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呪的遁走  作者: 那須 儒一
二章 王国編

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9話 てるてる坊主①

6月15日。メリーさんの一件から早くも二カ月が過ぎ、O市は梅雨入りを迎えた。


 新野にいの先輩は幸い後遺症もなく、傷の経過も順調らしい。


 かくいう僕は、入学早々サボっていた講義のツケを払うべく、今は学業に追われている。


 一限は心理学の講義か……。始業前の教室で気だるげに欠伸をしていると、誰かが隣に腰かけてきた。


 ――教室はガラガラで空いてる席はいくらでもあるのに、わざわざ隣に座らなくても……。


 そう思い視線を向けると、黒縁メガネの女性がこちらを睨んでいる。

「新野先輩……ご機嫌麗ごきげんうるわしゅう」


「なにがご機嫌麗しゅうよ! あんた、なんか私を避けてない?」


「いえいえ、そんなことは」

 メリーさんの件で新野先輩に怪我を負わせたことが、ずっと後ろめたく……なんとなく先輩を避けていた。


「私が怪我したのは別にあんたのせいじゃないわよ。それに――勘違いしないでほしいんだけど、後悔なんてしてないわ。メリーさんと手合わせできる機会なんて滅多にないし、ちょっと興奮しちゃっただけよ。……反省はしてる」


 メリーさんと手合わせできて喜ぶなんて、どんな女子大生だよ。

 ただ、新野先輩の言葉で少しだけ気持ちが楽になった。


「お詫びといってはなんですが、お昼にランチでもいかがです? 学食ですけど」

 渾身の笑みで尋ねると、先輩は目を細める。


「避けるなとは言ったけど、どうしてあんたなんかと食事しなきゃいけないのよ。何がお詫びよ。むしろあんたへのご褒美じゃない」


「またまた、照れちゃって。一夜を共にした仲じゃないですか」

 おもむろに、先輩が丸眼鏡を机に置いた。


「……どうやら、メリーさんの次はあんたを蹴り飛ばす必要がありそうね」


「いやいや、冗談ですってば! せっかく経過も良好なんですから、今は安静に――」

 その目は、冗談には見えなかった。


 慌てて平謝りし、今度駅前の某有名店のケーキを買ってくることで許しを得る。


 昼食を終え、部室に向かう。その途中、スマホにはいずみ副代表からメッセージ――いや、怪文書が届いていた。


「至急、来タレリ」

 泉副代表の突飛な言動は、もはや日常の一部となりつつある。


 部室の玄関をくぐると、奥の客間からうっすらと話し声が聞こえていた。


「すみません、遅くなりました」

 声をかけて客間の扉を開けると、見慣れない女性が座っていた。


 生成りのワンピースに深緑の帽子。森ガールのような装いだ。


 泉副代表、ももさん、果穂かほさんと向き合っている。


灰原かいばらくん、ちょうどいいところだ。こちらはH市N村のさかき朋美ともみさん」

 紹介された女性は、緊張した面持ちで小さく会釈する。


「灰原です」

 頭を下げると、泉副代表に促されて席に着く。


「メールでおおよその話は伺ってますが、改めて依頼内容を詳しくお聞かせいただけますか?」


 榊さんは一度息を整えると、静かに語り始めた。

「今回、ご依頼したいのは……N村の連続首吊り事件の真相を暴いてほしいんです」


「それって、最近ニュースになってたN村の集団自殺のことだよね。あえて 事件 と表現しているってことは、朋美さんはただの自殺ではないとお考えですね?」

 桃さんの問いに、榊さんはかすかに震えながら頷く。


「警察は集団自殺との見解を示しています。でも、美羽みうたちは絶対、自殺なんかするはずありません!」

 榊さんは取り乱したように叫ぶ。


「榊さん、大丈夫です。我々はあなたの言うことを根拠もなく否定したりはしません」

 泉副代表は落ち着いた声で彼女をなだめる。


「榊さん、N村の事件についてもう少し詳しくお話しいただけますか?」

 彼女は落ち着きを取り戻し、ポツポツと話し始める。


「……はい。梅雨に入ってから、毎日若い女性がひとりずつ亡くなっていて……全員、同じ方法で首を吊っているんです」


「毎日ですか……。N村が梅雨入りして五日目、報道では五名での集団自殺とされていますが、まさか日に一人亡くなっていたなんて……」

 泉副代表の言葉に榊さんが頷く。


「それだけじゃないんです。五人全員、白い布を被せられていたんです……」


「白い布……不気味ですね」

 あまり聞き慣れない内容に、僕も思わず不快感を口に出す。


「それに……私の親友も犠牲者の一人なんですけど、亡くなる数日前から――わらべ唄が聞こえるって言っていたんです」


「わらべ唄……」

 果穂さんが桃さんの顔を覗き込み尋ねる。


「どうですか? 何か感じますか?」


「うーん。今のところはなんにも」

 そのとき、背筋が冷たくなるような悪寒が走った。


「榊さん……。もしかして、あなたにもわらべ唄が聞こえているんじゃないですか?」

 榊さんは僕の言葉を受け、目を大きく見開いた。


 しばらく言葉を探すように口を開けたまま――そして、突然怯えた声で泣き出した。

「いや! 嘘よ……私は、聞こえない!」


 この怯え方、尋常ではない。

 僕らは一度退席し、果穂さんに榊さんをお願いした。


 僕と桃さん、泉副代表は別室で相談することにした。

「しかし灰原くん、よくわらべ唄のことに気づいたね」


「いや、なんとなくですけど……」


「さすが、私の見込んだ男だ」


「桃さん、ふざけないでください」


「なんだよ、私は至って真面目だが?」


「ともかく、わらべ唄の内容が気になるところだが……榊さんの様子を見るに本人から聞き出すのは難しそうだ。単なる集団自殺か、何かに取り憑かれて自殺したのか、あるいは儀式的な殺人か……。怪異による殺人も否定できない。桃、どう思う?」


「現時点では怪異絡みの可能性もゼロじゃないけど、それ以上は現地を見てからじゃないとなんとも」


「なるほどね」


 泉副代表は短く頷く。

「よし、それならすぐに支度をしてくれ。今回は桃と果穂ちゃん、それに灰原くんにN村へ向かってもらう。朋美さんが、同い年ぐらいの女性が一緒にいた方が安心するって言ってたからね。僕はネットの情報をもう少し集めてみるよ。新野さんはしばらく療養が必要だろうし、ジャイアンにも少し休息が必要だろうから今回は留守番だ」

「わかった。果穂には私から話すよ。少年は帰って支度しな。準備ができたらO駅で16時に集合だ」

「はい」

 としけんに入って、初めての本格的な依頼。

 少しだけ胸が高鳴った。

 だが、その奥で、ずっと冷たい予感が蠢いていた。

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