No.10
「眠れないのか」
「・・・・・・いきなり話しかけるなよ。気配がなかったぞ、お前」
それはすまないな、と。
全く悪いと思っていない、いつもの無表情でアンミツは応じた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・何か喋らないのか?」
「――え、ごめん。お前何様? いやいや、どーせ常套句だよな。『俺様だー』とかいうんだろ。もういいよ、言われる前の杖だよ。っていうかさぁ・・・・・・」
「なんだ」
喋らないのときたから思いつくまま喋ってやったのに、一言で返しやがった。
「俺ってそんなに喋るイメージなのか、お前の中では」
「少なくとも、静かじゃない。だから、今は変だ」
変!
いやあ、アンタ。
面と向かって「変」て。
顔か、声か、DNAでしか解決できないようなレベルなのか。
身長とかいったら容赦しねえ! お前が規格外に高いだけだ!
思わずぽんぽんといつもなら言い返しそうな言葉は、今は出てこなかった。
なんだか調子が狂っている。
「そうなんだろうな。酔ったらしい」
「一日中か」
「そうかもな」
こういうヤツって苦手なんだよな。見てないようで見てるんだから。
なんだかんだで、深川も結構鋭いし。
何、俺って本当は分かりやすい奴なのか?
思わず考え込んで、今度は口に出していなかっただろうかとアンミツを伺ったが、当の本人は何も言わないので、どうやら聞いてはいなかったらしい。
「おい」
「ん? アンミツ、俺はお前に何度も言っていると思うんだが、人を呼ぶときに『おい』だけじゃあ社会生活において支障をきたすんじゃ」
「そんな事はどうでもいい」
「んなこと・・・・・・分かった。やっぱりお前とは相容れねえ」
「見ろ」
珍しく切羽詰ったように、アンミツの瞳が揺れていた。
ぐい、と無理やり視線を変えさせられる。
外だ。
月夜の晩。
それだけかと思っていた明るさは、どうやら違っていたらしい。
庭が、不自然に明るかった。




