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【魔力ゼロ】と嘲笑されて男爵家を追放された私。――実は、この偽りの世界を修復する『古代の究極魔法』を使える唯一の器でした。  作者: ノンカロリー


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生存プロトコルと不器用な優しさ

 「その選択は却下だ」


 ハスクの言葉を、アルカの冷たい声が打ち破った。


「どうしてなの?私たちは冥府の洞窟へ向かうのよ。先へ進むしか道は残されていないわ」


 ハスクは戸惑いを隠せない。


「理由は答えるまでもない至極当然なことだ。こんなこともわからないとは、貴様の生体プロセッサは故障しているとしか言いようがない」

「きちんとわかるように説明してよ」


 アルカの意地悪な言い方に、ハスクの激情が燃え上がる。


 「理由は二つ。まずは食料の確保だ。山を越えるのは今日中には不可能。この辺りには、動きの速い小型跳躍体ウサギの生命反応を多数感知した。二つ目、貴様のマナの練習に、これらの生体標的を狩るのが、ちょうど良い実戦訓練となるだろう」


 アルカは論理的に告げた。マナ運用が最低レベルのハスクでは、今後迫り来る追っての脅威に生き残ることはできない。彼はハスクの生存率という唯一の指標に基づいて動いている。アルカの説明を聞いたハスクは、一瞬にして怒りを失い、自分の浅はかさを恥じた。アルカは常に、ハスクの生存という最優先事項を冷徹に守っていたのだ。


 ハスクは笑みを浮かべ、心からの感謝を伝えた。


「アルカ、ありがとう。私のことをちゃんと考えていてくれたのね。じゃあ、さっそくマナの練習をしましょ!」


 ハスクがすぐに立ち上がろうとした瞬間、アルカはきっぱりと断った。


「却下する」


 ハスクは拍子抜けして、目を丸くする。


 「え?ど、どうしてよ!?アルカが、マナの練習をすると言ったじゃない!」


 ハスクは詰め寄るが、アルカはハスクの動揺を無視した。彼の冷たい青い瞳が向けられた先には、二人の会話から少し離れた場所で、邪魔にならないように無邪気に花を摘んでいるリーネの姿があった。リーネは、二人が大人同士の難しい話をしていると察し、時間を潰していたのだ。


「貴様も練習をするのだ」


 アルカはリーネに語りかけた。


「貴様は魔力を使った魔法の練習をする必要がある。花など摘んでも、貴様の生存率は上がらない」


 アルカの現実的すぎる指摘に、ハスクは思わず声を上げた。


「アルカ、リーネちゃんは平民なのよ!この世界では、魔力運用は貴族階級の特権なの。それが、この世界の理だわ!」


 ハスクは、諦念が滲んだ声で、切実に訴えた。


「貴族の血筋は魔力の発現量が圧倒的に多いの。だからこそ、攻撃魔法や回復魔法など戦闘に特化した高度な魔法を学び、使いこなせるのよ。一方で、平民は魔力量が少なく、戦闘に使えるのは貴族よりも低レベルな魔法に限られてしまう。一般的には、ごく簡単な生活魔法しか使えないのが現状なのよ」


 彼女はさらに、学習機会の格差について説明した。


「それに、貴族は幼少期から家庭教師や魔法学院で、知識も経験も徹底的に詰め込まれるの。平民は親から教わる程度で、まともに学ぶ機会さえ与えられないの。だからリーネちゃんの魔力量で、戦闘用の魔法を習得することはとても大変なことなのよ」


 ハスクの過保護な心配は、リーネの運命への憐憫だった。この世界では、生まれて来た血筋が幼い少女の未来を既に規定してしまっている。


 その時、リーネが花を摘む手を止め、アルカをまっすぐ見つめた。その瞳に、怯えはなかった。


「私も、魔法を覚えたいの」


 リーネは、小さな胸に秘めた強い意志を表明した。


 「アルカお兄ちゃん、魔法を教えて」


 ハスクの過保護な心配は無用であった。両親も家もなくした幼いリーネも、自分の置かれた極限の状況を本能的に悟っていたのだろう。この世界で生き抜くには、力が必要なのだと。アルカは、リーネの強い意志をデータとして認識した。


「そのつもりだ」


 アルカは簡潔に答えた。こうして、ハスクとアルカ、そしてリーネという三人は、生存と使命、そして守護のための、最初の実戦的な練習を開始することになった。



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