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【魔力ゼロ】と嘲笑されて男爵家を追放された私。――実は、この偽りの世界を修復する『古代の究極魔法』を使える唯一の器でした。  作者: ノンカロリー


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天空の穿孔

 リーネの絶望の叫びは、夜の森を切り裂く道しるべとなった。


 中肉中背で顔に傷のある男、痩せた冷酷そうな眼つきの男、そして大柄な男の三人組は、警戒しつつも、獲物の絶叫に導かれるまま、一歩一歩、ハスクたちの潜む場所へ近づいていた。ハスクは震えるリーネを抱きしめ、かけるべき言葉を見失っていた。「大丈夫よ、リーネちゃん」という慰めは、何の意味も持たなかった。


 リーネは完全に錯乱状態だった。


「あの人たちが、私のお母さんとお父さんをころしたの。お母さんもおとうさんも私を守るために何をされても声を出さなかったの。私が悪いの。私がお母さんとお父さんを殺したの。ごめんなさい、ごめんなさい」


 リーネの叫び声は、団員たちの最高の獲物への歓喜へと変わる。


 傷のある男が、狂ったように笑った。


「ガハハハハハ、神様は俺たちに盛大なプレゼントを用意してくれていたのだ!」


 痩せた男は股間を硬くし、恍惚とした表情を浮かべた。


「そうだな。あの夫婦はコイツを隠すために必死で痛みを堪えていたのだ。そう思うと、あの時の光景はとても愉快で至福の時間だったな」


 大柄な男は唾を垂らした。


「慈悲深い俺にやらせろ。俺が両親と同じようにバラバラにして殺してやる。それが、最高のプレゼントを用意してくれた神に対する感謝の証だ」


 三人の団員の顔は狂気に満ちていた。よだれを垂らし、最高のエクスタシーを感じながら、アルカたちがいる地点へ迫る。


 アルカは冷静に、目標物(三人の団員)がこちらへ到達するまでのカウントダウンを始めた。


「目標物到達まで、残り一分」


 アルカは右手を剣に変え、射程範囲内に入れば三人を討ち取る準備を完了させていた。


 三人はまだアルカとハスクの存在に気づいていない。松明の灯りが、三人の醜悪な姿を照らし出す。しかし、その光の届かない闇の中から、一人の人物がスポットライトのように照らし出された。


 傷のある男が、ハスクの姿に気づく。


「お、女だぜ。獲物が増えてラッキーだぜ」


 痩せた男は下卑た笑いを上げた。


「ガハハハハハ、その女は俺がもらうぜ。女を痛ぶるのは俺の専売特許だ」


 大柄な男が、ハスクの異様な容姿に気づき、動きを止めた。


「ちょっと待て、老婆のような白い髪、不気味な赤い目……コイツはボスが探していた女じゃないのか?」

 

 三人はハスクをじっと睨みつける。


 傷のある男が確信した。


「間違いない。こいつだ」


 痩せた男の顔が、歓喜で歪んだ。


「なんてことだ。本当に俺たちは神の寵を賜っているな。俺たちの仕事はコイツを捉えてボスに引き渡すことだ。生死は問題ではない。存分に楽しませてもらおうぜ!」


 その時だった。ハスクの体内で、何かが決定的に弾けたような感覚が走った。それは、底知れない情熱が、体内に眠る根源的なエネルギーを強制的に覚醒させたかのようだった。ハスクの表情が、一瞬で無感情な能面のように変化した。全身は、まるで脈打つ心臓のような紅いオーラで強く包まれ、禍々しい赤い瞳が妖しく、強く輝きだした。


 ハスクは腹話術の人形のように、その口をパクパクと動かした。冷たく、響きの深い、機械的なトーンが、彼女自身の口から流れ出た。それは、体内の力が、彼女の体を乗っ取ったかのように発する、究極の破壊プロトコルだった。


 体内で覚醒したその力は、ハスクの右掌へと一気に流れ込んだ。掌で圧縮されたエネルギーは、脈動する心臓のような紅い光を放ち始めた。その紅い光は、ハスクの制御を完全に離れ、巨大な光の球体へと構築されていった。


 ハスクは、その紅い球体を前に、長大なプロトコルを唱え続けた。


「OMNE IN NIHILUM REDIGE! MUNDUS PRAESENS COLLAPSA! RADIX VIRIUM JUNGE MEAE MENTI PARE! OMNIUM RERUM LEX FRANGE, LUX FINIS EMITTE — ABSORPTIO MUNDI!」

(全ては虚無に帰せ!現行世界は崩壊せよ!根源の力を束ねし我が意識に従い応えよ!万物の法則を破壊し、終焉の光を解き放て―― 世界収束【アブソープション・ムンディ】)ー日本語訳


 次の瞬間、ハスクの前に出現していた直径三メートルほどの光の球体が、夜の闇を完全に打ち砕くかのように、強烈な紅い閃光を放った。世界は一瞬で、真昼の太陽に照らされたかのような眩しい光に包まれ、三人の団員の醜悪な顔が一瞬だけ、狂気に満ちたまま白く焼き付いた。光の球体は、音もなく一筋の紅い光線へと姿を変え、一直線に山脈を貫いた。光線は、その軌道上にいた三人の団員を、悲鳴を上げる間もなく瞬時に消し去った。彼らがいた場所には、何も残らない。そして、光線は遥か彼方の山脈を貫き、熱や爆発音を一切伴わずに、巨大なトンネルを作り出し、夜の闇の向こうへ消えた。


 その一瞬の出来事の後、世界は重い沈黙と共に、再び元の漆黒の闇に包まれた。 残されたのは、光の球体によって作り出された、山の反対側まで続く巨大な一本道だけだった。



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