王妃様は守りたい〜国王が国を捨てたので、私が国を貰います〜
「何ですって?もう一度言ってくれる?」
「…国王陛下が、書き置きを残して、出奔なさいました。」
…………
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
その日、王妃の部屋を含めた一帯が、謎の爆発に巻き込まれた。
ーーーーー
数日続いた建国祭が、昨日ようやく終わり、久しぶりにゆっくりとした朝を迎えることができた。
この国の王妃である私は、建国祭の前と最中は大忙しだ。
会場の飾り付け、食事内容など、内向きの仕事は女主人である私の仕事だからだ。
会場関係でトラブルが起きればすぐに対処しなければならず、ゆっくりと休んでいる時間がなかった。
建国祭後の数日は、使用人や大臣を労わるため、最低限の仕事以外は休むことになっている。
当然私も仕事を入れておらず、久しぶりに可愛い我が子と過ごす時間ができたと喜んでいた。
そのはず、だった。
ゆっくりとした朝。
部屋着のまま居室で、遅めの朝食を食べている時だった。
子どもたちと何をして過ごそうかと考えていたところ、普段は冷静の塊と言える、王妃付き筆頭侍女のメイベルが、ノックもなしに飛び込んできた。
普段では考えられない行動に、私も驚いて固まってしまった。
「へ、陛下…。」
メイベルの手には、メモのよな小さい紙が握られていた。
何に動揺しているのか、手を振るわせながら、その紙を私に渡した。
『俺は愛に目覚めた。この国を出て、愛に生きることにした フレドリック』
信じられないことが書いてある。
二度、三度見直しても、目を擦っても、無情にも内容は変わらなかった。
知らず知らずの内に、神を握る手が、全身が震えてくる。
「捜索させていますが、国王陛下の姿が一向に見当たらず……書き置きの通り、出奔なさったようでございます。」
メイベルが私を伺いながら、おずおずと説明する。
それを聞いた瞬間、私の何かが爆発した。
もう、我慢できない。
いつもそう。
平民を城に連れてきて愛人にすると言ったり、可愛い侍女に言い寄ったり、理不尽に命令して使用人を困惑させたり、罪のない使用人に八つ当たりしたり…。
いつも、いつも、いつも…
自由奔放に、人の迷惑になることばかりして。
その度に、私たちが何度尻拭いをしてきたか。
私は大きく息を吸って。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
私の声と感情に誘発されて、居室に次々と亀裂が入る。
「ふ、ざ、け、ん、なぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その声と共に、王妃の部屋一帯が、轟音と共に爆発した。
いつもは感情と共に制御していた魔力が、私の怒りで暴発してしまった瞬間だった。
ーーーーー
あまりの轟音と爆発に、城中の使用人と騎士団、兵士団が集まってきた。
彼らの顔を見て、ハッと制御を取り戻した。
いけない、落ち着かないと。
罪のない人に八つ当たりしては、アイツと同じになってしまうわ。
深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。
無意識にでも結界を施していたのか、人に対する被害が一切なかったことだけは良かった。
建国祭後で人が少なかったのも、幸いした。
誰かを傷つけたと思って、一瞬冷や汗が流れた。
落ち着いて見渡すと、部屋一体の建物の損傷は激しい。
修復するのは数日では済まないだろう。
今まで力を隠していたが、爆発を起こしてしまった以上、隠し通すのは無理だろう。
私は魔法を使って、元に戻すことにした。
〈刻戻し〉
損傷していた箇所が、時間を巻き戻すかのように逆再生されて戻っていく。
ものの10分ほどで、先ほどの光景が夢ではないかと思うほど、いつもと変わらない光景が広がっていた。
集まった人たちは、ポカンと我を忘れて固まっている。
私は手を二回ほど打って注目を集める。
「何も、なかったわ。さあ、仕事に戻ってちょうだい。」
「「「「……え??」」」」
「な、に、も、なかったのよ?」
「「「「はいっ!!!」」」」
私の顔を見て顔を蒼白にするなんて、失礼にもほどがある。
私はきちんと、いつも通りの微笑みを浮かべているのに。
解せない。
まあ、とりあえずそれはいい。
問題なく元通りになつたから、いいでしょう。
後やらないといけないことは…。
「メイベル。緊急会議を開くわ。上層部を大会議室へ呼び出して。」
「御意。」
メイベルが連絡を回している間に、他の侍女たちの手を借りてドレスを纏う。
キツめの化粧、ドレスの上には魔塔のマント、頭にはティアラ、手には扇子。
メイベルから声がかかるまでに、完璧に支度を整えた。
会議室に集まったのは、国の上層部。
国の政治を動かす者たちである。
ここにいる全員が、すでに国王出奔の報を聞いている。
何故ここに集められたのか、理解していた。
私が入場すると、私の纏ったマントに目が釘付けとなる。
「さて、国王の出奔は聞いているわね。それについて話があるわ。」
一つ。
国王の位の永久剥奪。
二つ。
王妃が代わりに国政を担う。
三つ。
第一王子が成人したら、国王として戴冠し、王妃は国政から身を引く。
「以上よ。」
大臣たちはお互いに、近くの者たちと言葉を交わす。
大臣たちも、前代未聞の出来事に戸惑っているのだ。
「王妃陛下、王弟殿下に中継ぎを担っていただいては?」
「あら、私では不満?魔銀を背負うことを許されている、この私に?」
「いいえ!王妃陛下が相応しいかと!!」
思わず、先ほどの怒りを再熱してしまい、威圧を込めてしまった。
「反対の者は?……いないようね。それでは、国王の位の永久剥奪と、今日から王子が成人するまで、私が国を守りましょう。」
私がそう宣言すると、大臣たちは一斉に立ち上がり、揃って礼を返して来たのだった。
我が子が成人するまで、王妃がこの国を守るわ。
我が子たちが何の憂いもなく、生きていけるように。
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今後、この話を連載にしようかと検討中。
他の短編や連載もあるので、良かったら見ていってください。




