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風の螺旋

掲載日:2026/05/09

「大地のうたこそ響け」


もしも神がいるのなら

こどもは死なずにすむだろう

もしも神がいるのなら

信じぬひとをも救うだろう

もしも神がいるのなら

あらゆる悲惨をなくすだろう


みんな懸命とひとが言う

いずれ破局とひとが言う

時が解決するさとひとが言う

変わらない人が悪いとひとが言う


どんな神がいようとも

こんなにひとがあふれても

あらん限りに大地は生きる


大地のうたこそ響け

認められなかった哀しみのうた

癒されなかったいのちのうた

次々と生まれくる希望のうた




「水まき」


水をまく水をまく

栓をいっぱいひねって水をまく

サアサアサアと水をまく

シュウシュウシュウと水をまく

ゴオゴオゴオと水をまく

梅の実が目を丸くするほど水をまく

木々がハッとするほど水をまく

草がドッキリするほど水をまく

セミの子どもよ目を覚ませ、パンジーよ立ちあがれ

水滴のちいさな流星うち上げて、

水滴のダイアサファイアばらまいて、

水滴のひとつひとつに太陽をのせて、

この庭に虹を掛けながら水をまくびしょ濡れのぼく。




「黄色い夜」


排ガスに舞う鳩の羽 ライトに射抜かれ

狙うガラスの破片 ギラリと行きずり

踏まれ踏まれたガム 黒く鈍く

怒涛の雑踏 足足足顔顔顔

山積み自転車 影に猫

ペンキの剥がれた古い看板 めくれめくれ錆びて錆びて

酔ッパライの蛇行 どろり

引きずられたゴミ箱 腐臭を撒き

歩道わきの汚水 ふやけた吸殻 死に 浮かぶ



三日月。




「ふせるひと」


日々浅く流れ いよいよ心重く

何も出来ないと知った驚きで

俺に欺かれている

もし俺が俺ならば

どんなに俺を信じられ

どんなに街が色に満ちることだろう

どんなに声を肌で聴けることだろう


毎日決まって

冷ややかな永久を横たえている布団で

今日もまた覚め

そのまま動かず

その時を待つ




「うまれかわる きみ」


まあたらしい ひかりのしずく

すずやかに うたうかぜ

ゆるやかにつむぐ てんじょうのがくおん

ようせいたちのみまもる にじのらせん

むつみあうしずけさが きよくととのえた

あさに

 

   きみは

   にじであまれた ゆりかごにゆられ

   まいにちうまれかわることを ゆるされた

   ひとりの あかご

 

きずつきかなしむ きみの

ほんとうのすがたは

ぜつぼうからきぼうをうみだす

だいちのちから

 

あるひ きみはみとめられ

きんのふちどりのまっしろなはたを てんにかざす

そして きみがきみをみとめるとき

まあたらしいだいちに さっそうとはたはたてられる

むつみあうしずけさが きよくととのえた

あさに

  

   きみは

   にじであまれた ゆりかごにゆられ

   そのときまでうまれかわることを ゆるされた

   ひとりの あかご

   こころ いやされるまで

   こころ みたされるまで




「生まれかわる きみ」


真新しい光のしずく

涼やかに歌うかぜ

緩やかに紡ぐ天上の楽音

妖精達の見まもる虹のらせん

睦みあう静けさが清く整えた

朝に


   きみは

   虹で編まれた揺りかごにゆられ

   毎日 生まれかわることを許された

   ひとりの赤子


傷つき哀しむきみの本当の姿は

絶望から希望を生みだす

大地のちから


ある日きみは認められ

金の縁取りの真っ白な旗を天にかざす

そしてきみがきみを認める時

新しい大地に颯爽と旗は立てられる

睦みあう静けさが清く整えた

朝に


   きみは

   虹で編まれた揺りかごにゆられ

   その時まで 毎日生まれかわることを許された

   ひとりの赤子

   こころ 癒されるまで

   こころ 満たされるまで




「岩となって」


蕾は見えぬ早さで開いてゆき

蜂はいつまでも気ぜわしく羽ばたき続けている


傾いだ梅の枝をがっしりと支える 色褪せ苔むした太い丸太

仰ぎ見る木々は高く 一日一々と広く強く枝を張り

緑一面 仰ぐその先には

明日

と だけ書かれて

己の時を持つものたち

時の隙間を持たぬものたちへの

どこにも繋がる術を知らぬ私に

意識の硬さだけが残され

庭の隅に置かれているのを 見る

岩となって




「秤」


おれが今まで奪ったもの

おれが今まで奪われたもの

揺れてる秤に指を載せ

がたん、と 奪ったことにする

 

慈悲のたった一つもないことの無慈悲さよ

おれという巻紙を真っ黒に染めて染め上げたら

天の火で勢い良く燃やせ

焔は空を衝き 風よ巻き上がれ

灰は舞い落ち 大地に溶けろ

 

聞こえるか

彼方に

おれの心からの

笑い声



「299,792km/secの決定事項」


好きでも嫌いでもよくあるイノチのやり取りが飽きもせずに繰り返し反射して分光して拡散して、机上に放り出された実感の乾燥した考察集に淡く写り込んでいる。

 

沈黙の連続関数やヒステリックな不連続関数は一様に忙しい様子だが、ほのかな親しみを持っているかの様な表情を時折見せ、緑の芝生の向こうで時々おずおずと旗を上げている。

 

記録にないほどの太古に異才の建築家と稀代の石工達によって建てられながらも、完成直後に総意で封印され忘れ去られた聖堂では、飛び交う素粒子と増殖する振り子でいつでも喧しい。

