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No.5


 物は壊すし、何事も真正面からぶつかって問題を起こすし、正々堂々としているけど成功したためしがないし、いつも元気な分落ち込みようは半端ないし、俺の言う事なんか聞かないし、いっつも冷や冷やさせられてくたくただこっちは。

 ・・・・・・なんだよその、何もかも分かってますみたいな生温かい目は。

 俺は渋々、面倒を見てやってるだけだ。

 そうさ、餓鬼は嫌いなんだからな。



「夜もしっかり眠ってるんだけどなあ」

「眠りが浅いんですかね?」

 というのも、時折糸が切れたように眠りだすのだ。

 確かな周期もない。定期性はあるが、予測が出来ない。しかし、観察によれば沢山動いて、よく考えた後に眠りだす事が多いと思う。ということは、リッカの脳が長時間の活動に耐え切れずに、必要最低限以外、何もかもの活動を停止して休息をとっているのだと考えた方が無難だろう。

 眠り姫病、と密かに呼んでいるその症状には、さして害はないので今のところ放っている。

 病院にいくかと尋ねたこともあったのだが、本人が行きたがらないのだから仕方ない。

 これまでを考えると一時間以上はこのまま眠り続けるだろうから、体が冷えないようにベッドに連れて行くしかないだろう。


「貸して」

「はい」

 未だに矢倉に抱きついたままのリッカの体を預かると、横抱きにする。

 初めは背中に背負っていたのだが、そうしているとベッドに寝かせにくいので、こんな状態になった。

 効率的な問題があるとはいえ、この格好は流石に恥ずかしさ感が否めない。

 

「先生、意外と似合ってますよ」

「るせぇ・・・・・・」

 俺は餓鬼が嫌いなんだ。

 はいはい、と何か言いたげな笑みを浮かべた矢倉は、当に冷めてしまったお茶をすすった。

 なんだか納得がいかない。



「ほい、できたぞー」

「お疲れ様です、先輩」

「んー、あとは読みきりの小説の挿絵だっけ。まだ読んでないんだよな・・・・・・」

 差し出された茶をすすった次の瞬間、思ってもみなかった甘味に噴出していた。

「な、んだこりゃ!? 矢倉ー!」

「はい? どうしました、先生」

 どうしましたかじゃねえ、何だこの甘い茶は、と言いかけたが、どうも距離がおかしい。

 部屋の外から顔を出している矢倉。

 じゃあさっき茶を出した矢倉はどこに?


「うっわー・・・・・・お前か、深川」

「はいー。深川都、ただいま参りましたー!」

 お疲れじゃないですか、肩でも揉みましょうか? なんて甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのは、深川都。

 俺が振り向いたのとは反対方向で、いたずらっ子のような顔をしているが、これでも成人している。

 矢倉よりも背が低いので恐らく170センチには達していないだろう。

 猫っ毛を小さく束ねた後頭部の尻尾がチャームポイントだろうか。

 大きな目に高めの声。しかし、深川はれっきとした男だ。

 部活の後輩だった男で、大学が終ると時たまここにやってくる。


「いや、別に大丈夫だから」

「そうですかー? 最近先輩、ますます色白くなってきてません? 駄目ですよ、外に出なきゃ」

「お前は俺のお袋か」

 やだなー、なんて少し頬を染める深川。

 別に褒めたわけでも何でもない。

「外といえば、また草が生えてきましたねー」

「そうだよなぁ・・・・・・取らなきゃ、取らなきゃって思いながらもやりたくねえっつぅ・・・・・・」

「じゃ、オレがやりましょうか? 軍手とか鎌とかあります?」

「いやいや。流石に悪いし、今相ッ当、日差し強いから。んなことする前に勉強とか部活しろって」

「いえっ! そんなことじゃあないですよ、先輩の家を美しく保つ事も、オレの立派な仕事です!」

 なんだかいろいろ間違っている気もする。

 けれど、草取りをやってくれるという申し出は、ちょっと・・・・・・いや、かなり嬉しい。


「・・・・・・本当に?」

「本当です」

「悪いな、都」

「先輩・・・・・・! じゃあ、お仕事の合間にこれでも食べてくださいっ」

 冷やしておきましたから、と差し出されたのはプリンだった。

「おー、お前の手作り?」

「味見はしたので、食べられるとは思うんですが。ちょっと見た目が悪くて」

 すんません、と頭を下げた深川ではあったが、カラメルのかかり具合はそれを十分にカバーしていた。

 ぷるぷるとした動きと輝きが素晴らしい。


「んじゃ早速、いっただっきまーす!・・・・・・んぁ?」

「都、こいつを甘やかすなと何度も言っているだろう」

「アンミツ! お前、よくも俺のプリンを――! スプーン返せ、こらっ、食べるな!」

「甘い・・・・・・」

「ったり前だろーが。だからスイーツとか、甘味だとかいってんだろ。ほらもう返せよ、俺一口も食ってないんだから」

 手を伸ばすとアンミツは、分からないと言いながらもう一回、口に運んだ。

 奪い返そうとすると、複雑な顔をした深川がもう一つスプーンとプリンの皿を運んできてくれる。


「すまん。手間かけたな」

「いえいえ、先輩のせいじゃありませんよ」

「そうか? そーだよな、全ては目の前の無表情アンミツ男のせい」

 はあぁ、と深川とため息のタイミングが重なった。

 アンミツは恨めしそうに、わざとらしい、と呟く。

「大体、俺の名前はアマミツだ」

「分かりましたよ、お姫サマ」

「ああ言えばこう言う・・・・・・」


 よっぽどお前のため息の方がわざとらしいよ、と言ってやろうと思ったが、まあ、このプリンに免じて許してやろう。






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