1.出会い
かけられた声の主を探して振りあおぐと、16.7歳の貴公子然とした少年が風に金髪をなびかせながら、ゆったりとした微笑を浮かべていた。優しげな容貌は、妙齢の貴族の令嬢方が放っておかないだろうな、という感想を一目見て持ってしまった。
「はじめまして。わたしは、フィオレンティーナ・セリス・レンディア。レンディア公爵家のひとり娘です」
「レンディア公爵家の・・・そうか、君が『レンディアの癒し姫』なんだね。風の精霊たちがここに集まって楽しそうにはしゃいでるみたいだから、みにきたんだ。思った通り、可愛らしい姫だね」
「そんな二つ名があるのですか?はじめて聞きました。お褒めいただいて、ありがとう存じます」
そういうと、彼は有名な話だよ?と教えてくれた。パーティはもうはじまるのに、お母様はどこに行かれたのだろう?主賓に挨拶だろうか?いや、過保護なお母様のこと、私を探しているに違いない。そう考えて、呪文を唱えることに。
≪風の精霊・シルフ。我が探し物を当て、その居場所を教えよ≫
そうすると、さわやかな風がふき、お母様の居場所を教えてくれた。これは単一魔法といい、ひとつの魔法のみをもちいるものだ。本来は探し物をあてるだけなんだけど、場所までわかるように、私のアレンジが加えてある。
「お母様を見つけました。会場入口にいるようです。ごめんなさい、早くいかなくてはいけません」
「それでは、私と一緒に行きましょう。あなたの手をとることをお許しいただけますか、フィオレンティーナ嬢」
「はい、よろしくお願いします。すみません、お名をうかがっても構いませんか?名をおよびするのに、知らないのでは不便です」
「貴女自身が知りたいから、でないのが残念ですが。私の名前はシャルルです。覚えておいてください」
そういうと、シャルルさんはにっこりと、人当たりのよい笑顔をわたしに向けた。ああ、この素敵な笑顔にみなが瞬殺されるのね、とわたしは心の中で相槌をなんどもうった。だが、微笑みかけられて悪い気はしないので、わたしもにこ、とシャルルさんに微笑み返すのだった。
「フィオナちゃん!ママ、とっても探して・・・まあ!」
会場入り口までテレポートの魔法で移動すると、お母様がかけよってきて、心配げな顔を浮かべたかと思ったら、シャルルさんを見るなり目をぱちくり、としたあと暖かな表情にかわった。なんだ?
「シャルル殿下と一緒だったのね。ありがとうございました、殿下」
「いいえ。私がフィオレンティーナ嬢を誘ったのですから。このまま、彼女をパートナーとしてお連れすることをお許しいただけますか?」
「もちろん、娘が了承すれば構わないですわ。どうする?フィオナちゃん」
にこにこと笑みをたやさず会話する、お母様とシャルルさん、もとい、シャルル殿下。そんなこと、急に聞かれて応えられるわけがない―――――!!だけど、雰囲気からしてここはOKというべきところ。にこにこと笑ってわたしの反応をみられ続け、ついにわたしは心の中で白旗をあげ、
「わたしでよろしければ、よろしくお願いいたします」
と返事を返したのだった。
フィオナちゃん、にこにこ攻撃に弱いようです(笑)