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【魔力ゼロ】と嘲笑されて男爵家を追放された私。――実は、この偽りの世界を修復する『古代の究極魔法』を使える唯一の器でした。  作者: ノンカロリー


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マナの刃と清算

 夜会が終わり、男爵邸全体が深い沈黙に包まれる午前二時。ハスクは、毛布の中でアルカの体温がわずかに低いことを感じながら、静かに状況を見守っていた。


『ギーッ……』


 という湿った音を立てて、不審者が小屋に侵入した。逃げる場所などないハスクは、アルカの存在を隠すために、諦めに似た勇気で、毛布から出て男の顔を見た。


 小屋に忍び込んだのは、従者のリクトだった。リクトの顔は、いつもの陰鬱な表情とは違い、歪んだ興奮と欲望に満ちていた。彼はよだれを垂らし、薄気味の悪い笑みを浮かべている。リクトは静かに扉を閉め、ハスクへ向かって獲物を見るように歩み寄る。


「ハスク、起きているな。今日からお前は俺のものだ」


「何をおっしゃっているのでしょうか?私には意味がわかりません」


 ハスクは混乱するが、毛布の中にいるアルカを隠すように、無意識に体を盾にする。リクトは声を潜め、喜びを噛みしめるように話し出す。


「三年間だ。この日のために、コツコツと金を貯めた。男爵に頼み込んで、お前を金で買ったのだ。病死したことになっているお前は、この瞬間から俺の性奴隷として、一生俺の慰めものとなるのだ」


 ハスクの頭は一瞬で真っ白になる。彼の言葉の意味を理解した瞬間、恐怖が全身を駆け巡った。


 リクトには、毛布の中にアルカがいるなど想像すらできない。白い肌が透けて見えるハスクの体だけが、彼の欲望の対象だからだ。リクトは気持ちの悪い笑みを深め、ハスクの着古した衣服に手をかける。ハスクは反射的に避けようとするが、体が動かない。動けば、毛布の下にいるアルカの存在がリクトにバレてしまう。そうなれば、彼の正体を知らぬとはいえ、彼は再び捕らえられ、どこかへ連れ去られてしまうだろう。


「この美しい体は俺のものだ」


 リクトはハスクの服を乱暴に引き剥がす。


 ハスクは両手で必死に体を隠す。リクトはさらに強引にハスクの腕をどかそうとする。皮膚が擦れ、ハスクは生理的な嫌悪感で耐えきれなくなる。意識とは関係なく、恐怖に震える喉から小さな声が漏れた。


「アルカ……、助けて」


 毛布の下から、冷たく機械的な声が返ってきた。


「了解」


 アルカには、ハスクが何に対して助けを求めているのか、性的な意味合いも、恐怖の感情も理解できていない。しかし、助けを求める声という音響データに対する実行命令として、体が動いた。


 次の瞬間、小屋の中の空気が一変した。


 毛布の中で、アルカの白い右腕が動き出す。周囲に満ちるマナが、瞬時に彼の右腕に集束する。緑色のマナの光は、暗闇の中で鋭く輝く透明な剣の形を成した。


 リクトはハスクの体をまさぐっていたため、突然現れた光の刃の存在に全く気づいていない。アルカの右腕は、正確無比な動作で毛布から飛び出し、リクトの首へ振り下ろされる。


 一瞬の静寂。


『ザシュッ』


 リクトの醜悪な笑みを浮かべた頭部が、無音で切断され、床に転がった。透明なマナの刃は、血を一切つけることなく、蒸発したかのように消えた。


「任務完了」


 アルカは感情のない声で呟く。


 目の前で起こった信じられない現実、そして自身の血まみれの返り血を浴びた感覚に、ハスクは耐えられず、そのまま意識を失った。



 数時間後、ハスクは朝日の光を浴びて目を覚ました。


 体には、昨夜リクトに引き剥がされたはずのボロの衣服が、再びかけられている。辺りを見回す。昨夜の出来事が恐ろしい夢であったかのように、リクトの死体はもちろん、血一滴すら見当たらない。返り血を浴びていたはずの自分の体も、衣服も、一切汚れていない。


 しかし、ハスクは、ある決定的な異変に気づく。


 この小屋は、長年カビと油と埃にまみれていたはずだ。それなのに、小屋全体が、まるで新築のように清潔で無臭になっている。床の土間にあったはずの、長年の油染みすら消えている。


 ハスクは慌てて横にいたアルカに尋ねた。


「リクトは!?……そして、この部屋は!?」


 アルカの青い瞳がハスクを見つめる。


「リクトの肉体はマナの力で燃やし、灰にして庭の土に埋めた。汚染された有機物の清掃は私の優先事項だ。ついでにこの部屋の汚染(油汚れ、カビ、埃)も、同様にマナを応用して綺麗に掃除した」


 アルカの言葉は、昨夜の出来事が夢でなかったこと、そして、この美しく無感情な少年が持つ力の異様さと恐ろしさをハスクに突きつけた。



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