第14項 電光石火
「リズ殿の事は、お気の毒でした。」
包帯を巻いた右腕を擦りながら彼が言った。
ツアヴィの言葉に、タディが眉を動かした。
彼は、残念そうに息を吐いて「でも僕も」と続ける。
「公国に付けば、命は助かると思っていました。
皇帝陛下は温い所がお有りでしたから、番犬が居なくなった隙を突けば暗殺可能なのでは、と。
ですが皇帝陛下の変貌ぶりに間者たちが尽く始末されて、それは叶いませんでした。彼に一体何があったのですか?」
親しいお前なら知っているだろう。ツアヴィはそう言いたげだった。
「リートニッヒは何も変わっちゃいねえよ。」
タディの返事ともとれない言葉に、ツアヴィは頭を振る。
「...しかし僕としたことが、此処で命運尽きた様ですね。〝災害の化身〟殿に出会ってしまうだなんて。」
タディは大きく鼻を鳴らし、大斧を上段で構えた。
「あいつらの命で食う飯は、美味いか?」
言うが早いか地面を蹴り上げ、35フィートはあったツアヴィとの距離を一瞬で縮める。そしてーーー
「ガハッ」
タディは、血を吐いた。全身には氷の矢が食い込み、パキパキと音を立てる。
彼が怯んだのを見るや否や、物陰に隠れていた魔導師達が一斉にタディを取り囲んだ。
ツアヴィは安堵の息を吐いて
「貴方は調査通りの人柄で安心しました。リズ殿がいれば、防げたかもしれませんが。」
地面に膝をつくタディを見下そうとする。しかし、そこに彼はいなかった。
「?」
直後、ツアヴィの顔に影が差す。不思議に思い、上を見ると
無頼漢が跳んでいた。
「なっ!?」
信じられなかった。ただでさえのあの巨体に、身長を超える大斧。大凡人間の脚力ではないだろう。魔力で身体能力を強化していないのならばなおさら。
すかさず魔導師がフォローに入ろうとするが、詠唱が間に合わない。
「ま、待て!待ってくださいッ僕はまだッ」
ツアヴィは逃げようとするが、腰が引けて足がもつれる。二の腕の傷がズキンと脈打った。
「はァッ!!」
ドガッーズズズッ
掛け声と共にタディの振り下ろした大斧は脳天に直撃し、その重量と切れ味で、ツアヴィの身体を文字通り両断する。
「ツアヴィ中将!!」
魔導師たちから、悲鳴のような声が上がる。
タディはそのままの勢いで大斧を今度は後ろに回し、ググ...と力を溜める。
そして魔導師たちの詠唱が終わる前に、懐に潜り込むと大きくぶん回した。
「よし。じゃあ、やるか。」
タディは魔導師たちの全滅を確認し、傷口から流れる血を拭う。
「聞け、公国の民たちよ!〝敵将〟ツアヴィは討ち取った!!速やかに武器を置いて投降しろ!抵抗したものは誰であろうと斬る。」
タディの声を聞き、戦場がざわめいた。やがて、武器を捨てる音が随所で聞こえ始める。
「やりましたな!」
騒ぎを聞きつけ、副官が駆けつける。
「ああ。勝ち鬨を上げるぞ。」
「しかしまた派手にやられましたね、タディ中将。」
軍に捕虜の回収と収集を命じながら、タディはツアヴィという男に思いを馳せる。
ずっと不思議だったのだ。〝公国軍に脅されて〟利用されているはずの彼が、どうして公国軍を動かせるのか。しかも結構な精鋭だ。リズ程ではないが、タディとて敵の気配は多少感じることが出来るのだから。魔導士たち個人の魔力も優れていた。
それにしても単身で敵国に潜入、しかも母国への間者を申し出るとは見上げた根性だ。言動はともかく、余程の信念を持って動いていたのだろう。だが、タディは止まらない。
「あいつなら、そうするだろうからな。」
報告を聞き、皇帝は神妙に頷いた。
「そうか、遂に城下町を落としたか。見事な戦果だ。皆によくやったと伝えてくれ。それに、理想のため散っていった勇敢なる兵たちに賛辞を。」
「ははっ」
伝令兵が去り、一人俯くリートニッヒ。
「くそ...」
悪夢を見ることが増えた。例の命を下したことで、反発する兵たちも現れた。リズは少しずつ容体が安定してきたので、リートニッヒのいる宮城に運ばせた。
もう少し、あともう少しだ。全てを終わらせてみせる。
それからは、未知数だ。
バタン
執務室の扉が開く。
「リズ?」
腑抜けた声が出た。リズは腹を押さえたまま、ゆっくりと顔を上げ言った。
「風向きが変わった。お前が変えたんだ。これからは、目を逸らすな。」
それから一週間後、公国は滅び、帝国は戦争に勝利を収めた。
戦争は終わりましたが、物語は続きます。




