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第16項 吊るされた男

コンコン


「リズだ。タディもいる。」


扉を叩く音に、リートニッヒは身を震わせ寝台に体を起こす。窓からは柔らかい薫風が流れ込んでくる。


「ああ。入ってくれ。」


リートニッヒの声に、二人が姿を見せた。身長5.2フィートのリズと、6.3フィートのタディ。並んで入ってきたものだからあまりの身長差に親子のようにも見える。


痩せこけ濃い隈が目立つリートニッヒの顔に、僅かに笑みが溢れた。


「やあ、久しぶりだな。私の戦友。」


リートニッヒは震える口角を上げる。


「悪いな、自警団の方の仕事が思ったより多くてよ。間が空いちまった。」


タディは、先の戦の功績から初代連合国将軍に推薦されたが、辞退していた。



「俺はそんな大層な器じゃねえよ。城下町(ちっちゃなおやま)の大将で精一杯さ。」


それが彼の理屈だった。



「ふふ、道理でここしばらくまともに人と会話していないわけだ。...言っておくが、仕事はしているぞ?」


軽口を叩いたつもりのリートニッヒ。彼はタディの視線が、白い線が混じりつつある自らの黒髪に向けられていることに気づかない。


「私が顔を出さなかったのは、君の使いに行っていたからだ。おかげで〝自称お偉いさん〟たちの相手をするハメになった。書類の印を押すだけの仕事よりはましだがな。」


リズの冷たい視線と剃刀の様な言葉にリートニッヒは身をすくめるしかない。


「そのことはもう良いだろう。お前の大事を取るためだったんだ。」


リートニッヒの弁明にタディは手をパンと叩いた。


「そ、そうそう、そうだったぜ!憶えてるか?こいつに明確な後遺症がないと分かった時の医者の顔っつったら。」


「忘れてやれ」


リズの言葉に、タディとリートニッヒが体を揺らした。

例の(あの)演説から数カ月。リートニッヒは少しずつ笑い方を思い出していた。



「最近はどうも冷えるな。二人も、体調には気をつけるようにしてくれ。」


そろそろお開きにしようというところで、リートニッヒの言った言葉にタディは思わずリズを見た。リズは視線だけをタディに寄越す。確かに夏という程暖かくはないが、その片鱗は確かに見え始めている。はずなのだが。


リートニッヒの色褪せ、生気がない顔。

彼の感じている〝冷え〟とは、本当に気温のことであろうか。


「...ッ悪い、俺ちょっと風に当たってくるわ。」


タディは俯き目を伏せながら部屋を出ていく。


パタン


先ほどまで彼が立っていた足元では、二粒の水滴が絨毯を濡らしていた。

首を傾げるリートニッヒに、リズは静かに息を吐く。


「この宮殿の調理師は、随分腕が悪いようだな。」


彼女は眉をひそめて、それだけ言った。

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