後日談 花曇り
こちらの後日談は本編ではなく、番外編になります。
「ーーそして、ナウゾロフ帝国皇帝リートニッヒは、初代連合国皇帝となります。その後彼は、新旧帝国歴最大の名君として、あるいは暗君として名を残しました。」
眼鏡をかけた細身の女性ーミランダ先生が黒板に板書を書き込んでいく。
「ふわあ〜」
僕は先生に気づかれないよう、小さくあくびをした。
もうそろそろ終わりの時間だと思うんだけどな。
カンカーン カンカンカーンカーン
チャイムが鳴り、先生は持っていた本を閉じ手を叩いた。
「はい、今日はここまでです。しっかりと復習をしておいてくださいね」
「なー、キース。オレの話聞いてる?」
「もう何度もその話は聞いたよ。」
彼は僕の机に身を乗り出し、顔を赤らめて言った。
僕はポケットに手を入れ、曾祖父ちゃんにもらった首飾りを取り出した。
「オレ、やっぱりリートニッヒは最強だと思うんだよな!だって、今までになかった法の一大改革を一代でやってのけた天才だぜ!?」
「そうかもね」
空返事をしながら首飾りを顔の前に持ってきて、揺らしてみる。緋色に輝く菱形の首飾り。曾祖父ちゃんは幸運のお守りって言ってたけど、魔力の気配がしないどころか、ただの石ころでしょこれ。
「平民のオレたちがこうして学校に通えるのだって、リートニッヒのお陰だよな!
はーっ。マジでかっけえ...」
「確かにね」
そもそも曾祖父ちゃんは、結構胡散臭い人だった。あんなにふざけた人が、よく戦争を生き残れたものだと思う。
「その話、ここでしないでって言ったでしょ」
涼やかな声が聞こえて、僕と彼は後ろを振り返る。
「なんだよノリ悪い〜。ラナ、お前の曾祖父ちゃんの話だぞ!あれ、曾曾祖父ちゃんの話だっけ?」
首をひねる彼に彼女はため息をついて、長く艷やかな黒髪を揺らした。
「あの人のことは私、良く思っていないの。キース、貴方も話を聞く気がないのなら止めたっていいじゃない。」
「はは、ごめんごめん。」
彼女に軽く謝って、ふと気になった事を聞いてみる。
「なんで君って、そんなにリートニッヒが嫌いなの?」
彼女は、少し黙ってからゆっくり口を開く。
「嫌いじゃないわ。尊敬はしてるし、あの人が沢山の人の人生を変えたことも知ってる。」
「はあ??じゃあなんで」
「あの人が民に与えたのは、希望だけじゃないからよ。」
彼の問いに被せるように、彼女は吐き捨てた。
家に帰るなり、いきなり母さんに声をかけられた。
「お風呂、沸かしておいて頂戴。」
しかも家事。面倒くさいな。
でも母さんの使令は絶対なので、僕は仕方なく風呂釜に近づいた。
指先に火を灯し、ゆっくりと水の温度を上げていく。
『そう言えば、ラナは元公国の領地に行くときは必ず護衛を付けるって言ってたな。』
リートニッヒによる改革で、玉座には貴族だけでなく平民も座れるようになった。
身分を問わず同じ学校に通うし、友達として会話する。もう身分は名前だけで、その名前ももうすぐなくなっちゃうんじゃないかな。
とはいえやっぱり、初代連合国皇帝の血筋を気に入らない人たちもいるみたいだ。
『あの人が民に与えたのは、希望だけじゃない』
彼女が言っていたのは多分そういうことだろう。
未だそういう過激な考えがあるのは、皇帝リートニッヒが世を一人で変えたと思われてる風潮もあると思う。
「一人きりで生きてる人なんて、いるわけないのにね。曾祖父ちゃん」
今はもういない親戚に、僕は同意を求めた。
だって曾祖父ちゃんが教えてくれたんじゃないか。皇帝陛下には、タディ中将という絶対の信頼を置く剣があったんだって。
みんなそれを知らないだけなんだ。リートニッヒだって、一人の人間だったって。
「もったいないなあ」
僕は呟きながら、空いている方の手で首飾りを撫で回す。
首飾りは緋色の光を反射して、部屋を僅かに染め上げる。
風呂釜からブクブクと煮え立った音がして、僕は慌てて火を消した。
〝深淵の踊り子〟本編はここで一旦幕を閉じます。
キャラクターの設定資料や作品の主題歌の方も作成いたしましたので、興味のある方(特にFEファンの方)は目を通していただけると光栄です。
1/23の20:00までには全ての資料が投稿されてるかと。
ここまでの旅路にご一緒してくださった皆様
本当に、本当にありがとうございました!
またお会いできることを楽しみにしています。




