No.13
「さっきから人の家で何をしているんスか? そこのオッサンは」
「だからー、お前らなあ。ここは俺んちなの」
後ろからはぼうっとしたリッカと、その肩を抱く深川の姿が近づいてきていた。
「やれやれ。人が集まってきてしまったな。折角人目を忍んで、こんな夜中に出てきたのに」
ひどく楽しそうだった。
まるで大勢の観客が入った劇場で、舞台に立っているかのように。
「人に慕われているようで、羨ましいよ」
目の前にいるこの男は、果たしてそれを羨ましがるような人間なのだろうか。
緑青はなおも続ける。
「本当ならもう少しデータを取って、それから引き取りに来るつもりだったけど、こうなったら都合が良い。今リッカを引き取らせてもらう」
「ちょっと待て」
俺は、思わず声が高くなっていた。
自分でも驚くほど大きな声だったので、今度は意識しながら声を潜める。
「緑青さん・・・・・・アンタは、あの子の、なんなんだ? リッカはアンタの子どもなのか?」
「そうだね。どういうカテゴリーに属するかと問われるならば、子どもというしかないだろうね」
「アイツはココに来た時、ほとんど感情表現の術を知らなかった。言語は堪能で、たまに俺でも驚くほどの知識を披露してくれたりはしたが、笑わなかった。おまけに、見るもの、聞くもの全てが始めてといった様子だ。アンタ、一体この子をどう扱ってきたんだ?」
親なら、子どもに愛情をそそいで、一緒にいてやって、いろんなことを学ばせて、幸せになってほしいと願うものなんじゃないのか?
何もない部屋で、ただただ軟禁するように無意味に育ててきたのか?
眉を顰めたアンミツに、深川。そして肩を支えられているリッカ。
彼らの顔を眺めてから、緑青は薄ら笑いを浮かべた。
「Avi - dobo 90716b。それが彼の名だ」
「あびどぼ、きゅう・・・・・・? アンタもしかして。子どもをナンバーで呼んでたのか?」
「そうだよ。彼は私が作った」
「ふざけるなよ、そんな非人道的な!」
親だから子どもをどう扱ってもいい、なんて理由あるか!
こんな無感情な奴に育つわけだよ! 今は違うけど!
俺は自分で思っているよりも怒っているのだろう。
血圧が上がっているのか、ずきずきと頭が痛い。
そして俺が激昂する様子を、緑青は面白いものでも見たかのようにしげしげと見つめていた。
「彼が無感情だったといったね。そして今は感情が豊かになってきている」
俺が頷くのを確認してから、続けた。
「それは当たり前だ。元々感情プログラムはあった。しかし、経験が足りなかったから表現の術もタイミングも知らない。フィードバック機能によって学習し、より人間らしくなっていった。今日はその学習度合いを確かめに来たんだ。そうして、どうせなら引き取ろうと、さっき信号を送ってここに呼び出した」
「ぷろぐらむ、ふぃーどばっく?」
はてなマークが頭上に埋め尽くされているような感じだ。
混乱してきた俺の隣にいるアンミツは、何もかも分かったような顔をして、なるほど、と呟く。
「リッカはロボットか?」
「ご明察。私のいたところではマホルと呼ばれている。人間としての感情を併せ持つ、希少なドール。私の作品だ」
それで子どもというしかない、わけか。
「そ、でも、そんなこと、あるわけ、ないじゃん。なあ、アンミツ・・・・・・」
口では否定しながら、声は震えていた。




