賑やかな女の子達
土曜日の午前中、車掌は忙しい時間が終わり、ゆったりと電算に揺られていた。
ここからは穏やかな日光とともに、リラックスできる時間帯で、乗ってくる客も少なかった。
もう外を見れば、稲穂が黄金色をしており、1早く新米が食べたいなと考えていると、キャキャと明るい声が聞こえてくる。
ーん? 何だろう?
車掌ひ不思議に思い、近づくと、ボールが転がってくる。それは野球のボールよりも大きく、車掌は優しく受け取ると、人の気配がする。
「ーすみません!!」
若い娘だった。
年は10代後半くらいだろうか。
制服姿で、スカートが短く、いい脚をしているなど感心する。
若さが眩しく、目を細めると、ボールを差し出す。
「これ、君の?」
「そうです!! 手で持って遊んでいたら、転がっちゃって…。ごめんなさい」
「いや、いいけれど…。これ、何のポール?」
「ソフトポールです。これから学校に行って、練習しようと思って」
「練習…。なるほど」
キャキャとまた声がしたので、そちらを見れば、3人組が遊んでいるようだった。
皆、ジャージでも入っているのか、大きなバッグを持っており、仲が良さそうだなと感想をもつ。
ー10代の頃は学校が遊び場みたいなものだからな。
懐かしさを覚え、車掌はボールを取りに来た女の子に渡す。
「大事にしなよ。あと練習、頑張って」
「はい!! ありがとうございます!!」
女の子はぺこりと頭を下げると、仲間のところに戻ろうとして、振り返ってくる。
「車掌さん」
「何かな?」
「良かったら、あたし達と会話をしませんか?」
「は? 俺が君達と…? 何で?」
そう言いつつ、実は女子高生と話がしたいと思っていた。
下心があるのは嫌悪する人もいるかもしれないが、滅多に会えないので、加わりたかった。
「駄目ですか?」
「いや、少しだけなら話をしてみたい」
「本当ですか!! やったあ!!」
女の子は跳ねて喜ぶと、仲間のところに小走りに行く。
「あのね、あのね」
皆が車掌に目を向けてくる。
車掌は照れくさそうに「う」と思う。
しかし次の瞬間には、「車掌さん、車掌さん!!」と呼ばれ、手招きされる。
ー10代は怖いものがないからな。
自分は今、20代だが、社会に出て色々と揉まれ、純粋な明るさをもっていなかった。
たがら猫に懐く猫みたいに、ふらりと女の子達の前に行く。
「どうも。それで何を話せばいいのかな?」
「はーい!! 彼女はいるんですか?」
「ちよ、ちょっと、性急過ぎるわよ。失礼でしょ」
「そう? 1番、気になるじゃん。聞きたいでーす!!」
「彼女は…その、今はいないけど」
数ヶ月前に、辛い別れをしており、思い出したくなかったのだが、嘘をつくつもりはなかった。
1人になって淋しかったが、彼女達の明るさに救われ、逆に聞いてみる。
「君達は彼氏いるの?」
「はーい。います!!」
「馬鹿!! こういう時はいないって言うの!!」
「えー。あ、そうか。車掌さんに失礼だもんね」
「そうそう。あたしはフリーです」
「私も」
4人の目が一気に車掌に襲いかかってきて、心をえぐられるような傷みを感じる。
しかし、不快ではなく、この頃の恋愛って言ったら…と思い出そうとする。
ー初恋の人とか、その、初めて身体を求めるとか、そんな時期だもんな。
異性を強く意識する時期で、車掌も淡い記憶に浸る。
「彼氏は大事にしなよ」
「はーい!! 1番、大事です!!」
あははと明るい笑いは、その場の皆を引きずり、笑顔が浮かぶ。
「練習試合とかあるの?」
話を変えてみると、女の子達が一斉にうなずく。
「近々、他校の人達が来る予定です」
「そう。それは楽しみだね。一般人も見に行けるの?」
「え…。どうだろう? どう、皆」
1人が聞くと、皆、首を傾げたりするが、車掌はチャンスとばかりにスマホを取り出す。
「君達、面白い娘だから、連絡先を交換しないか?」
「え、連絡先…。どうする?」
4人は顔を見合わせたが、すぐにポールを拾った子がスマホを取り出す。
「はい、これがアドレスです。あたしのだけでいいですか?」
「もちろん。えっと…」
車掌がスマホを操作し、互いに連絡先を交換する。
「たまには連絡してもいいかな?」
「いいですよ!! もちろん!! ね、皆?」
「うん。車掌さん、真面目そうな人だし…。私達も交換する」
「ありがとう。じゃあ、えっと…」
「あたしも!!」
結局、4人全員とアドレスを交換することになり、車掌はほくほくと満足だった。
「何か聞きたいことがあったら、すぐに連絡してくれ」
「分かりました!! やった、すごい人とアドレスを交換しちゃったよ」
「すごいね、やった!!」
「進路のこととか相談してもいいですか?」
「いいよ。何でも。これでも君達の先輩だから」
胸を張って応えると、車掌はスマホをしまい、4人組に言う。
「じゃあ、俺は仕事に戻るから。練習、頑張って」
「はーい!!」
4人は声を合わせると、手を振ってくる。
それに応えると、車掌はその場を離れる。
しかし早くではなく、なるべく彼女達の声が聞こえるように、ゆっくりと歩いて行く。
ーやった!! 女子高生と知り合いになれた!! まだひねくれたりしていないから、お付き合いになりたいな。
ふふと1人で笑うと、車掌は真顔になり、歩き出したのだった。




