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終.バーベキュー大会

明け方まで起きているとさすがに眠い。僕は気がつくと布団の中で寝かされていた。

そして隣には竹中杏里が寝ていた。


「うわぁ!」

 

僕がびっくりして叫ぶと杏里がまだ眠たそうにゆっくりと起き上がった。


「ふわぁぁ……何、どうしたの?」

「どうしたのじゃないですよ!何で同じ布団で寝てるんですか!てか何で下着っ!」


僕は焦りながらも、ばっちり白の下着姿を確認した所で、自分も裸では無かった事に安心した。

足元の方では源さんが転がっている。まだ寝ている様だった。


「飲むと暑くなるんだよ……こんな事でいちいち大声出さないでよね…………うぅ……頭痛い……」


そう言って杏里はまた僕の布団に、今度は独占して潜った。

昨日僕が寝る前にも散々飲み散らかしていた。その残骸が布団の周りに転がっている。

僕は眠たい頭を揺すり起こすと、昨日のゴミ回収を始めた。

源さんを踏みつけないように空き缶やら、菓子袋やらを押収する。

呆れたものだ。僕が寝てしまった後にもこんなに二人で食い散らかしていたのか。


「全く……人の部屋だって言うのにこの人達は……」


幸せそうに眠る源さんの顔を睨めつけながら一人部屋を掃除していった。

気がつけばもうお昼だ。どうりで明るいわけだと、今更に感じながら窓を開ける。

庭の中央には太陽の熱をたっぷり浴びた、そのままでも肉が焼けそうな大きな鉄板がブロック石の上で寝そべっていた。

ついに今夜かぁ。僕は少し空腹を感じ始めたお腹を摩りながら、今日の晩まで何も食べないでおこうと決めた。






午後6時10分前。

僕はラフな格好で一通り戸締りを確認すると、冷蔵庫の中から先程届いたばかりのカニを取り出した。

先週母親に電話してこの日に間に合うようにと手配してもらった物だ。

バーベキューで焼けそうな食材で何か送って欲しいとお願いした所、何とズワイガニが送られてきた始末。

家がそれ程裕福ではなかった筈なのだが、これは一体どういう風の吹き回しだろう。

とにかくみんなびっくりするだろうなぁ。僕は特に管理人さんが喜ぶ姿を思い描きながら、一人発泡スチロールを抱えて裏庭へ出た。裏庭には既に管理人さんと岡島隼人に………久しぶりに姿を現した畑中曜子、沼地源蔵が居る。

竹中杏里以外全員そろっているようだった。


「お、今夜の主食の登場だな!」

「やだなぁ隼人さん。それを言うなら主役ですよ」


僕は隼人のジョークに突っ込みながら庭の中央へ来た。6時とはいえどもこの時期は薄明るい。

僕が辺りを見回すと、鉄板だけが中央に構えているだけで、食材らしき物が全然見当たらない。

これからみんなで調達でもしようというわけか。


「管理人さん、バーベキューの食材が何も無いようですけど……これからみなさんで買いに行くんですか?」

「ふふ。何言ってるのよ村越君。食材ならここにあるじゃない」

「え……?」


管理人さんの素敵な笑顔を見た瞬間に、僕は何者かに背後から口元を覆われた。

世界が一瞬にして歪み、コマ送りに動き始める。

なんだ?まるでドラマで見たことあるような…………?






「う…………」


眩しい。瞼をゆっくり開けると無数の光が飛び込んできた。

何だろう……まるで手術室のライトのようだ。辺りを見渡そうと身体を起こそうとするが、起きない。

手足が何かで固定されているようだ。


「あら、おはよう村越君」


管理人さんが僕の様子に気がついてこちらに近づいてきた。

白い白衣を着ている。どうしてだろう。頭が酷く痛い。


「ふふ、自分の状況が理解出来ないって顔しているわね。全く……最高だわ!」

 

管理人さんが高らかに大声で笑う。何が可笑しいんだろう。

僕は、この酷い頭痛は一体どうしたって言うのだろう。


「おや?起きたかね水木君。では早速始めるとするかい?」


見たこともないおじさんが僕の側に立った。この人も白衣を着ている…………何が始まるって?


「まだよ先生。最後だから全部村越君に説明したいわ。みんな、目を覚ましたわよー」


奥の扉から、ここに住む住人達が出てきた。みんなごぞって僕を囲む。

嬉しそうに。何が嬉しいのだろう。みんなどうしちゃったのだろう。


「これから全て話すわ。しっかり聞いてちょうだいね」


管理人さんが僕を覗き込んで言う。背中が冷たい。僕は裸のようだ。

どう考えてもこの状況は異常だ。怖い。話なんてどうでもいい。

早くここから逃げなくては。早く手足を解かなくては。


僕が懇親の力を振り絞って手足をばたつかせると、何故か皆クスクスと笑う。

こいつらおかしい。変だ。みないつもの様子と違う!


