間話 狂愛
午前三時、丑三つ時。
カビの匂いが染みついた地下倉庫に、一人の青年が佇んでいた。
ここは、都市伝説研究サークルの部室。
築六十年の古民家の地下には、呪物を封じるための“保管室”が設けられている。
彼の手の中には、先日入手したばかりの古びたフランス人形。
かつては真珠色のドレスを纏っていたが、いまや全身を御札で縛られ、まるで何かを封じ込められた屍のようだ。
豆電球の明かりがちらつく中、青年は恍惚とした眼差しで人形を見つめていた。
やがて、口元がかすかに動く。
それは恋人に囁くように「…愛してるよ、メリー」
次の瞬間、人形の瞼がかすかに震えた。
ガタ、ガタガタ……と、震動が青年の掌を伝う。
まるで、怯えるかのように。
青年はそれにも気づかず、壊れた玩具を愛でるように頬を寄せた。
その表情は、もはや人ではない。
欲望と狂気の境を越えた何か――。
これは、人を殺めた人形に対する罰なのか。
それとも、人間の歪んだ愛が生み出した怪異なのか。
真相は、彼の口から語られることはない。
ただひとつ確かなのは――
彼に恋心を寄せる女性にはとても見せられない光景だということ。
この話をどうか、ひとつの他愛ない都市伝説として忘れてほしい。




