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No.14


 声は、震えていた。

 目は、アンミツを見ないまま、心ここにあらずのリッカを凝視する。

 ロボット?

 漫画でよくある、ヒューマノイドとか、アンドロイドとかいうやつ?

 あんなに綺麗で、可愛くて、生意気そうで、人間そのものなのに?


「だって、飯食うんだぞ?」

「食べ物を摂取してエネルギーを作り出す仕組みは、本当に苦労するよ。効率を図るために、日光と水だけでも幾らかは稼動できる」

「水を浴びたって、平気だった」

「人工皮膚で覆われているからね。間接はきちんと塞がれている」

「それに、あんなに不器用で・・・・・・」

「バランス感覚も、手先の器用さも設定はしてあるが、成長にしたがって身に着けていくんだ」

「黙ってろよ!」


 何だって?

 リッカがロボットって、何なんだ?

 そんなわけがないじゃないか。

 こんなに生き生きして――人間、そのものなのに!

 どうしてだろう。

 何でこんなに裏切られたような、複雑な気持ちになるんだろう。

 指先にまで心臓の鼓動が感じられた。

 頭はぐるぐる回り、事態についていけやしない。



「未聞、落ち着け」

「落ち着いてる。十分落ち着いてるさ、これ以上ないくらいの落ち着きぶり。どーよ?」

「どーよ? と言われてもな」

 落ち着いているようには見えない、そうかそうか。

 うん、俺もそう思う。

 俺の馬鹿野郎。

 いつからこんなに突発的な事態に弱くなっちまったんだ?

 突発的事態なら、勘違いしていたギリギリの締め切りで慣れているはずなのに。


「一つ聞きたい。お前、リッカに何かしたか?」

 さっき緑青は、リッカを呼び出したと表現したはずだった。

 それにつられてここへ来たのまでは分かったが、あのぼんやりした目にどうにも胸騒ぎがしてならない。

「この装置・・・・・・君たちの世界じゃ、懐中時計だったか。日常生活で持っていてもおかしくない形をしている、小型サイズの経験値測定装置。そして、Avi - dobo 90716bの位置を特定した周波数を受信する仕様にもなっている。彼を呼び出すことも出来る。どうやら君は、その余波を受けたようだね」

 アンミツが無言で頬に触れてきた。

 滑らかな感触に、傷がついているのだと知る。

「親父にもぶたれた事ないのにー」

「なんにでも寛容であるという姿勢をとっている社会が生み出した、過保護な教育体制は人間の人格形成に大きく影響を及ぼすと思うんですよね」

「それでこんな奴が出来上がるわけか。とてつもなく問題だな」

「――ってオイ! ネタだろ、ネタ! なんなんだよ、深川まで! ――どいつもこいつも好き勝手・・・」

 まあ、元気は出たけどさ。

 その言葉を、やはり俺は口に出していたらしい。

 先ほどから緑青を睨みつけたまま、こちらを見ようとしなかった二人が、同時にちらりと笑みを浮かべる。


「リッカを呼び出したのは聞いたさ。だけど、何で生みの親のアンタを見ても表情一つ変えないんだ」

「催眠状態、のようなものだね。こちらが握っている主導権の一つで、プログラムを書き換える、もしくは書き込む前の待機状態にさせている。分かりやすくいうなら携帯電話の待ち受け画面ってところだろうか」

「書き換える・・・・・・っていうのはどういう?」

「仮プログラムを実行させることもできる。例えば、君ならリッカがどんな性格だったらいいなと思う?」

 リッカが、どんな性格だったら、俺はいいなと思うか――。


「別に、今のままで十分満足してるよ」

 すると緑青は、頭の悪い生徒に根気強く教える教師のように、ちょっとだけ呆れた目をしてみせる。

「例えば、の話だ。こんな感じの性格のリッカだったら、どう反応するんだろうか、とか」

 例えば、ね。

 そうだなあ・・・・・・。

 悔しい事に、リッカって美形なんだよな。

 実際、俺の周りにいる奴は不細工とはいえない顔のつくりをしている奴ばかりだ。

 ふとその代表的ともいえるアンミツの顔を二秒くらい見つめて、俺は口を開いた。





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