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呪的遁走  作者: 那須 儒一
二章 王国編

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11話 てるてる坊主③

 篤蔵あつぞうさんが経営する民宿は、長屋造りの二階建てで、僕らの宿泊スペースは二階にある。


 建物には幾度も増改築されたような跡があり、全体的にやや歪な形状をしていた。


「わあ〜、広いですね」  果穂かほさんは目を輝かせながら、部屋中を見渡す。


 案内されたのは、二十畳はあろうかという広々とした和室。部屋の中央には、どっしりとした木製の長机が据えられていた。


「皆さん、夕食は七時にお持ちします。それまで、ごゆっくりおくつろぎください」  そう言って、篤蔵さんに続いて朋美ともみさんも頭を下げ、二人は階下へと降りていった。


 ふと、ある事に気づく。  

それは――今回感じている不吉な予感なんかより、よほど重大なこと。


 つまり、果穂さんと桃さんと、同じ部屋に泊まれるということだ。


「よしっ、さっそくだけどスペースの割り当てをするわよ」  

僕のよこしまな心を察知したのか、桃さんが唐突に切り出す。


「スペースの割り当てって言っても、仕切りとかないですよね?」  

僕はあくまで冷静を装い、男女同室であることなど気にもしていない風を装う。


 そう、ここでキョドってはチェリーボーイ丸出しだ。ここは努めてクールに、自然体で…。


「じゃあ、私と桃さんはこの和室で寝て、灰原かいばらくんは……廊下、かな?」  

果穂さんが、さりげなく非情な提案をする。


「確かに、それがいいな」


「ちょっと、いくらなんでもひどすぎますって。桃さんも同意しないでくださいよ」


「それなら灰原くんは、私たちと一緒に寝たいの?」  

果穂さんが、物欲しげな顔でこちらを見つめている――ような気がした。


 いや、妄想でも構わない。そう見えるだけで、救われるんだ。


 僕らが見つめ合っている間にも、桃さんは黙々と僕の荷物を廊下に運び出していた。


 ……そう、現実は甘くなかった。


 


 果穂さんが荷解きをしている横で、桃さんは部屋の四隅に何やらお札を貼りつけ、ぶつぶつと念じている。



「そう言えば、副代表からメッセージが届いているから皆も確認してくれ」


桃さんがこちらに向き直りスマホの画面をみせる。


そこには…てるてる坊主のわらべ唄が綴られていた。



1.


てるてる坊主 てる坊主

あした天気に しておくれ

いつかの夢の 空のよに

晴れたら金の鈴あげよ


2.


てるてる坊主 てる坊主

あした天気に しておくれ

わたしの願いを きいたなら

あまいお酒を たんと飲ましょ


3.


てるてる坊主 てる坊主

あした天気に しておくれ

それでも曇って 泣いたなら

そなたの首を チョンと切って

晴れた空へと 流してやる

 


「てるてる坊主の歌詞をしっかり見たのは初めてですね」

僕の発言に果穂さんも続く。


「私もです。それに3番の歌詞が少し不穏ですね」


「ただ、これだけでは何もわからんな。この村での伝承を知りたいとこだが…」


桃さんが考え込んでいると――客間に、大量の料理が運び込まれてきた。


「皆様、お待たせ致しました」

篤蔵さんと朋美さんが次々に長机に料理を並べる。


 山菜の天ぷら、猪肉ステーキ、蕎麦、炊き込みご飯、お吸い物……とても三人で食べきれる量ではない。


「わぁー!」「すごいですね!」  

桃さんと果穂さんが、山の幸に目を輝かせる。


 僕はジビエが少し苦手なので、内心では若干引き気味だ。


「私もご一緒してもいいですか?」  

朋美さんが、お茶を持って僕の隣に腰を下ろした。


「全然、いいですよ。むしろ大歓迎です」


 「皆さん本当に賑やかですね。親友の美羽みうといた頃を思い出します」


「美羽さんって、確か…」


「…はい、私の親友です。亡くなった前日も2人で遊んでいたんです」


「それは…お辛かったですね」

僕はそれ以上言葉が続かなかった。


伝承通りなら今夜も犠牲者が出る。

そして、朋美さんが被害に合う可能性が高い。

彼女を何としてでも守らなければ。



 朋美さんは食事には手をつけず、気がつけば時刻は21時を回っていた。


桃さんのどんちゃん騒ぎもひと段落すると、篤蔵さんが下膳にやって来た。


「お口に合いましたか?」


「これ全部、篤蔵さんが作ったんですか?」


「はい。妻に先立たれてからは、私と朋美でこの民宿を切り盛りしてるんです」


「そうなんですね」


関心している僕を横目に桃さんが改まって切り出す。


「早速で申し訳ないのですが先ほど仰ってた“婆様”にお会いすることはできますか?」  


「そう言えば説明していませんでしたが“婆様”というのは、N村の村長のことで、先ほど伝承についてお話を伺えないかとお願いしたのですが、今晩は村の若い衆と見回りがあるそうで、断られてしまいました。申し訳ありません」


「いえいえ、連日遺体が上がっているようですし、見回りを強化するのは当然です」


 篤蔵さんはぺこりと頭を下げると、再び下膳に戻った。 


「では、お布団の準備をしますね。お風呂も沸いてますので、順番にお入りください」


 そう言って部屋を出ようとする朋美さんを、僕は思わず呼び止めた。


「すみません。朋美さん、今夜は僕らと一緒に寝ませんか?」


 僕の言葉に、朋美さんは目を丸くする。


「えっ……私なんかが、ご一緒してもいいんですか?」


「もちろん。むしろ、次に狙われるのは朋美さんの可能性が高いんですから、いっしょにいましょう」  果穂さんも、僕に同意してくれる。


「まったく、おまえたちは気が早いな。私が声をかけるつもりだったのに」


「皆さん、ありがとうございます」  

朋美さんはぺこりと頭を下げる。


 メリーさんの件で、僕も怪異に狙われる恐怖を味わった。あのとき、新野にいの先輩がいなかったら、どれほど心細かったか――。


「実はこうなることを予期して、事前にこの部屋には結界を張ってたんだよ」  桃さんがふんぞり返りながら腕を組んで言う。


「そういえば……この部屋に入ってから、わらべ唄が聞こえなくなった気がします」  

朋美さんが、感心したように桃さんへ視線を向ける。


「夜は私と果穂で交代して見張るから、朋美さんは安心して寝て下さい。客室の外は灰原が警備しますので、奴の布団は廊下に敷いてください」


「わかりました。ありがとうございます」


「……やっぱり、僕は外で寝るんですね」


 


 こうして僕は、湿った闇に包まれた廊下で、ひと晩を明かすことになった。

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