第6項 広がる波紋
タディの報告とリズの予想を裏付けるかのように、戦争は激しさを増していった。
「お、お願いします!やめてください!それは、この村の最後の食料で...」
「五月蝿え!!こっちだって好きで盗賊やってねえんだ!食い物がねえのは、自分たちだけだなんて思うなよ!!」
「いいかよく聞いてくれ。町長のおやっさんに聞いたんじゃが、この町はあと数週間で帝国軍の奴らの戦線になるそうじゃ。そうなる前に、儂とこの町を離れてギンダティア公国の国都に逃げよう。もうほかの皆も準備を始めとる」
老輩の女性は咳き込みながら、悲しそうに頭を振る。ゼーゼーとのどが鳴った。
「ねえ貴方。私はもう体が弱りすぎて動けないから、貴方だけでも避難して頂戴。」
大陸内には盗賊が増え、いつ終わるかも分からない激化する争いに、両国の民たちは限界を迎えていった。
中でも、攻め込まれ、追い詰められる公国はひどい有様だった。
街道は兵の屍と血に彩られ、親を失った子供が死体剥ぎをして暮らす。
泣き叫ぶだけでは生き延びられないことを彼らは知っていた。
そんな中、両国の最前線では、新たな開戦の狼煙が上がろうとしていた。
リズは高台から戦場を一望し、敵の観察を続けていた。冬の風が吹き抜け、彼女の短い髪を舞い上げた。
公国の兵たちが持つ武器に目を凝らす。
美しい装飾が施されつつも、機能的な最新鋭の武器。帝国では持ち得ない技術だ。
帝国の兵たちには質素で量産型の武器が配られる。
ただ、立派な武器を持った公国の兵たちは憔悴しきり、ふらふらと座り込みそうな者もいる。光沢のある武器と鎧をまといながらも、足並みのそろわない隊列。
貴族で戦争に関わっているのは、いいところ少将から上の地位にいる指揮官たちだ。
そして、今日も公国の都で白パンを食す貴族のお偉いさんたちはきっと、自分たちが出した資金で戦争は回っていると思っていることだろう。
だが
『そもそも、あの贅沢な武器や兵器は、〝誰〟が作っているものなのだか。』
犠牲無くして技術の進歩は生まれない。
リズは敵国に親近感を抱きつつ、そうして生まれた武器を自分達が民に与えていると主張する貴族達に、少し感心した。
リートニッヒはそれとは対照的に、前皇帝が没し即位したときから戦争の準備を進めてきた。平民だろうと意志や実力のあるものは兵に取り立て、貴族と変わらない教育を施した。
『疲れはあるが、士気は低くないな』
それが今朝自軍を見たリズの感想だった。
豊かな大地と、優れた技術力を持つギンダティア公国。なぜ、より小国の帝国に押されているのか、それは火を見るより明らかだった。
「そろそろ、私も出るとしようか。」
両軍の慟哭が混じり始めた頃、リズは単身で戦場の外周にある森に待機していた。
件のツアヴィの報告では、ここは敵の死角らしい。
「...にしては、随分と賑やかだな。」
振り返ったリズの視線の数百フィート先で、〝何か〟が反射しキラリと光る。
次の瞬間、それらはリズに向かって無数に放たれた。




