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【魔力ゼロ】と嘲笑されて男爵家を追放された私。――実は、この偽りの世界を修復する『古代の究極魔法』を使える唯一の器でした。  作者: ノンカロリー


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マナの狩人と最初の成功

 「アルカ、まずは私に特大の炎を発動できる魔法を教えてよ」


 ハスクは意気込んで要求した。


 アルカの反応は即座に、そして冷酷だった。


「やはり貴様の生体プロセッサは故障している。まず生体プロセッサの修復を優先したいところだが、残念ながらその方法は私にもわからない」


 ハスクは顔を真っ赤にして怒った。


「私は狩りをするのに魔法を教えてと言っただけじゃない。どうしてそんなことを言うの!」


 アルカはハスクの怒りを冷静に分析した。


「無駄なエネルギーの消費だ。エネルギーは無限ではない。効率的に使用しろ。食料を調達することが目的だ。あの小型跳躍体ウサギを狩るのに火の魔法で燃やすのは論理的でない。素材のダメージを最小限に抑えて仕留めることが最優先される」


 アルカの正論に、ハスクの怒りは静まり、納得せざるを得なかった。怒りが鎮火したハスクを見てアルカが分析する。


「生体プロセッサが正常な判断をした」

「わかったわ。ウサギの狩り方を教えて」


 ハスクはすぐに次の行動に移った。


「弓矢で射るのが妥当だが、貴様はマナを扱える。マナで矢を作り、標的へ命中させるのが最も効率的だろう」


 アルカは構築と誘導という二つの複雑な命令を一つにまとめた、高度な神代語のプロトコルを告げた。


「矢の構築と、標的への正確な射出を同時に行う統合プロトコル、【PROJECTUS-VERUS(真実の投射)】だ」

「わかったわ。さっそく試してみるわね」


 ハスクは草原でウサギを発見すると、手のひらにマナを集積させ、詠唱した。


「PROJECTUS-VERUS!」


 〇・五秒で凝縮されたマナの球体がプロトコルを刻み込まれる。


 しかし、矢が形成される瞬間、ハスクの未熟なマナ制御は、その複雑な命令に耐えきれなかった。


 『ゴウッ!』


 ハスクの目の前で、緑色のマナの矢は爆発的に霧散した。衝撃波は弱かったが、ハスクの髪を吹き上げる。マナの力が制御を失い、ただ爆発という形で消費された。ハスクは思わず数歩後ずさり、手のひらを見つめた。掌には熱がこもり、指先が微かに震えている。


「ちょ、ちょっと待って……」


 ハスクはアルカを振り返り、混乱した声を上げた。


「何よ、今の!何でこんな失敗をしたの!?」


 ハスクは、爆発という結果に恐怖と混乱を抱きながら、失敗の原因をアルカに求めた。


 アルカは冷徹に断じた。


「貴様が求めたのは、特大の炎を発動できる魔法だろう。その要求を満たすために、私は最も複雑な統合プロトコルを教えた」


 アルカはハスクの恐怖を完全に無視し、彼女の論理の飛躍を指摘した。


「貴様のマナ制御のレベルでは、その高度な統合プロトコルは扱えない。まるで初心者が複雑な楽譜を演奏しようとするようなものだ。貴様の要求が、貴様の能力を超えていた。それだけの理由だ」


 アルカの容赦ない言葉に、ハスクはバツが悪そうな顔をして、自分が最初に特大の炎という非現実的な要求をしたことを恥じた。彼女は力への渇望から、手順を踏むという最も基本的な論理を忘れていたのだ。


「わかったわ……ごめんなさい」


 ハスクは力なく謝罪した。


「それじゃあ、私に使える初級の魔法を教えて」



 アルカは、ハスクの反省をデータとして処理し、すぐに次のプロトコルを教えた。


「矢の構築と射出のみに特化した簡潔な初級プロトコルを使うのだ。【 JACTUM-CONSTRUCT(投射物の構築)】 !」


 ハスクはすぐに次のウサギを見つけ、今度は失敗の恐怖を押し殺してプロトコルを実行した。


「JACTUM-CONSTRUCT!」


 今度は成功した。ハスクの手のひらから、微かに緑色に輝く一本のマナの矢が構築された。矢は一直線というよりも緩やかなスピードで微かな異音と立ててウサギめがけて放たれた。だが、命中しない。ウサギは寸前でビクリと跳ね、矢はウサギがいた場所の草に突き刺さった。


