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【魔力ゼロ】と嘲笑されて男爵家を追放された私。――実は、この偽りの世界を修復する『古代の究極魔法』を使える唯一の器でした。  作者: ノンカロリー


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紅く染まる川と冷徹な拒絶

 馬車を降り、川辺で食事を終えたハスクとリーネは、しばしの安息の中にいた。リーネは、その光景に興奮していた。


「すごいの、お水がたくさん流れているの!」


 初めて見る広大な川の流れに、リーネは興味津々に顔を水面に近づけた。水の中を泳ぐ魚を見つけると、リーネは大声で叫ぶ。


「お魚さんがいるの!」


 リーネが無邪気にはしゃいでいる姿を、ハスクは妹ができた気分で微笑みながら見ていた。


 ハスクには妹のリリアがいる。しかし、リリアとは一度も会話を交わしたことはない。リリアは、病弱な姉は死んだと教えられており、姉の存在すら知らない。ハスクはリリアが庭で遊ぶ姿を遠くから見かけたことはあっても、奴隷として買われた身と、男爵家の跡取りという天と地ほどの身分の違いから、交わることは一度も許されていなかった。リーネの無邪気な笑顔は、ハスクの辛い過去を思い出させたが、一方、ずっと一人だったハスクの心に家族愛の温もりを思い出させてくれた。


 ハスクはリーネのそばに近寄り、川で泳いでいる魚の名前を教えてあげる。


 「あれはニジマスよ」


 リーネは魚に向かって、「ニジマスちゃん、がんばって泳いでね!」と可愛らしく声を掛けた。ニジマスはリーネの声が届いたかのように水面から飛び跳ね、キラキラと虹色に輝いた。その姿を見たリーネは、「妖精さんなの!」と無邪気に叫んだ。ハスクは笑って答えた。


「そうね。妖精のような綺麗な姿をしているわね」


 長閑な時間は、唐突に別れを告げた。


「お姉ちゃん、見て!急に川の色が赤くなったの」


 リーネの無邪気な声が、突然の惨劇を告げた。ハスクは瞬時にリーネの目を手で覆い川から引き離した。近辺を監視していたアルカはすぐに川へ近づいた。水面は、川上の方向から流れ込んできた禍々しいほど濃い血の色に染まり始めている。


「分析不要。これは人間の血だ」


 アルカは感情のない声でそう告げた。そして、直後、濁流に乗って頭部のない人間の死体が次々と流れて来た。死体の多くは、至高の国アルスの紋章の入った黒ずんだ鎧を着用していた。


 アルカは流れてきた人間を分析する。


「この死体はアルス国の紋章の入った鎧を着ているが、正規軍ではない」


 アルカは死体の首の付け根に刻まれた焼き印を見つけていた。それは、罪を犯した重罪人であることを示すバツ印の焼き印だ。


「これらは、男爵に雇われた犯罪者達と推測される。貴様を追ってこの地へ来て、リーネの町を見せしめに虐殺を行ったのだろう」


 ハスクはアルカに尋ねる。


 「アルカ、何が起きたの?」


 アルカの青い瞳は、川下へと流れる血の情報を処理していた。


「解析完了。川に流されている死体は、全て頭部が綺麗に切り落とされている。しかし、鎧にも体にも、傷一つ見当たらない。これは、仲間割れでもなければ、新たな敵に遭遇したわけでもなく、魔獣に襲われたわけでもない」


 アルカは冷静に状況を整理し、完璧な解析をした。


「体に全く傷がないことと、頭部が綺麗に斬り落とされていることからわかる事実は一つだけだ。彼らは斬首刑に処されたのだ」


 ハスクは、川上へと流れる頭部のない死体群を、震えることなく見つめた。町を襲い、罪のない人々を虐殺した犯罪者集団が、自分たちもまた何者かに粛清されたという事実に、彼女は強い衝撃を受けた。ハスクの心は、もはや恐怖に囚われてはいなかった。彼女には逃げ帰る場所も、隠れる安寧の場所もないことは明白だ。生き残る道は、ただ一つ。アルカの記憶の解放、すなわち七色の湖へと続く北の山、川上にある。


 ハスクは、アルカの冷たい手を握り、静かに、しかし強い意志で命令した。


「アルカ。このまま、川に沿って北上するわ。私たちに立ち止まっている暇はないわ」


 ハスクの瞳には迷いはなかった。川上には死体を築き上げた人物が待ち構えているかもしれない。けれども、ハスクの決断は論理的にも使命的にも正しいはずだ。しかし、アルカの次の言葉は、ハスクの予測を完全に裏切った。


「その選択は却下だ」


 アルカの青い瞳は、無感情な光を宿したまま、ハスクの顔を見据えていた。



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