「無駄だよ。君はこれから僕たちの一部になるのさ」


舌舐めずりをしながら岡島隼人が言った。

一部?どういう事だ?これからこの人達は何をしようとしているのだ。


「村越君は私達のスペアなのよ。そろそろ交換時期だしね」


畑中曜子がそう言いながらマスクを外す。すると変色して腐っているような鼻が姿を表した。

とても嫌な臭いがする。何で?この人達に何が起こったって言うの?


「お前には申し訳ないけどここで死んでもらう。そういう運命だったのさ」


源さん……昨日三人で打ち解け合った仲じゃないか。どうしてこいつらの味方を?


「村越君はね、ここにいる住人のドナーとしてここに来たわけ。わかった?」


管理人さんが髪を掻き上げる。すると変色した耳が現れた。

凄く膿んでいる感じだ。ドナー?どういう事?


「ふふ。ここの住人は元々機能が欠けていたのよ。私は聴覚。岡島君は味覚だったし、曜子ちゃんは……昔に酷い虐待を受けて鼻を失ったわ。源さんは大事故で両腕切断。ここには居ないけど杏里ちゃんも生まれつき盲目だしね。……だからみんなで失った機能をスペアで補う事にしたのよ。それが今回は村越君なわけ。わかった?」


そんなに一辺に話をされても今の僕には理解出来ない。したくない。

嫌な汗がいっぱい出てくる。寒くもないのに震えが止まらない。


「でも所詮は他人の身体だから、毎年誰かと交換しないとだんだん合わなくなってくるのよねぇ。薬である程度は伸ばしてみてるけどさぁ」


耳を掻きむしりながら管理人さんが言った。歯が震えて言葉がうまく出せない。

怖い。誰か助けて。

源さんを見つめても只々冷たい目で僕を見据えるだけだった。


「今年は上手く人材が手に入ったけど、去年はなかなか見つからなくてねぇ。しょうがないからうちの旦那で補う事にしたのよ。でも年経ってると駄目ね。今までの中で最悪だったわ。ごめんねみんな」

 

管理人さんがそう言うとみな口々にそんな事ないですよとかフォーローの言葉が飛び交う。

あの写真の男は病気で死んだのではなかったのか。ここにいるみんなに殺されたのか。

そして僕も写真の男と同じ運命をたどろうとしているのか。……どうしてだ。どうして僕が選ばれた。


「何で……僕……が……」

「あら、まだ口はきけたみたいね。それは私達が買ったからよ。君の両親から」

 

買った……?何を言っているんだこの人は。僕はこの近くの大学に通うために田舎から上京してきた。

僕の意思でここに来たのだ。


「ふふ、何か言いたそうな顔ね。この際だから教えてあげるわ。君の両親は借金をしてたのよ。私が仲介業者を通して息子さんの買取の話を持ちかけたら両親、泣いて喜んでたわ」

 

嘘だ……。そんな事があるはずない。僕がここへ来る時だって死ぬ程心配してくれた。

あれが全部嘘だって言うのか。


「嘘……だ……そんなの……」

「ふふ。だったら最後に両親の声でも聞いてみる?今晩移植する話はあちらにも伝えてあったから、多分家に居るでしょう」


つかつかと電話の子機を僕の所まで持って来ると、手帳を見ながら何処かにかけて話始めた。

しばらくして僕の耳元に子機が押し付けられる。


『隆ちゃん……本当にごめんなさい……ごめんなさい…………』


懐かしい声だ。確かに僕のお母さんの声だった。泣いている。


『ごめんねごめんね………………ひっく…………………っありがとう』


ツーツーと虚しく電話の回線が切れた。僕は未だ受け止められない現実に涙がでた。

そしてそれだけは少し温かかった。


「大体君の頭でこんな所の大学に受かるわけ無いじゃない。全部こちらが用意した舞台よ。どう?たった1ヶ月だったけど思う存分楽しんでいただけたかしら?」

 

こんなの納得出来ない。出来るはずがない。

僕がここへ来たのは親の借金の宛で、ここの人達に買われたから?じゃあ僕の気持ちはどうなる。

こんなのみんな勝手な都合じゃないか。僕の気持ちなんて一切無視じゃないか。


「ここの住人はみな優しかったでしょ?まぁ当たり前なんだけどね。でも村越君は本当にいい子だったわ。私がもう少し若ければ恋人にしたかったくらいよ」

 

冷たい細い手で僕の頬を撫でた。誰かこの現実を夢だと言ってくれ。

夢なら早く覚めてくれ。


「だから今年もバーベキューをしようと思ったのよ。去年は供養も兼ねて旦那をさばいて焼いてみたんだけどね……これが意外と美味しくって!村越君はかなり若いから今から凄く楽しみなのよ。ねぇ、みんな」

 

