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第2項 リズ•ノクアイズ

その女、リズ•ノクアイズは殺し屋ではない。いや、正確には暗殺だけが仕事ではないと言うべきか。




旧帝国歴778年某日


時刻は日が傾き、空を橙色に染め始めた時。リズは敵国、ギンダティア公国の陣営に単身で忍び込んでいた。彼女は部下を持たず、単独行動が多かった。対人に難があるわけではない。ただ、一人のほうが彼女の強みを存分に生かせた、それだけだ。



ここ数日の事件によって、見張りの兵が増やされており細長い廊下には約70フィートごとに並んでいた。

リズは手前からその様子を覗き、壁に取り付けられた松明を手に取る。

一度建物の外へ出ると、懐から酒瓶を取り出して草むらにかけ、松明を投げつけた。

ボッ



「火事だ!!手の空いているものは消火に当たってくれ!」


そんな伝令が走り、辺りが騒々しくなっていくのを、女は物陰から見ていた。



誰もいなくなった廊下を音もなく歩く彼女は突然足を止める。


今朝リズが頭に叩き込んだ地図には、ターゲットまでの最短ルートが描かれている。間者からの情報ではここの食堂を通るのが最適のはずだ。

「人の声がする。」

彼女は足の向きを変えると、隣の倉庫へ入り、屋根裏へ潜る。目的地へ向かう途中で横目に見た食堂では、兵士たちの姿が見える。酒を酌み交わし、歓談に浸っていた。


一度中庭に出て、目的地である部屋を覗いてみる。

ターゲットの自室の窓前には、見張りが立っていた。この見張りを何とかしなければ、任務は成せない。リズはわずかに膨らんだ香しいポケットを見、次にチラリと今居る屋根裏の奥を見やる。そこからは二つの小さな目がじっとこちらを見つめていた。


ガサガサ


「!何事だ...?」


突然響いた雑音に見張りは音のする方向を探す。発音源と思われる壁の隙間をのぞき込むと、そこではネズミがチーズの欠片を食い漁っていた。


「気の所為...か」


壁の穴を覗き込む男の背後に忍び寄ったリズは、静かに、しかし鋭く短剣を振るった。


ドサッ



ターゲットの身体が体温を失っていくのを確認し、部屋から去ろうとした刹那、それはリズの目に入ってきた。ターゲットの首から下がるペンダントは無惨に割れており、中ではターゲットと女性、まだ幼い少年が屈託なく笑っていた。


リズは無意識のうちに目を細めていた。


「知っている」


ボソリと呟く。

知っている。彼らに愛する人がいることは。守るべきものがあることは。

だが

それでも


「変えなければならない、自分のために」


この業苦を、少しでも生き抜きやすくする為。



リズは静かに息を吐くと、夜の闇に飛び込んだ。

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