「解析完了。命中率:ゼロパーセント」


 アルカは淡々と告げた。そして、ハスクは歯噛みした。


「なぜ、避けられたの?」

「理由は単純だ」


 アルカは説明した。


「理由は単純だ。貴様のマナの運用が未熟なために構築されたマナの矢は、発射の瞬間にわずかな音と緑色の光の残滓を残す。野生動物は超常的な聴覚と知覚を持っている。貴様のプロトコルは、矢の速度が遅い上に、魔法の発動というシグナルを標的に伝えてしまったのだ」


 ハスクは、自身の未熟さが引き起こした致命的な欠陥を理解した。彼女は単にマナを制御するだけでなく、この世界の理と、生命の習性をも考慮しなければならないことを痛感した。


「貴様が狩りを成功させるには、マナの静音化(ステルス)と、思考と発声の同期(シンクロ)の二つの課題を克服する必要がある」


 ハスクは川辺の木陰に身を潜め、アルカの指導に従い、ひたすらこの二つの課題に取り組んだ。


 静音化は、手のひらのマナの球体が光を生む波長を抑え、音を生む空気の振動を制御するという、極めて繊細な作業だった。少しでも力を込めすぎると、マナは無残に霧散した。同期は、脳内で矢のイメージが構築されたのと、喉からプロトコルが発せられた瞬間を、完全に一致させるという精神力との闘いだった。一瞬でもズレると、矢は失速したり、軌道がブレたりした。一時間近くが経過し、ハスクの体力は限界に近づいた。失敗は百回以上に及ぶ。アルカはただ静かに立ち、彼女の失敗ログを記録し続けた。


「無駄な訓練だ。貴様の生体プロセッサは、単純なプロトコルすら実行できないのか」


 アルカの冷酷な言葉が、ハスクを奮い立たせた。


「黙って見てなさい!」


 ハスクは深く息を吸い込んだ。彼女の意識は、手のひらに集積されたマナの球体の表面の振動に集中する。今、彼女の目の前にあるのは、ウサギの命ではない。リーネの命であり、アルカの封印であり、世界の真実へと繋がる唯一の道標だ。そして、脳内で矢のイメージが構築され、喉からプロトコルが発せられる瞬間を、完全に一致させた。


「JACTUM-CONSTRUCT!」


 緑色の光の矢は無音で構築され、光の残滓を残さずに射出された。ウサギは草を食べることに夢中で、何一つ異変を察知していない。


『プスッ!』


 マナの矢はウサギの首元に正確に命中した。ウサギは一瞬跳ね上がったものの、即座に絶命した。


「やった!やったわ、アルカ!成功したのよ!」


 初めて、自分の意識がマナという根源的なエネルギーを完全に制御し、世界に確かな結果をもたらした。その事実に、疲労も、恐怖も、全てが吹き飛び、ハスクは喜びで地面を蹴って飛び跳ねた。その顔には、純粋な達成感と、技術的な成功を収めた者特有の熱狂的な輝きがあった。


 ハスクは喜びのあまり、獲物を回収するのも忘れ、アルカへと駆け寄った。


「見て、アルカ!私、できたのよ!無音の矢が完成したわ!」


 ハスクの熱狂に対し、アルカは静かに結論を述べた。


「解析完了。貴様の生体プロセッサは、最適化(オプティマイズ)プロトコルの限定的ながら、実戦運用に足る最低水準に到達した」


 アルカの言葉は、ハスクの喜びの奔流を鎮めることはなかった。ハスクは彼の冷静な分析には既に慣れており、一切落ち込むことなく、アルカの言葉を笑い飛ばした。


「そうね、最低水準ね!でも、私はそれでも嬉しいのよ」


 ハスクはそう言い返した。

 

 ハスクはすぐに、取り忘れていた獲物を回収した。初めての狩りの成功に、彼女の顔には堂々たる風格と歓喜が満ちていた。その様子を見たアルカは、静かに呟いた。


「彼女にとって、この成功は大きな一歩だったのだろう。しかし、世界というシステムから見れば、これはスタートラインに立った程度のことに過ぎない」


 アルカは冷静に分析した。獲物の回収を終えたハスクは、すぐに脱力感に襲われた。


「ごめん、アルカ。無理。私、マナの運用に疲れたわ。少し休憩させて」


 ハスクは崩れ落ちるように座り込んだ。


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