第3項 光と影
リズが帝国軍の本陣に帰還したのは、それから数日後のことだった。
「ご苦労だったな。また、お前に汚れ役をさせてしまった。」
戻るなり、皇帝はリズを執務室に呼び出した。
「それが、私の仕事だから。」
リズは顔を曇らせ頭を下げる皇帝とは対照的に、ただ淡々と事実を述べる。
「...お前は昔から変わらないな。成果の方は?」
「ジョン大佐、セロ大佐、ローデンヘイズ大佐、イズ大佐、ハイター少将。5人の暗殺に成功した。最後の一人は、さすがに警戒されすぎていて危険だと判断したから、偵察のみできり上げて来た。」
「そうか。流石だ。公国の兵たちには申し訳ないが、これが戦争だ。搦手なしで勝てるほど、私達は驕っていない。戦争が早く終結すれば、結果的に犠牲も減るはずだ。」
まるで自分に言い聞かせるように、皇帝はそう言った。
『戦争を始めた張本人が、いったい何を言っているのだか。』
リズは小さく息をつく。
犠牲を痛ましく思うくらいなら、始めから挙兵などしなければ良かったものを。
だが、そうは世の中は上手くいかないのもリズは知っている。
だから、その理不尽に抗うため皇帝ーリズの昔馴染みであるリートニッヒは挙兵したのだった。
思えば、昔から彼は優しかった。
初めて顔を合わせたのは10歳の頃、捨て子だったリズが暗殺者として育てられ、依頼を受け単身で宮城に忍び込んだ時だ。
「そうか。お前は私を殺しに来たんだな。確かに、私を殺すのもいい。だが、私と共に君がそうすることでしか生きられないこの世を変えてみないか」
ナイフを突きつけられながら、彼は声を震わせて言った。
彼は平民が平民であるが故に、生まれた瞬間から道を制限され可能性を閉ざされるこの大陸の政治を憂いていた。
だからこそ、弱冠14でありながら、大陸を統一し、法を一新する大望を抱いていたのだ。
「ーー出す」
「?」
「私がその話に乗ったら、いくら出す」
なぜその時リズが取引に応じたのかは分からない。
ただ、血なまぐさい野望を無垢な眼で語るその姿に、自分には無い光を感じたのかもしれない。
「昔から変わらないのは君もだ。」
リズは呟いた。
そのつぶやきがリートニッヒの耳に入ることはなかった。




