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【魔力ゼロ】と嘲笑されて男爵家を追放された私。――実は、この偽りの世界を修復する『古代の究極魔法』を使える唯一の器でした。  作者: ノンカロリー


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不器用な守護者

 荒廃した町を出た三人は馬車に乗り込み、北へ向かう道を急いだ。ハスクは、隣で揺れるリーネの小さな温もりを感じながら、昨日の惨劇から気持ちを切り離そうと努めた。リーネから聞いた伝承の通り、町から北の方向には巨大な山脈が見える。南に見える、自分たちが越えてきた山よりも遥かに大きい。


「あの山のふもとに辿り着くには、どれくらいの時間がかかるのかしら?」


 ハスクはふと、無意識に呟いた。すると、馬車を御者台で運転していたアルカの青い瞳が、カチカチという機械音と共に光を放ち、周囲の地形と速度を計測し始めた。一〇秒ほどが経過しただろうか。アルカは淡々と声を発した。


「計測完了。この地点からあの山までの距離は約三〇キロメートル。馬車の平均速度は八キロメートル。馬の休憩は二時間に一度。その結果、ここから四時間四五分で麓に辿り着くと解析される」


 ハスクはアルカの観測結果に感心し、微笑みながら答える。


「アルカは便利ね」

「当然のことだ。これは旅に必要な最低限の機能。計測できない貴様は私に感謝する必要がある」


 アルカは淡々と答える。それを聞いたハスクはさらに笑って答えた。


「そうね、アルカにはすごく感謝しているわ。今後もよろしくね」


 ハスクの感謝の言葉に、アルカはただ「当然のことだ」とだけ答える。


 一方、リーネは初めて馬車に乗ったので、コトコト揺れる振動に最初は怖くて戸惑っていた。しかし三〇分ほどで馬車の揺れにも慣れ、広大に広がる草原の景色に心を躍らせていた。大きな実のなる木を見つけては「あれは何?」と、綺麗な花を見つけては「あれは何?」と、ハスクに質問を繰り返す。ハスクも屋敷から一歩も出たことはない。しかし、大きな庭の手入れをしていた経験と、知識書を読んでいたおかげで、リーネの質問に完璧な答えを返した。


 町から出て一時間が経過した。アルカは馬車を止める。


「私たちが馬車で進んできた道は、国が整備した正規ルートとなる。馬は二時間ごとに休憩が必要なため、整備された道ならば二時間後には馬が休憩できる場所、もしくは村や町がある可能性が高い」


 アルカの説明の意図がわからないハスクは、能天気な答えをする。


「それがどうしたの?とても便利で良いわね」

「貴様の生体プロセッサは壊れている」


 アルカは冷たく言い放った。


 「このまま進めば、王国軍に出くわすか、あるいは貴様を突き出す町に辿り着くだろう」


 ハスクはアルカの分析を聞いて顔を青ざめた。のどかな風景に心が癒され、危機管理を怠っていた。王国軍がまだこの周辺に留まっている可能性はゼロではない。もし留まっていなくても、殺戮の標的となったリーネの町のことを話し、住民を脅迫している可能性がある。ハスクはリーネを守ると決めたのに、自分の不甲斐無さを恥じた。


 黙り込んだハスクにアルカが声をかける。


「王国軍は、生き証人を引き連れて周辺の町を巡回しているはずだ。馬に負担がかかるが、道をそれよう」


 アルカは三〇分ほど正規ルートを馬車で走らせたが、途中で荒れた獣道を見つけて正規ルートをそれた。コトコト心地よい揺れだった馬車は、ゴトゴトと激しく揺れてスピードも半減した。


 馬車を出発させて二時間経過した時、川が流れる音がしたので、アルカは馬車を川の近くに止めて、馬の休息に入った。緊張感を取り戻したハスクは終始無口になっていた。そんなハスクにアルカは淡々と声を掛ける。


「貴様が無口になると、効率が悪い。厳戒態勢を維持するのは生命を保持するために大事なことだ。だが、貴様にはリーネの感情制御する役割がある。周囲の警戒は私に任せろ。貴様はリーネの感情制御に従事しろ」


 アルカの機械的な言葉にハスクは自分の愚かさに気付く。ハスクが無口になったことで、ハスクの緊張感がリーネにも伝染していた。リーネはハスクと同様に無口になり、不安で体を震わせていたのだった。ハスクは顔を両手で挟み、パンと叩いて気合を入れる。


 アルカはその行動を見て、「意味不明、理解不能」と分析する。一方、気合を入れ直したハスクは。気持ちを入れ替えてリーネに微笑みかける。


「リーネちゃん、ごめんね。不安にさせたわね。でも、もう大丈夫よ。リーネちゃんには優秀なアルカお兄ちゃんと、少し頼りないけど私がついているわ。さぁ、馬車に揺られて疲れたと思うから食事にしましょ」


 ハスクは、アルカが廃墟の町で拾い集めてきたパンの残りを分け合い、川の水を汲んだ瓶をアルカに渡して浄化してもらった。二人はそれを、ささやかな、しかし大切な食事として分け合ったのだった。

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