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【魔力ゼロ】と嘲笑されて男爵家を追放された私。――実は、この偽りの世界を修復する『古代の究極魔法』を使える唯一の器でした。  作者: ノンカロリー


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七色の水面と、無重力の橋

「島に渡る橋はない。水深は一〇〇メートル以上。湖の周辺には、渡航手段となりうる物質は一つも存在しない」


 アルカは湖面をじっと見つめ、絶望的な分析結果を淡々と述べた。


「アルカ、舟を作れば良いのよ!リーネちゃんの付与魔法で作れないかしら!」


 ハスクは名案が思い浮かんではしゃいだが、すぐに現実に引き戻される。


「現在、リーネにはマナ遮断結界を張っている。この結界は魔力も通さない。すなわち、リーネは魔法を使えない状態だ」

「そうなのね」


 ハスクは落胆した表情を浮かべた。


「私、頑張るの!」


 リーネはハスクの役に立ちたい一心で、結界を壊すようにアルカにお願いする。


「リーネちゃん、ダメよ」


 ハスクはリーネにそっと寄り添い、悲し気な目をして抱きしめた。


「他の方法を探すから大丈夫よ」

「でも……」


 ハスクの辛そうな悲し気な目を見たリーネは、ハスクの気持ちを察し、「わかったなの。違う方法を探すの」と諦めた。


 ハスクとリーネは、湖の周囲を一時間ほど探索した。しかし、湖に渡る方法は見つからない。次第に二人は集中力を失い、疲労と焦燥に苛まれ始めた。アルカだけは微動だにせずに、ずっと湖面を見つめ、何らかの演算を続けているようだった。


「リーネちゃん、少し遊びましょ」


 ハスクは集中力が途切れたリーネを楽しませようと遊びに誘う。これは、ハスク自身も気分転換が必要だと感じたからだ。


「何して遊ぶの」


 リーネは嬉しそうに微笑んだ。


「お花の冠を作りましょ」


 ハスクは、前世で幼い頃にシロツメクサを編んで作った花の冠を作ることにした。


「お花の冠?」


 リーネは不思議そうな顔をする。


「リーネちゃん、このように、お花を編んでいくと、お花の冠が出来るのよ」


 ハスクは器用に草花を編んでみせた。


「ハスクお姉ちゃん凄いの!」


 リーネはお花の冠を見て大喜びした。


「リーネちゃん、これを頭に乗せるとすごく素敵よ」


 ハスクはリーネの頭にお花の冠を乗せた。淡い藤色のローブと、透き通るような白い肌、そして可憐な顔立ちのリーネの姿はまるで妖精の国のお姫様のように、幻想的な湖の光を浴びて美しく輝いた。リーネは嬉しくて、アルカの元へ走って行く。湖面を見つめ、沈黙しているアルカの元へ駆けていったその時、リーネは足元の石に躓いてしまった。


 リーネは小さな悲鳴を上げ、その勢いで湖の中へ落ちてしまった。


「リーネちゃん!」


 ハスクは悲痛な悲鳴を上げながら、湖に向かって全力で走っていく。湖の中心へ一歩も動かないアルカを見て、ハスクは激しく怒鳴った。


「アルカ、何をしているのよ!リーネちゃんが湖に落ちたわよ!」


 アルカは、興奮して駆け寄るハスクに、冷たい瞳を向けた。


「私の分析は間違っていなかった。結界がマナと反発して無重力状態を作り出した。リーネは私の意図を読み取って湖へ飛び込んだのだ」

「何を言っているのアルカ!すぐにリーネを助けるのよ!」


 ハスクは興奮しすぎて、アルカの話など聞いていない。その時、湖面から、リーネの無邪気な声が届いた。


「すごいの!私、湖に浮いているの!」

「リーネちゃん!」


 ハスクは湖面を見て驚愕した。なんとリーネは、水面に完全に沈むことなく、湖の上五センチほどに浮いていたのだ。


「アルカ、これはどういうことなの?」

「貴様は私の説明を聞いていなかったのか」


 ハスクは興奮が冷めやらず、混乱したままアルカを睨みつけた。


「それどころじゃなかったのよ! 何か言ってたっていうの!?」


 アルカは感情のない瞳で、ハスクの制御できない感情を一瞥した。


「わかった。もう一度言おう。私の分析は間違っていなかった。結界がマナと反発して無重力状態を作り出したのだ」


 アルカは一言一句、同じことを復唱した。


「結界がマナと反発!?」


「そうだ。リーネに施した結界はマナを通さない。湖からは高濃度で多量のマナが発生している。通常ならマナは物質を押し避けてリーネの体は湖に沈む。だが、押しのける隙間が存在しないため、マナの密度不均衡による極度の斥力(せきりょく)が発生し、リーネは湖に浮き上がっているのだ」

「え!リーネちゃん大丈夫なの?マナに押されて空に飛んで行ったりしないの?」


 ハスクは不安げに尋ねる。


「マナにそこまでの力はないのだろう。現にリーネは湖面から五センチほど浮いているだけだ。それ以上は押し出す力はないのだろう」

「もしかして、アルカがずっと湖の側にいたのは、結界で湖に渡れないか考えていたの?」

「そうだ。私の分析結果では、理論上は結界で湖を渡ることは可能と判断した。しかし、成功確率は八〇パーセントだった。この確立を一〇〇パーセントにするために、私はあらゆるパターンを計算していたのだ」


 アルカは、ただぼーっとしていたわけではなかった。


「アルカお兄ちゃん、ハスクお姉ちゃん、このまま島へ向かっても良いの?」


 リーネは湖の上を歩けることに興奮気味だ。


「先に行け」


 アルカは簡潔に命じた。


「わかったなの」


 リーネは少し怖い気持ちもあるが、楽しそうに湖面を歩いて島へと向かった。


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