3.やることが無茶苦茶
酒の席上でレコード会社を作ると宣言した。その後、しらふでレコードの受注の為に動き回った。幸か不幸か、1人の発注者も現われなかった。
私は1曲50万円で受注するつもりだったのだ。
ところが、プロのレコード会社に見積もりを取ると、2曲で300万円であった。レコードは裏表が有り、2曲セットが通常なのだ。そう言えば誰からも値段を訊かれたことが無かった。私も値段を提示したことはなかった。もともと儲けるのが目的ではなかった。とは言え、やることが無茶苦茶だ。受注しておれば大赤字だった。
今また、私は無謀なことをしようとしている。楽器一つも扱えない、小学校の成績、音楽2のままの人間が自分の書いた詞にメロディを付けようとしている。不動産の仕事もせずに朝から夜まで必死に口ずさんだ。声を出したかどうか覚えていない。頭では口ずさんだという感覚だった。
それでも寝るまでに、メロディは完成した。
「いい曲ができた」
私は満足して眠りに就いた。
ところが朝起きると、思い出せないのだ。まるで夢を見た時に似て、正確に見たはずの出来事が、目が覚めると同時に消えてしまった。
し方がない。又1からやり直そう。私は再び口ずさみでメロディを付けた。この時、私は譜面にする能力が無かった。当時、テープレコーダーに記録させるという習慣を持っていなかった。既に市販されていたはずだが、全く思いつかなかった。私は寝ても忘れない様に口ずさみを続けた。
それが良かった。毎日少しずつ、メロディは改良され、忘れなくなった。1か月後、プロの作曲の先生の前で口ずさんだ。
「いい曲です」
「こんなので、私の作曲と言えるのでしょうか?」
「大丈夫です。作曲は譜面を書くことではありません。メロディを伝える事ができれば、立派な作曲です。プロは5分で1曲作曲できます。でも、全てヒットするわけではありません。譜面を書くことのできない素人の作曲がヒットすることはよくあります。又作曲者不祥の伝唱された歌がヒットすることもあります。
そして後日、編曲され、カラオケが出来上がった時に先生は言った。
「この曲は上手く金を使えば、紅白も狙えます」
お世辞を言う先生ではなかった。私は金を使う気はなかったし、プロの歌手に歌って貰う気はなかったが、大変な自信になった。むしろ劣等感を持っていた作詞、作曲の世界が一気に開けた瞬間だった。