 

売り場で魚の切り身が勢いよく死に並び、火の通った照り色の鶏も丸々とよく死に焼けて、捩れたラップにテカる色温度の幸せが虹に両替されて、安っぽくも煌びやかな盆踊りをしている。

 

対象に真に色彩を覚えない機能不全の私でも、きみがほんとうの色彩を際立たせてそこに立っているのを見る事はできる。私が捉えた事共がきみの瞳に写り込まないように、決して、きみの目は見ない。




「前略、無職。」


次々と見つかる一円玉と五円玉は

どこへ仕舞えば良いのやら


制服やスーツばかりが目に入る

見れば見るほど大勢湧いて来て

めったやたらと歩いてる 歩いてる

歩いてるなあ


十円の本を探す無職生活者は

どこに座って良いのやら


固有名詞も形容詞もどっかに落とした

たぶん、

気付かずに押し込んでしまった引き出しの奥とか


そこにまた、一円玉が見つかるのかい?




「壮年閑話」


地面を穿つ

ツルハシと汗に昭和があった

空中を飛ぶ

2.4GHzや5GHzの混雑に現代がある

最近、土を見てない


     +


路面電車と石畳

板張り住宅と玄関先の鉢植えの数々...

店先で型の古い洋式電燈を撮った時

くもりガラスの向こうから ばあちゃんの

「いらっしゃい」の声が聞こえた


     +


時は令和六年

僕はと言えば

オンボロ中古の昭和世代

時の最先で垣間見えるのは

いつも落胆という短絡


     +


金まみれにならないヒーロー

そんな者はいない

昔はいたんだ確かに

テレビの画面いっぱいに映って

リアルに活躍してると思ってた


     +


繰言を言っても

自分はなれなかった

あるいはなれたのか 何かに

超高層ビルを見上げるたび

これは一体何だろう、

うまく思い出せない




「律動」


不器用でも何でも

帰結から立ち上る因果が揺らいで集まって

ときどき意味あり気な表情を見せているだけだった

じっと見ていると

消えかけては濃くなり逆巻いて

ただ

時の流れを示すあり様そのものだった

 

どうやっても一人もがくしかないのだった

もがかずにいても気付けばもがいているのだった

凸凹に躓いて転がって暴れている

もがくことをひたすら止めることのない

ぶざまな一個の生き物なのだった

 

ただ生きようとしていてかたちはない

ただ生きようとしていて、

かたちはない。

かたちは、

かたちは、与えられたのでなく

与えていたのだった

 

遡及した意味と無意味の海でまた溺れかけた

ヒトであるがゆえにまた囚われた

崩れたものは始めからなかったのか

去った人たちは最初からいなかったのか

でもいっ時は幻のように存在していた?

いや、

在っても無くても

今は無い

それだけのことだ

 

逃れることも浸るきることもできない錯視にわざと嵌り込んで

らしさを得るためにわざとらしく物知り顔で繰り返しているのだ

おまえは。

やっと生きているとも言えない程度のいつもの薄い癖なのだ

おまえの。

そして

そこから動き出すこともできずに終わる

世界のどこにも残らず最後を迎える

打ち砕かれて消える

忌避され遠ざけられ

救いなく

 

そうだ

そうかも知れない

そうなるのかも知れない

そうなったとしても

 

だから何だ。

それでもいい。

それでもいいと言える。

 

もがくから何かを得る

得るためにもがいているのではない

もがきたいからもがいている

そこに意味付ける余地はない。

自分も家族も他人も社会も国家も関係ない。

過去も未来も現在も、

感情も思考も感覚も、

強さも弱さも、

希望も絶望も、

幸福も不幸も、

勇敢も逡巡も、

先憂も後悔も、

あらゆるものから切り離されたとしても、

足す言葉はない。

引く言葉もない。

おれは

ただの

一個の律動だ。

おれは

一個の律動だ。

おれは

たったひとつの律動

そのものだ。




「彼方を翔る」


それぞれの生き方や想い

全部混ぜたら一体何色に

改行で未来は現在へと次々に開かれ

日々の現実に言葉が蟻のように群れ連なり

どこまでも果てがない

果てがない。


日々の喧騒が突然に意味すら持たないその時

彼方を鮮烈に翔けてゆく何か

それを見聞きしてきた年老いた船乗りを

訪ねてみるといい


何が間違いだったのか。

間違いはなかった、すれ違いも、誤解も

必然と偶然がばらまかれた地面に

様々な草花や木が育ってゆくその様子を

ただ見守っていなさい

そう言うかも知れない

 

墓石はいつまでもただ空の蒼さを映している。


それでも

その碑を高く巡る鳥は舞い降り

想いをきっと届けるから

生者の涙が大地に溢れ落ちても

やがて悲しみや悔いが散らばった地面にさえ

様々な草花や木が育ってゆくその様子を

ただ穏やかに見守っていなさい

と。




「風の螺旋」


ゆくえ知らずの想い出は

置きっぱなしの古手紙

遠い記憶の最果てに

渦巻き霞むひとを追う


   昨日、空を見ましたか

   どんな雲を見ましたか

      思い出せるといいですね

         色やかたちや光のかげん

         色やかたちや光のかげん...



忘却された想い出は

波間にゆれるガラス瓶

朝日を抱いて安らぎつ

星の光にきらめきつ


   昨日、空を見ましたか

   どんな月を見ましたか

      思い出せるといいですね

         色やかたちや光のかげん

         色やかたちや光のかげん...




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