No.12
「預かりもの? 知り合いか?」
腑に落ちない様子で、アンミツは囁く。
内心うろたえている様子は見せてやるものかと、アンミツと光の中にいる奴双方への意地で、努めて平静な声を作り出す。
「顔も見せないような非常識な知り合いは、お前くらいしか思いつかない」
「顔見せてるだろうが」
「非常識ってトコロに反応しろよ」
意味もない会話でも、交わしていないと混乱するあまり笑い出したくなる。
そうこうしているうちに、人影が動いてこちらを見たのが分かった。
段々そいつが手にしている光が和らいでいく。
手に持っていたのは、懐中時計だった。
遠目だから詳しくは分からないが、かなりの年代物のようだ。
黒いロングコートの胸ポケットに仕舞うまで、それはぼんやりと光っていた。
「そうか、あの子は大分可愛がられていたようだ。礼を言うよ」
ほんの少しだけ首を傾けながら、人のよさそうな笑みを浮かべて、男はそういった。
五十代になるかならないかくらいの男性で、白髪交じりの豊かな頭髪を後ろ向きに撫で付けている。
「アンタ、誰だ・・・・・・?」
「そうだな――科学者の、緑青という者だ」
「何なんだよ、その間は。偽名ってこと?」
それも、科学者?
俺の中では白衣を着ていて、しかもちょっと薄汚れたイメージだったのに。黒のロングコートって、有名な医師免許剥奪医師みたいだな。
「こちらの言葉では、そういう名前だ」
「外国の方ね」
緑青はちょっとだけ可笑しそうに口の端を上げた。
なんか黒い。
全体的な雰囲気が黒い。
やだなー、俺みたいな平凡な一善良市民が敵いそうもないなー。
「どこの誰が善良市民だ」
「・・・・・・俺また口に出してた?」
こっちを振り返らずにアンミツは頷く。
目は警戒するように緑青を睨みつけ、片手は俺の行く手を遮るようにして伸ばされていた。
「あの子、というとリッカの事か」
「リッカ、ねえ・・・・・・」
緑青はそのまま、リッカの名前を数回口の中で転がした。
「君の家に居てもらったのは正解だったようだ。随分と感情が豊かになってきている」
「あのふざけた手紙を送ってきたのもアンタか」
「手紙? ――ああ、下僕賞当選の」
そうだよ、とまるで幼い頃に可愛がった甥でも見るような目でこちらを見つめる。
「基本的なデータは見させてもらった。一人身で、義侠心があり、何より情に厚い」
誉められても嬉しくないという体験を、俺は初めて味わっていた。
どうしてだろう。
この先に何か落とし穴があるような気がしてならない。
それはアンミツも同じだったらしい。
「個人情報保護法に違反している気がするが」
「それは知らなかったな」
煙に巻くような言い方に、アンミツの無表情が僅かに動く。
「無作為に行なった抽選なんだろ?」
「そう。抽選で偶然当選した君は厳選されたデータの中から当選だ。おめでとう!」
言葉遊びが気に入ったらしく、棒読み状態で祝福の言葉を述べてくれる。
「そりゃ、どーも」
ありがとよ。
「あ・・・・・・?」
緑青が懐に手を入れると、突然キインと空気が凍ったような気がした。
しかしそれも一瞬の事だった。
すぐにアンミツが俺の耳をふさいだからだ。
だからっ、そんなことする前に言え!
そして自分の耳をふさげ!