岡島隼人と畑中曜子は賛成するように頷く。ただ源さんだけが微動だにしなかった。


「亡骸はちゃんと埋めてあげるからね。サリーの下にいる旦那の隣に」


ああ。もうよしてくれ。もう何も聞きたくない。もう何も考えたくない。

 

僕は虚ろな目で宙を仰いだ。目の前のライトが涙で霞む。

僕はこんな所でこの人達に殺されるのか。写真の中の男もこうして殺されたのか。


「最後に村越君、何か質問とかある?言いたいこととかもあったりする?」


満面の笑みで管理人さんは僕を見下ろす。僕はカラカラに乾いた口で必死に訴えようとした。


「…………の」

「ん?」

「僕の……気持ち…………は……?」

「気持ち?……ああ、私の事が好きだったみたいね。安心して。私も村越君の事大好きだから。だから今度は私の耳となって一緒にいるの。完璧になるの。そしてそれは凄く素晴らしい事だと思わない?」

 

手を叩いてまるで子供のようにはしゃぐ。

僕はこんな人を好きになっていたのか。こんな悪魔を好きになっていたのか。


「聞くところによると村越君はかなり感覚能力の高い人間みたいね。遠くの文字が読めたり、沸騰音に気づいたり、食べただけで調味料が分かったり…………。なのにそれを上手く使いもせずに……勿体無い!そんなの宝の持ち腐れだわ。私達ならもっと上手に使えるのに!」


皆が口々に何かを言ってきたが、もう僕の耳には届かなかった。届く必要がなかった。

すぐ隣で白衣の男がもういいだろうと呟いた。さっさと始めようと指示をする。


「じゃあね、村越君。短い間だったけど楽しかったわ。ありがとう。私は耳を貰ってくわね」

「僕は舌を。よかったな、まだカッコいいお兄さんが貰い手で」

「私は鼻を。今度こそ大事にしてあげるからね」

「俺は腕を。……すまんな、許してくれ。俺の居場所には必要なんだ……」


嫌だ。死にたくない。死にたくない。誰か助けてよ。お父さん。お母さん。

ねぇ、僕何か悪いことでもしたの?だから僕は売られたの?ねぇ、どうして。

どうして誰も僕の意見を聞いてくれないの?ねぇ、どうして。嫌だ。怖いよ。

まだ死にたくないよ。お父さん。お母さん……。






部屋の外でぼーっとつっ立っていると、誰かが階段を登ってくる音が聞こえた。


「杏里……お前ずっとこんな所にいたのか?」

 

源さんの声だ。杏里は振り向きもせずに聞いた。


「村越は?」

「ああ。ここにいるよ。また馴染ませるのには時間がかかるがな」

 

そう言って杏里に包帯でがっちりと固定された腕を掴ませた。

やっぱりあんたもいなくなっちゃったんだね。正直寂しいよ。


「バーベキューはもう始まってるの?」

「いや……みんなが移植し終わるのも時間かかるし、解体作業もあるからな……早くても明後日ぐらいだろう」

「へぇ。せっかくいい腕貰ったんだから、お礼にかじるくらいしてきたらどう?」

「いやいや遠慮しておくよ。肉はどうも食べる気がしない。また気絶しそうだしな」


源さんは笑って答えた。村越がいなくなったというのに、変な感じ。


「杏里は交換しなくていいのか?もう見えてないんだろう?」

「いいのよ。まだ見えてるから」


杏里はサングラスを外すと黒い、真っ直ぐな瞳で源さんの顔を見た。……ついでに腕も。


「やっぱり見えてたのか。ならどうしてみんなに嘘をついたんだ」


すぐにサングラスをかけ直すと遠くを見つめる。


「ふん……あの女の顔を見たくなかったからよ。初めて見た光景が地獄よりも恐ろしい光景だったもの」

「地獄よりも……か。まあ俺達のしている事は人道から外れてるしな。閻魔大王もびっくりって所か」

「…………。まぁ源さんの顔が見れたことには感謝かな。意外とカッコよかったしね」


「はは、ありがとよ。それはそうと今朝のサービスはお前らしくなかったな。白だなんて。今時の若い娘はもっと派手だろう」

「サービス?……ああ、下着姿の事?だって白が男には一番くるんでしょ?」


「ははっ、全くいい最後のからかいだったよ。また一人お前の遊び相手がいなくなっちまって…………あの小僧性格も良かったし、身体も完璧だったのにな」

「そう?私はそれなりだと思うわ。彼にはそう……第6感……虫の知らせが無かったのよね」





終。

いかかでしたでしょうか。この作品は初めて書き上げた処女作なので、いろいろと恥ずかしい点、矛盾している点、読みにくい所が多々あったと思います。設定も無理矢理な所があって……^^;話を書くのは大変難しいですね(泣)ホラーというジャンル自体が微妙になってしまいましたが……それでも最後まで目を通して頂きありがとうございました。


それ程長い話にするつもりは無かったので、ここで終わりにしようと思います。

私のあとがきも、これで終りにしようと思います。ありがとうございました。

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