ。ちゃんとアンミツにお礼言ったか?」

「――!」

 ぴく、と兎のように耳が動いた。

 どうだったのかと必死に思い出しているのだろう。

 動きを止めて考えたが、どうやら言っていなかったのか口を離して、アンミツに向き直り、どうもありがとう、と礼を言った。


「どういたしまして」

 無表情男は珍しく微笑み、早く食べないと溶けるぞなんて、子ども思いの言葉をかけている。

「・・・・・・何なんだその顔は」

「俺は昔からこんな顔だ。え、何。俺今どんな顔してる?」

「笑いをこらえているような、泣き笑いのような面白い表情してますよ」


 面白いって。

 芸人じゃないんだからー。

 矢倉は俺の落ち込んだ様子に触れることなく、アンミツから受け取った材料をキッチンまで運んだ。

 っていうかお前、原稿はいいのかよ?





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