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No.6


 先ほどからアンミツアンミツと呼んでいるこの男は天満白姫。

 俺の幼馴染で、中学高校と一緒の同級生である。

 アマミツ、をあんみつ。

 シラヒメ、を姫。


 あだ名を付けやすいこの名前は、彼の祖父が付けた名前らしい。

 天に一面にある星を表す、天満星という美しい単語が連想できるこの名字にちなんで、彼の家族には星の名前やら、植物の名前やらを贈られる事が多いらしい。

 白姫という名前も冬を司る女神のことをいうのだとか。

 女神なら明らかに女の子に付ける名前じゃねえの、とか思うのだが、男ばかり生まれる天満家に今度こそ女の子が生まれることを願って、生前から名づけた名がこれ。


 今となっては、姫というのがとてもじゃないがキツイお年頃になってしまった。

 だがしかし、悔しい事に顔の造作は立派だし、足も長い。

 恐らく紅顔(もしくは厚顔)の美少年時代には、白姫という名前もさぞかし似合っていたことだろう。



 ったく。

 顔はいい、足も長い、背も高い、頭がいい、出来すぎ君かこいつは。

 ああでも、性格はそんなにいいほうじゃないか。

 天は二物を与えずって本当だな。


「聞こえてますよ、先輩・・・・・・!」

「え、俺今の口に出してた?」

 必死にこくこく頷く深川。

 と、矢倉。

 ん? おお、矢倉。

「いたのか」

「いましたよ! さっきからここに。ずっと無視して・・・・・・ッ」

「悪かったよ、でもアンミツが――」

「それは後にしてください、先生。挿絵の締め切り、いつか分かってますよね?」

 脅しのようにじりじり迫ってくる矢倉の顔は、目が少し血走っていた。

 疲れてるな。


「分かってるってェ、明日だろ? この分なら楽勝楽勝」

「今日です」

「だろ、だからだいじょ・・・・・・はあ、今日? 明日じゃねえの!?」

 あああやっぱりいいぃ、と頭を抱えながら、矢倉はそれでも自分を取り戻しながら言った。

 傍で苦笑いする深川と、アンミツのため息がやけに響く。

「今日です! 私は何回も言いました、聞いてなかったほうが悪いんです。再度言っておきますが、延びませんからね」

 延びませんからね、を一文字ずつ区切られると、ドリフよろしく金だらいが降ってきたような気がした。

 頭が痛い。


「あ、なんだか頭が痛いなー・・・・・・」

「延びません」

「・・・・・・・・・・・・いたーい」

 心も痛い、なんて呟きながら、早速作業に取り掛かる。

 挿絵なのだから、一枚で大丈夫だろう。あとはどのシーンを取り出すかだ。

 全体を読んで選定までに恐らく一時間もかからない。うん、今日中に終る、やっぱり大丈夫。流石俺、大丈夫だ俺、頑張れ俺。

 呪文のように言い聞かせる。

 ナルシストになりたいわけじゃないのだが、こうでもしないと気持ちが挫けそうだった。

 無理やりテンションをあげないと、終りそうにない。他にもちまちまとした仕事があるから、この仕事に一日を使ってしまうとかなりきつくなるってのに。

 遠くで烏が鳴いた。なんてェ物悲しい鳴き声。


「あ、これも覚えてますか? 時代のイメージとしては中世ヨーロッパ風。背景を一枚書いてもらって、それを雑誌のバックに載せますから、それにプラスして本編の一場面を抜き出してください。当然ながら新連載なのでキャラクターの設定表なんかありませんからね」

「・・・・・・え?」

 え、って。言ったじゃないですか、と矢倉は頬を膨らました。

 どーでもいいけど、んな顔しても可愛くもなんともねえよ。

「だから、作者さんと直に話し合ってもらってもいいですけど、キャラクターのビジュアル、背景設定、全てこちらに任されてますから。大丈夫なんですよね?」

「大丈夫じゃないー!」

 何だそれ、いやキャラクター作りに手を付ける方が珍しかったりもするかもしれないけど最近挿絵の仕事なんてほとんどなかったから作業全工程忘れてたよ。そういう人は確かにいるケドすっかり忘れていた、っていうか考えたくなかったどうすりゃいい!

 そうだ、こんな時こそまず原稿設定だ、見た目の描写があるはずだ。


「・・・・・・オレ、先輩が先月も同じようなこと言ってたような気がするんスけど」

「奇遇だな、俺もだ」

 部屋の奥で再度なされたため息の二重奏は、最早俺の耳に届く事はなかった。






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