第4項 愚か者たち
報告が終わり、部屋を出ていこうとしたリズを皇帝が呼び止める。
「なあ、リズ。お前は、私のことをどう思ってる。まさか、命をかけて忠誠を誓う、敬愛すべき主君だとは思っていまい」
「ああ。思っていない。君は臆病者だし考えが甘すぎる。正直、国を統めるような器じゃない。戦争を起こすなんて以ての外だ。」
「そ、そうか...」
やはり、とつぶやいて皇帝は俯く。
「だが、私は君のことを侮るつもりはない。恐怖を感じない人間より、恐怖を抱えたうえで食いしばりながらも歩める人間のほうが、強いと思うからだ。」
そう言い放ったリズの眼は、何処か遠くを見ていた。
「それに」
「なんだ?」
「本気で気に食わなかったのなら、君の頸はとっくに飛んでいる。」
それだけ言うと、リズは扉の向こうに消えていった。
「本当に、恐ろしい女を勧誘してしまったものだ。」
リートニッヒは僅かにうつむき、苦笑するしかできなかった。
廊下を歩いていたリズはふと足を止める。
「タディ」
リズの視線の先には、金髪の無頼漢がいた。
大斧を背負い、リズに向かって手を挙げる。
「どうだった?任務は」
「無事終わった。私が生きてるの、見えているだろう。」
タディと呼ばれた男は、どこまでも無表情なリズに苦笑をこぼす。
「任務は成功か死かってか?相変わらず堅ってえなあお前。」
リズは静かに首を振った。
「君は緊張感が無さすぎる。隙を見せれば足元を掬われるぞ」
「オイオイ、なんだよ。心配してくれてんのか?俺たちの妹分も、意外と可愛いとこあんじゃないの。」
「心配じゃない。忠告だ。死にたくなければ、素直に聞いておく事を勧めるが」
瞬間、無頼漢の翠眼から光が消える。ギリ、と歯の軋む音がした。
「死にたくなければ、ね。俺だって昔は死にたかったさ。鼻が曲がりそうな臭いのする貧民街で、泥水啜ってさ。」
感情を殺すかのようにぼやくが、リズは彼の額に青筋が浮かぶのを見逃さなかった。
「俺のことゴミみてえな扱いをする貴族連中も、タデリアっつう女みたいな名前も大嫌いだったね。
俺の為に泣いてくれたのなんざ、あとにも先にもリートニッヒだけだ。
だが、それでいいさ。俺には、お前らがいれば十分だ。」
そこでやっと、タディはニッと笑ってみせた。
リズもそんな彼に同意するように頷く。
「そうだな。こんな物好きは、三人で十分だ。」
「ちげえねえ。はっはっはっ。...なあリズ。何かあれば俺らに言えよ。これでも心配してんだ。」
そう言ったタディの瞳は、真っ直ぐにリズを見ていた。
「気が向けばな」
そんな事を知ってか知らずか、リズは歩みを進めた。




